8 そのころのヨシさん
心里さんを送り届け、S県M市に向かう。明日の仕事先だ。
そこは団地(K県)と家(G県)の間にあるため、一旦帰宅せずに直接向かうことにした。アポは明日だから前泊ということになるが、気ままな散歩は嫌いじゃない。
僕はしがない物書きで、最近は知り合いの編集者の雑用を手伝うことが多い。締切を飛ばしたページを埋める記事を書いたり、取材のダブルブッキングをフォローしたり。
今回の仕事もそんな感じの内容だ。──取材のアポをとったはいいが行けなくなってしまったので、代わりに行って話を聞いてきてほしい、ついでに原稿もまとめちゃってくれ、いい感じに。
信用してもらえるのはうれしいが、いつか潰れるぞあの編集部。
予約しておいたビジネスホテルの近くでコインパーキングを探し、車を停める。
運転席から降りるなりウーンと背伸びをした。久々の長距離運転で楽しかった。職業柄、家に引きこもってばかりなので、外に連れ出してくれる心里さんには感謝しかない。
道の駅で買ったおやつと夕飯も持ち、ホテルへ歩いていく。
途中、スマホと繋げたイヤホンを耳にはめた。とあるラジオ番組のアーカイブを再生する。
『未知なる世界への案内、《神秘のニュースをあなたに》のお時間です。今日のゲストは──』
パーソナリティに紹介されているのは、明日私が取材をする相手だ。
リラックスした様子の対談が流れていく。
『──拝み屋、祓い屋、シャーマン。民間呪術師には多岐に渡る呼び名がありますね。占い師とは違う?』
『大きなくくりで言えば同じですよ。得意分野が違うというだけ。最近のみなさんは私を巫女と呼びますが、昔は占い師とも、魔女とも呼ばれたこともあります。詐欺師ともね』
『おおっと、触れると怖いラインをぶっこんできますね』
『私たちは己の能力に責任を持ち、救える人を救うだけ。どう呼ばれても構いません』
イヤホンから聞こえてくる彼女の語りは、凛としていて力強く、それでいて優しかった。この声を不快に感じる者は少ないだろう。
『さすがですね。あなたのお店の予約は半年先まで埋まっているとか。その奇跡の力をここで見せてもらうことはできませんか?』
『構いませんよ』
『おお……』
そこでホテルに着いた。
ラジオの再生を止めてフロントに向かう。
「あっ、出た」
目の前の光景に思わずひとりごちる。
最近のビジネスホテルは受付が無人で、備え付けの端末によるセルフチェックインなのだ。自分のスマホの操作も必要で、おじさんにはちと難しい。
こういう電子機器の操作を強いられるたび、幽霊のほうがまだ扱いが簡単な気がする。そう言うと、心里さんには毎回「それはない」と叱られるのだが。
スマホが鳴った。画面を見ると、メッセージ通知だ。心里さんからだった。
『霊界にもジェンダーレスの波が来てるとかってあるかな?』
なんじゃそりゃ。
向こうで何が起きているんだ?
簡単に返信した後、取材代行の依頼人である知人から電話が来た。
応答すると、謝辞とともに明日の予定のすり合わせが始まる。
ええい、チェックインは後でいい。
僕は仕事モードになって、フロントの隅に行き、手帳とペンを手に取った。




