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48 うしサマ

 村に入ってすぐ、畑仕事をしているおじいさんにじろじろ見られた。


「こんにちはー!」


 こういうときは先手必勝だ。むやみに近づかず、ちゃんと聞こえるように大声で挨拶をした。


「私たち、建築科の学生でして。昔ながらのおうちに泊まれるときいてこちらの旅館に予約してるんです! お忙しいところすみません、旅館へはどう行ったらいいかご存知ですか?」


 怪しいものではないとニコニコしていると、おじいさんはぶっきらぼうな態度のまま、指差して道を教えてくれた。

 深々と頭を下げ、大袈裟なくらい感謝を示しておく。

 するとおじいさんは、興味がないのか、それともあまり聞こえてないのか、ぷいと背を向けて畑仕事に戻っていった。


「僕も学生なんですか?」


「今は年齢関係ないし」


 設定に凝ってもしょうがなかろう。



 スマホで村の写真や動画を撮りながら、教えられた方向へ歩いていく。

 住居っぽい建物の玄関には盛り塩が置かれていて、この村にもそれ系の風習があるとうかがえる。


「公民館だ」


 ヨシさんの視線を追うと、二種類の表札がかかった中規模の木造建築があった。玄関のところに『公民館』『ごがん村歴史資料館』とある。電話で紹介された場所だろう。チェックインのあと寄るつもりだ。


「村の奥にはね、小さな神社があるらしいよ」


「今日明日で回りきれそうですね」


 さらにもう少し歩くと、旅館に到着する。立派な看板があったおかげですぐに見つけられた。


「ようこそ、ようこそ。戸羽様でいらっしゃいますね」


 女将を名乗る老女に出迎えられる。訛りのにじむ敬語に対して挨拶を交わし、靴を脱いで家に上がった。

 玄関、共用の休憩スペース、トイレ。気さくに案内される館内はこざっぱりと掃除が行き届いていて、想像よりもずっと泊まり心地が良さそうだった。

 部屋に入るなり殺虫剤と虫取り網を渡され、ヘビが出ることもあるから心せよと言われたが……。


 あてがわれた部屋は障子で仕切られた二部屋だった。

 片方はローテーブルが置かれた客間仕様で、ガラス戸を開けると縁側のある庭に出られる。

 もう片方は布団があらかじめ敷かれている寝室だ。どちらの部屋にも鍵はかけられない。トイレも風呂も共用で、脱衣所の洗濯機は自由に使って良いとのこと。民宿っぽいというか、まさに昔ながらの旅館だ。


 人とすれ違う気配がなく、貸切状態な気がした。

 この村の状態を考えると、旅行者が来ることもほとんどないだろう。もしかしたら私が電話するまで、この旅館は長いこと客を待っていたのかもしれない。


「お食事は時間になったらお持ちしますね」


「この村って、玄関の外に塩を置く風習があるんですか?」


 宿泊に関する説明を終えた女将が部屋から出て行こうとしたとき、ずっと気になっていたことをたずねた。


「ああ、あれね。《うしサマ》に立ち寄っていただくための塩ですよ」


「うし? 牛肉とかのうし?」


「牛によく似た神様って教わりましたけど、どうでしょうねぇ。──塩は穢れを吸収してくれるでしょう。だから、家の中を清浄に保つために盛り塩を玄関の内側に置く。一ヵ月くらいしたら交換して、古いものは玄関の外側に出してうし様に回収してもらうんですよ」


「なるほど?」


 牛は塩を舐める習性があるからだろうか。朝露や雨で古い塩が消えていく様を、牛(の神様のようなもの)に回収してもらったという解釈にしているのかな。


「詳しいことは公民館の資料のほうがわかると思いますよ。夜は雨が降りますから、玄関の傘を持っていってくださいね」

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