47 ごがん村に行こう!
「背中にガラスが刺さるくらいで済んだけどさぁ」
背もたれに体重を預けるときにちょっと痛むけど。助手席のシートベルトを着用しながら運転席のヨシさんへそう話しかけた。
「空調かなんかの異常で車内に排気ガスが充満してたんですってね。運転手さんも無事で良かった」
「あの事故も野蕗ちゃんの仕業だと思う?」
「……証拠が無いですからねぇ」
桔梗さんと三人でファミレスランチをしていたら、偶然そのテーブルへ乗用車が突っ込んできた。《《幸運にも》》三人とも無事だったが、運が悪ければボーリングのピンもかくやだった。
私とヨシさんは今、ごがん村へ向かっている。
高速を抜け、市街地も走り抜けてひたすら山道を上ったり下ったり。対向車はほとんどなく、野生動物や落石注意の看板がそこかしこにあった。
ごがん村のことはネット上にほとんど情報がなく、勉強するには現地に赴くしかなさそうだった。
一軒だけ旅館があることを突き止め、電話をしてみたらちゃんと営業中で、予約を取ることもできた。
その際、村の歴史資料館があることも教えてもらった。営業日もしっかり確認した。
桔梗パパがやった儀式について、桔梗さんからもいくらか話は聞いたが、自分でも調べたかったからだ。
「あの怨霊、殺意高いアプローチするようになってきたけど、なんだかんだ桔梗パパの儀式が正解に近かったからかもねぇ」
「祓われないように抵抗している証、ということですか」
「そー。だから私たちのこと、村まで追いかけてくるかなぁ」
桔梗さんは一旦、ヨシさんの家に泊まってもらっている。説明を省いたので困惑しているようだったが、「ここは安全な場所だから、信じて」と押し切った。旦那さんにもうまいこと根回ししてある。
「心里さんとしては嬉しいんじゃないですか? こんなに過激に構ってもらえて」
「うーんでもね、私はアジアホラー派なんだよ」
「というと?」
「破壊で怖がらせるのは二流だね」
「辛口ですねぇ」
山道が開けて、ようやく建物が見える。山小屋と野晒しの駐車場だった。
「旅館の予約したときに言われたかも。村に来客用の駐車場がないから、ここに停めてあとは徒歩で行かなきゃだ」
「今日はスニーカーにしておきましょうかね……」
和装を好むヨシさんは運転時以外は草履だが、今日ばっかりは運転用のスニーカーのまま車を降りることを選んだようだ。
「履き替えたところで、クマやイノシシに狙われたら同じだよ。好きな格好したら?」
「村が燃えたら走って逃げることはできるじゃないですか」
「探索ホラーハードアクションゲームじゃないから」
それもそうか……と草履に履き替えていた。足元がしっくりきて嬉しそう。
軽トラックがかろうじて通れそうな山道を歩き進む。
のどかな風景の中、どこからか川の音も聞こえた。
「あ」
折り返した下り坂の向こうに、古い集落が見えた。呪われた家にあった写真と同じ、独特な作りの家がぽつりぽつりと並んでいる。
様々な理由で無人になった家がほとんどで、人口が少ないうえ半数以上が高齢者。限界集落もいいとこらしい。
「あれがごがん村かぁ」
念のため、尻ポケットからスマホを取り出して画面を確認する。うん、圏外だ。お約束だね。




