39 呪われた家【1】
法を犯すことの心配はするものの、怪異への興味は私と同じくらいあるヨシさんは渋々運転してくれた。
夜道をヘッドライトで照らし、車はどんどん山寄りの田園地帯に入り込み、景色から民家が減っていく。
到着した先は、林に囲まれるようにぽつんと建つ一軒家。
「ここが知る人ぞ知る幽霊スポットだねー」
車から降りて建物を見上げる。
門扉の向こう側は雑草が伸び放題、玄関扉は外れ、玄関は雨風に晒されてぼろぼろだった。外壁にはスプレーでらくがきされている始末。人が住んでいないのは明らかだ。
まばらにある近所の家も売地の看板がかかっていて、周囲には散歩する人間の姿も、通りがかる車もない。さみしい土地だ。
「この家も燕原小と関わりがあるんですか?」
同じく車から降りてきたヨシさんに「うん」と答える。
「燕原小の《雪の日限定の盛り塩風肝試し》ね、流行った翌年には禁止行為になったんだって。信じてパニックを起こす生徒が現れたから。そしたら、怪談の内容がアップグレードされて、この家に舞台が移ったみたい」
「舞台が移る? 花子さんがこっちに現れるってことですか?」
「ううん、花子さんに祟られた家族の幽霊が出るの。かつ、置くのも雪から塩に改変されて、季節関係なくやれる肝試しになってる」
門扉の前に立って敷地を覗き込むと、玄関ポーチに盛り塩が置かれているのが見えた。長く放置されているようで、土埃や雨水を吸って薄茶色く汚れている。
「今も誰かいたずらしてるんだね」
「もういたずら認定ですか」
「いやー、幽霊が本当だとしても、塩を置くのはアパートと同じパターンでしょ。肝試ししたい若者の遊び場だよ」
ネットの情報によると、この家を相続した人は関わるのを面倒がってほったらかしにしているらしい。被害届が提出される可能性の低さから、廃墟探索者には格好のスポットである。
「一応聞きますけど、夜まで待ってここにきた理由ってなんですか?」
「そりゃ、失くしたカバンを拾いにいくためだよ」
肩にかけていたカバンをつかみ、門扉の向こう側へ放り投げ……違う、たまたま向こう側に落としてしまった。大切な財布が入ってるから、取りに行かなきゃな~。
「……心里さん」
「ヨシさん、すぐ戻るから、人が来ないか見張っててね」
何か言いたげなヨシさんを無視し、錆びた門扉を押し開ける。隙間に体を滑り込ませた。
雑草に埋もれた落とし物を探すフリをして建物のほうへと歩いていく。
無いな~。カバン無いな~。もしかしたら家の中に転がってっちゃったかもな~。
扉が外れて防犯のボの字もない無防備な玄関を覗き込む。真っ暗な闇をスマホのライトで照らしながら足を踏み入れた。
ざりっ。土と枯れ葉まみれだ。足を怪我しそうなので土足のまま失礼する。
カビくさい廊下を進む。家内にもスプレーのらくがきが縦横無尽に走っているし、棚という棚が開け放たれて荒らされていた。金目のものはすべて盗まれていそうだな。
みしっ。みしっ。歩くたび床板がイヤな音を立てる。
──バキッ!
「ギャッ!!」
気をつけようと思った矢先に床板を踏み抜いていた。とっさに壁に手を突いて転倒はまぬがれた。
危ない危ない……幽霊とは違う怖さがある家だ。
「今の音なんです!? 大丈夫ですか!?」
声がするほうにライトを向けると、ばたばたとヨシさんが追いかけてくるのが見えた。
「なんだ、結局来たんだ」
「外に立ってるほうが目立つんですよ。あと、やっぱり心里さんを一人で自由にさせるほうが心配です。早くカバン見つけて帰りますよ」
「はーい」
すぐ目の前に扉があった。開けると居間らしき部屋に出る。
ライトを上に向けると、思ったよりも天井が高い。ぐるりと部屋全体を眺めて感心した。昔ながらの日本家屋をベースに、西洋っぽいデザインも取り入れているしゃれた内観だ。金をかけた家なのだろう。朽ちる前はさぞ住み心地も良かっただろうな。
カバンを探すという建前をうっすら忘れながら物色していく。
テーブルの裏も、カーテンの裏だって見ちゃう。心霊写真でも撮れれば御の字だとスマホであちこち撮って回った。
幽霊本人が登場してくれたらそれが一番だが……こういうとき、霊感の強い味方がいればいいのになぁ。
「で、各地に散る《盛り塩の怪談》ってつまり、野蕗ちゃんの霊が引っ越したクラスメイトを追いかけた結果ってこと?」
車の中での話が途中だったことを思い出し、背中を向けたままヨシさんに声をかけた。




