37 燕原小学校の花子さんにまつわる話【2】
* 垂川桔梗の話:
後輩の間では《雪の日の花子さん》という七不思議が広まっていたようなんです。
内容を聞いてすぐに気付きました。
モデルになった子、同級生の子だって。
野蕗ちゃんという子が、ある冬に校舎の女子トイレで亡くなりました。
噂にある通り、あの子はずっと同じグループからいじめられていて、エスカレートした結果の悲劇です。
大人たちは子供にショックを与えないよう開示する情報を絞ったようですが、結果として噂話が下の学年に受け継がれてこんな怪談になってしまったんですね。
そのあと廃校が決まって、生徒が別の小学校へ再編成されたから、怪談もうやむやになって忘れられたと信じています。
野蕗ちゃんのことがそんなふうに語られるのは気持ちの良いものではないですから……。
彼女の祟りを信じるかって?
信じるも何も、私は霊能力者ですよ。
彼女が成仏できていないことは始めからわかっていました。
クラスで起きる不幸のほとんどが、彼女によるものだと気配で伝わってくるから。
だからあの学校に通うのが怖くて、親に無理を言って転校したんです。
彼女から逃げたこと、大きな間違いでしたけどね。
野蕗ちゃんをいじめた子たちはこの十何年のうちに亡くなりましたよ。全員かまでは知りませんが。
下哭さんがおっしゃっていたアパートの一家心中、穂土井さんのお宅ならそうです。
野蕗ちゃんは復讐のためにまだこの世に留まっています。
さらには、いじめと直接関わっていないクラスメイトも標的になっているみたいで……。
隠しても仕方がないので言いますが、了栗団地で水死したのは私の妹です。
……言っておきますが、私はいじめていませんよ。
低学年のころは一緒に遊ぶこともあったくらいの、ただのクラスメイトでした。
とはいえ、いじめを傍観していたことが罪と指摘されたら何も言えません。
私は、川の中へ妹を引きずりこむ野蕗ちゃんを見ました。
ひどく後悔しましたよ。
私が逃げたから、向き合わなかったから、大切な妹が……。
いじめっこも、傍観したクラスメイトも、役に立たなかった教師も、みんな、野蕗ちゃんにとっては憎い相手なのでしょう。
彼女は、命を奪うだけが復讐ではないと──大切な物や人を奪うほうが苦しませられることを──理解している。
だから私は、秘諸姫を名乗ることにしたんです。
多少なりとも有名になったことで、話したことのないクラスメイトからも連絡がくるようになりました。
おかしな不幸に関する相談が主です。
私にはあの子を浄化するほどの力はありません。
でも、あの子がこれ以上誰かを傷付けないように、誰かが傷付かない努力をすることはできる。
もう取りこぼしたくない。
だから。
こんな事情ですから、子供も望まず生きてきました。
いつ彼女が私の前にも現れるかわかりませんから。
そのときは運命を受け入れるつもりで。
けれど、いよいよ老いた親に懇願されると、孫の顔を見せてあげたくなってしまうものですね。
夫にもすべてを打ち明けて、それで……このお腹です。
ネイリストも、秘諸姫様も、しばらく店じまいです。
私は彼女の友達として、母親として、準備することにしたんです。
むずかしいとわかっていても、虫が良いと言われても、この子だけでも守りたいから……。
下哭さんにも事情があるようですが、野蕗ちゃんは危険な存在です。
踏み込みすぎないでください。
どうしました?
こんな状況でも他人の心配をするのか、って?
確かにそうですね。下哭さんを利用して野蕗ちゃんのことを調べさせれば、一人で動くより良いのかも。
でもやっぱり、危ないですから。
誰も巻き込ませず、誰も傷付かない方法を探したいんです。
悲劇の連鎖を止めたいだけで、殺し合いがしたいわけじゃないから。
……あの子のおかげですね。
あの事件がなかったら、私は今でも他人に無関心なままだったでしょう。
あの子が優しさを教えてくれたんです。
皮肉なものです。




