26 ゆるあわたち【4】
三人の若者が降りると、ワゴン車は人目を避けるように走り去っていった。
残った男女は周囲に人がいないことを確認して、アパートの敷地内に入ってくる。
「あれ、無いじゃん。昨日はあったんでしょ?」
「先輩は置いたって言ってたけど」
「ボロさが雰囲気あるなー。俺たちも暗いうちに撮るほうが良かったんじゃね?」
「先輩のと被りすぎると気まずいだろ」
「それよかほれ、持ってきといて良かったわ」
リーダー格らしき男がリュックから取り出したのは、スーパーでよく見る食塩の袋だった。
彼らの目的を理解する。
「手を濡らすと固めやすいらしいぜ」
ペットボトルの水で手を湿らせ、ひとつかみの食塩を成形しはじめた。
仲間の女がスマホをかざし続けているのは動画を撮っているからだろう。
「誰も知らんオカルト紹介するより、何番煎じだろうがホットなスポットをやるほうが伸びるの、時代だよなー」
「食べ歩き紹介動画でもみんな同じ店行ってるしな。大事なのは新鮮さより映えよ映え」
彼らはせっせと部屋の前に盛り塩を置いていく。外階段を使って二階にも。
それを自分らが来たときには存在していたかのような態度で撮影している。
「ギリ許されるヤラセと、ダメなヤラセがあるやろがい……!」
そう呟き、物陰から出て行こうとするとヨシさんに止められた。
手に握るスマホを指差される。──彼の意図を汲んで頷き、カメラアプリを立ち上げて彼らを撮影した。
何事も証拠が大事だよね。
彼らの会話を聞く限りだと、昨日の昼に私が掃除した盛り塩にも、過去の盛り塩にも配信者が関わっていそうだ。
確かに、ここのところ《盛り塩禁止アパートの怪談》は注目されていて、ショート動画の再生数が伸びやすい。私も動画から存在を知った。
「ねぇ、片付けなくていいの?」
「いいんだよ。他のヤツが目撃してくれればホラーの説得力が上がるからさ」
あいつらの財布から免許証抜いて住所に盛り塩しに行ってやろうか。
ぽむ。肩に手を置かれた。まだ何も言ってないのにヨシさんが私の目を見てゆっくりと首を横に振る。なにそれ、今すぐここで処刑したほうがいいって意味?
まったく腹が立つ。
《盛り塩禁止アパートの怪談》の正体は配信者が受け継ぐ悪質な創作怪談だったわけだ。
不届者が怪奇写真を撮るために現場をねつ造し、使った塩を放置して帰っているというだけ。
そもそもの始まりであるネットの掲示板の書き込みから仕込みだった可能性さえある。
あのアパートの数少ない住人の2/3は仕事やらで不在がち。残るおばあちゃんは……たぶん耳が遠くて外の音が聞こえてない。
うまく噛み合って謎が謎のままになっていたのだろう。
見張り役が「あっ」と声を上げた。
「人が帰ってきた! 行くぞ!」
正面から道路に出ると鉢合わせるため、彼らはアパート裏の塀を乗り越えて逃げていった。
私たちも隠れたままでいると、ランニングに出ていた女性が帰ってきた。玄関扉の前にあるものを見て、わかりやすく怒りの表情に変わる。
「あの二人……ッ!」
あれっ。違う違う違う。私たちが一つの盛りパンを一対の盛り塩に増やして置いたわけじゃない。
「違うんですッ」
物陰から飛び出ると、女性は悲鳴をあげた。
あっ、びっくりさせてごめん。




