22 しおしおのおしり【3】
ズボンのポケット?
手を入れてやっと思い出した。アパートからくすねた塩だ。すっかり忘れていた。
濡れたティッシュが手の中でぼろぼろと崩れる。塩は溶けて跡形もない。
パァン!と尻を平手打ちされた。じんじんするほど痛い。ママにもスパンキングされたことないのに。いまなんで叩かれたの?
「バカなことしてるとロクなことないよ」
「ひゃい」
濡れた顔を袖で拭って、やっとマトモに相手を見る。
濃い化粧がどろどろに溶けてすごい顔になっているボーイッシュゴスパンク姿の女だった。偶然道を通りかかって助けてくれるキャラクターにしては濃いな。
二人で用水路の中からよじ登って道路に上がる。
そして彼女は道の脇に乗り捨てたバイクを起こすと、何事もなかったかのように走り去っていった。
「……あ、お礼を言い忘れた」
また会うことがあるだろうか。
あんな派手な人なら、街中で会えばすぐにわかりそうなものだ。
■
びしょ濡れで車に戻ると、ヨシさんは声にならない悲鳴をあげながら運転席から降りてきた。
「大丈夫、コンビニに寄って服買ったし、近くのホテルの予約もとったから、シャワー浴びて着替えてくる」
車は汚さないよと気を遣ったつもりだったが、首根っこをつかまれて後部座席にぶちこまれた。ホテルの名前を聞かれ、答えると同時に車のエンジンがかかる。
「なにがあったんですか」
「溺れた犬を助けた」
「偉い! でも次からは自分で行かず通報してください!」
「はーい」
私の性格よくわかってるんだから、いちいち心配しなくていいのに。
服は濡れておじゃんになったが、スマホが無事ならノーダメージだ。
窓の外を見る。もうこんなに夜になっていたのか。
過ぎ去っていく街灯の光を眺めながら、さっきの不思議な体験をぼんやりと思い出していた。
あの幽霊、飼ってる犬に猫科の名前付けてんだ。




