20 しおしおのおしり【1】
盛り塩を置かれない方法を考える──そのためには犯人を知る必要があるだろう。
結局、車をアパートから少し離れたところに路駐した。ここから、犯人が来ないか夜通し見張るのだ。
「大家さん、防犯カメラにお金払いたくないんだって」
夜でも使える暗視機能付きなら本体も高額になり、設置費用もバカにならない。盛り塩というイマイチ実害の少ない迷惑行為に対してそこまでの金を捻出できるかといえば難しいようだ。
車の窓を少し開け、私は望遠鏡で見張り、ヨシさんはいつでも証拠を押さえられるようにカメラを膝に置いている。ドリンクホルダーにはじゃがりこ。
「刑事ドラマみたい」
「怪しい人を見つけたら、大家さんが困っていること伝えればいいんですよね」
「犯人シバくのは手っ取り早いね。呪術師か愉快犯なのかもハッキリさせて、詳しく話を聞きたいな。あのアパートになんの恨みがあるのやら」
「塩が不幸を呼ぶっていうのも不思議です。盛り塩って清めの力がありますよね? そのあたりの理屈はどこに言っちゃったんでしょう」
「うーむ……」
あれやこれやと雑談するもやがては話題が尽き、私はスマホをいじり、ヨシさんは小説を読み始めた。静かだ。
カラスが鳴いている。空が青と茜のグラデーションになりはじめたころ、退屈で眠くなってきた。
「……ちょっと散歩してきていい?」
車の外で背伸びをするヨシさんにそう声をかけ、望遠鏡を託した。
■
風が涼しい。一人でぶらぶら歩いていると、アパートの裏側に出た。
住宅街の中にぽつんと公衆トイレが立っている。男女一部屋ずつと、多目的トイレ。わりと新しい設備に見える。
「これが塩の捨て場所として話題になってたトイレ?」
近づいてみると、側溝のそばに茶色い小山を見つけた。雨で溶けきらず、固まった塩の丘だ。泥で汚れて茶色い。そりゃ役所も怒るわな。
尿意を思い出し、女性用のほうに入った。
用を足し、手を洗ってから隣の自販機で自分とヨシさんのコーヒーとカフェオレを買う。
犬の鳴き声が聞こえる。
振り返ると、小学生くらいの小柄な女の子が犬を散歩させていた。
あの可愛いワンピース、なんかよく見るな。流行りの柄なのかな。
「てか、あんな子供が一人で犬の散歩って……」
そういうものなのか? 危なくないか?
曲がり角に消えていく後ろ姿が気になり、ふらっと追いかける。




