17 真偽のほどは【3】
暮れから夜に変わる空の下を、車がぐんぐん走っていく。
スマホの通知が鳴った。画面を見ると、サトウさんからお礼のメッセージが届いている。
返信の文面を打ち込みながら、ふと保留になっていたヨシさんとの話を思い出した。
「その爪、どこでやってもらったの?」
ハンドルを握るヨシさんの手は、信じられないほど和柄ギャルだった。ネイルの完成度が良すぎてちょっと羨ましい。
「《秘諸姫様》って知ってますか?」
「聞いたことないな」
「霊能力者系は範囲外なんですね」
「あー、取材対象がネイリストで霊能力者だったんだ?」
こくりと頷いたヨシさんは、横目で私を見た。
「邪気を塩に封じ込める力って、あると思いますか? しかも、塩は黒く染まるんです」
「ほほーう。そうやって聞いてくるということは、ヨシさんはトリックがあると思ってるんだ?」
「……魔を祓う力が本物なら、僕の望みを叶えてくれるかもしれないじゃないですか」
「そゆことね。信頼に値するかを知りたいんだ。じゃ、聞かせてよ、ヨシさんが目撃したままの奇跡を」
「念の為に言いますけど、ニセ霊能力者だったとして、それを白日の下に晒したいわけではないですよ」
お、ヨシさんその人のこと気に入ったんだな。ホンモノなら嬉しいし、ニセモノでも庇ってあげたいと思う程度には。
きっと、金儲けの匂いがしない、人が良いヒトなんだろう。
「わかってるよ。ネットに書いたりしないから」
「苦悩する人を慰める方便に罪はありませんからね……」
そうして、彼が見聞きした話を静かに聞く。理路整然とした彼の語りは聞いていて心地良い。
次第に秘諸姫と呼ばれる女の手口が頭に思い浮かんだ。実際に見ていないぶん、推測の域を出ないが。
「なるほど。……その塩さ、」
「あ、サーモ顔料はナシですよ。それなら僕にだって見破れます」
「ネイル用の特殊なパウダーと混ぜたあと、普段は冷たい瓶の中に入れといて、握ると手の温度で色が変わるように……エン……エンエンエン……」
先手を打たれてしまった。
もう少しヒントが欲しくて、秘諸姫様でネット検索する。
ふーん、この人、出張活動もしてるんだな。S県の店舗以外にも、サテライト店をあちこちに寝かせているようだ。てか、ヒモロキってなんか聞いたことある。どこで見たんだっけ……。
「変に疑ったりせず、素直に相談するほうが早いですかね」
深く考えもせずにそんなことを言うものだから、私はヨシさんをキッと睨む。
「そんなのダメ。霊能力者を公表するヤツは富か名声か妄想に取り憑かれたイカレポンチって相場が決まってるの。ヨシさんのことを知ったら絶対悪用するよ。同人誌みたいに鎖のついた足枷で座敷牢に幽閉されちゃうんだから」
「あなた普段どんな本を読んでるんですか?」
さらなるトリック案を出してみたが、ヨシさんはどれにも納得していない様子だった。難しいな。
ネタ切れになり、見破れないと認めるのも悔しいのでしれっと話題を変える。
「ね、団地にいるとき塩のオカルトについて調べたんだけど、《ひろきくん》みたいな盛り塩の話が全国にあるって知ってた?」
「バリエーションがあるってことですか?」
「例えば、T都の富弥町にあるアパートの怪談。団地のは守護の塩だけど、こっちは逆。呪いとして扱われてるんだ。興味深いよ。《盛り塩禁止アパート》」




