16 真偽のほどは【2】
サトウさんと別れ、ヨシさんとの待ち合わせ場所に向かう。
彼の車はすぐに見つかった。
小走りで駆け寄る。
後部座席の扉を開け、手荷物を放り込んだ。
「それなんですか?」
運転席からこちらを振り返るヨシさんは、私がさっき寄ったスーパーの袋たちを不思議そうに見ている。
「ローカル食材。こういうのヨシさん好きでしょ?」
他県まで足を伸ばしたときはこれに限る。地方限定カップ麺などのインスタントだけではなく、餅や野菜、調味料なども。何を隠そう。私は料理が得意である。
ヨシさんは上機嫌になって「好きな曲かけていいですよ」とドライブBGM決定権を譲ってくれた。
助手席に乗り込むと、スムーズに車が発進する。
「ん? ──なにその指!?」
ハンドルを握るヨシさんの手が視界に入って、違和感に気付いた。
いつからネイルの趣味が?
「話せば長いんですが、かわちいでしょう?」
「かわちい」
「どうも」
このおじさん、どこに向かうつもりなんだろう。ドライブの先ではなく、キャラクターの方向性的な意味で。
「で。オカルト方面の収穫はありました?」
「……まあ、サイトのネタにはなったよ」
濁した言い方から、イマイチだったことをヨシさんも察してくれたようだ。
昨夜のあれは、説明のつかない部分を考えるほど「私が見たくて見た夢」としか思えなかった。
ひろちゃんだってどうせ、恥ずかしがり屋で素早いだけの団地の子だ。すぐそばに公衆トイレがあったんだから、その中か裏側に回られれば見失う。
なにより「やっぱり」と思ったのは、サトウさんの体調不良について。
彼女をタクシーで連れて行った先は内分泌科つまり病院だった。
初めて会ったとき、首が腫れているように見えて「もしや」と思っていたが……結局、予想した通りのとある甲状腺疾患だったわけである。彼女の感じる違和感や体調不良、おおよその説明がつく。首の前側が腫れるのも特徴的な症状のひとつだ。
ぼんやりした症状は伝えるのが難しく、内科などでは見逃されやすい。ひどい動悸から過呼吸を起こした際に心療内科を勧められ、他の科にかかることなくストレスを和らげる薬を飲み続けていたようだ。そりゃ症状は改善しないし、悪化もする。
そういった薬は悪夢の引き金にもなることを考えると、ノックの話も現実かどうか怪しくなってくる。
彼女は不調の原因が分かってホッとしていたから、それについては良かったが。
盛り塩団地はホンモノだぜ──と、ヨシさんに言えるはずもなく。
子供がたくさんいる場所ではいろんな事実や噂が──それこそ過去の事故などが──混ざり合い、怖い話が簡単に生まれる。《ひろきくん》はホンモノではなく創作怪談だろう。
子供から始まり、大人も祟られる「かもしれない」から魔除けを続けている……というのが無難な結論。
「足りないなぁ。恐怖が……」
「え、この爪けっこう気に入ってきてたんですけど」
「それじゃなくて」
私はもっともっと怖い思いがしたいのだ。
後悔したっていい。
むしろ、後悔するほどじゃなきゃ、燃えない。




