13 ヨシさんの取材【2】
女性を壁際の長ソファに座らせた桔梗は、作業机から白い細粒で満たされたガラスポットを手に取った。
蓋を開け、長ソファ前のローテーブルに置く。
「塩をひとつかみ取ってください」
指示に従って女性は透明なポットの中身を掬い、手のひらを見せた。大さじ一杯ほどの塩がそこにある。
桔梗は隣に座り、女性の手を両手で包み込んで握らせた。
顔を伏せ、祈るように目を閉じる。
数秒ほどして顔を上げると、女性の手を開かせた。──なんと、さっきまで真っ白だった塩が黒く染まっている。
私も女性も、正直に驚いた顔をしてしまう。
「邪気をここに封じ込めました。もう大丈夫ですよ」
「あ……ありがとうございます! ありがとうございます!!」
黒くなった塩をティッシュの上に落とさせると、それを丸めてゴミ箱にポイと捨てていた。
よく見るとゴミ箱は二種類あり、蓋のないほうが普通ゴミ、蓋があるほうが邪気ゴミで使い分けているようだ。
女性はホッとした様子で、緊張が解けて泣き出してしまった。
しゃくりあげる肩を撫でてやり、桔梗はガラスポットの塩をいくらかボトルペンダントに移し替え、お守りだと渡していた。
「今日のような時間でいいですから、なるべく早くお友達も連れてきてください。もう霊を刺激するようなことをしてはいけませんよ」
「すみません……気をつけます」
女性は落ち着きを取り戻して、笑顔で帰っていった。
見送る桔梗も心なしか嬉しそうだ。
それから、私のほうを振り返る。
「お待たせしました。続きをしましょうか。左手を出してください」
あ、インタビューじゃなくてネイルをね。やりかけは気になるのかもしれない。けっこう職人気質だ。
大人しく席に着いた。
質問をすれば回答が返ってくるため、取材の進行に問題はなかった。
同時に、着々と爪にジェルを塗られていく。「手を入れてください」の先にあるものがドーム型のネイル硬化用ライトだと始めて知った。
四十路男の骨ばった指先が飾られ、そこだけ華やかだ。硬化した後の爪はカッチカチで、擦っても色がまったく落ちない。これは後からどうやって取るんだろう。わあ、色を塗った上にビーズみたいなの乗せてる。何回「手を入れてください」って言われるんだ。何層なんだ、ネイルアートって。
「男性客もいらっしゃるんですが、長さを整えるくらいで、塗らせてもらえることはほぼ無いんです。だから……とても嬉しいです」
言葉の通り、桔梗はほくほくした顔でブラシを動かしている。色もずいぶんと悩んでくれていたし、真剣なのは充分に伝わってきた。
「滅多に無い経験をさせていただけて、僕も勉強になります」
「下哭さん、普段からずっと和服なんですか? 似合っていて素敵です。着物と合う仕上がりにしましょうね」
「すごいもんですねえ」
細い筆で透明な線を描いたかと思ったら、そこにパウダーがまぶされ、繊細に輝くラインが浮かび上がった。
私にとっての身近な女性は母か心里さんくらいだ。どちらもネイルをしているところは見たことがない。今日得た知識や、このつよつよな爪を自慢してやろう。
無事にインタビューも終わり、仕上げのネイルオイルも塗ってもらった。
手からいい匂いがする。




