12 ヨシさんの取材【1】
駅前のメイン通りは朝から賑やかだ。立ち並ぶ店舗ビルのひとつ、その三階に目的の店はある。
エレベーターを降りるとネイルサロン《咲小町》のプレートと扉があり、開けるとリンとドアベルが鳴った。
清めの巫女《秘諸姫様》のインタビューにあたり、指定された場所がここだった。彼女は霊能者として名を馳せたが、本業はネイリストなのだ。
スピリチュアル界の新星……有名人の店にしては小ぢんまりとしている。しかし、立地や内装の丁寧さをふまえればけっして安上がりな店ではない。
「いらっしゃいませ」
ドアベルの音を聞いて、奥から女性が現れた。
動画などで予習をしていたので、彼女が秘諸姫様本人だとすぐにわかった。
本名、垂川 桔梗。動画の中と同じ、薄い化粧にカジュアルな服装での出迎えだった。
僕は懐の名刺を取り、差し出す。
「はじめまして。怪昧舎から参りました、下哭と申します」
「よくおいでくださいました。本日はよろしくお願いいたします」
名刺を受け取る指先はシンプルなネイルで飾られていた。
微笑みは柔らかく、控えめな印象の女性だ。けれどそれなりの歳ではあるからか、妙に色気がある。酸いも甘いも知り抜いたような女の余裕がうかがえた。
「作家さんなんですね。作品、拝見してみたいわ。──立ち話もなんですから、こちらへどうぞ」
会社の名前が載った名刺は持ち合わせていないため、私自身のものを渡した。委託で来ていることなども説明しつつ、奥の部屋へと移動する。
そこはネイルの施術室で、客がリラックスできるようリビング風の内装だった。テレビもあり、一昔前に流行ったドラマが流れている。
「いつもここでお客様の鑑定をしています。ネイルをしながらのことも多いですよ。してみますか?」
「チャレンジ精神はあるほうですが……」
「ふふ、遠慮なさらず。どうぞおかけになって。何からお話しましょう?」
すすめられた椅子に座ると、テーブルを挟んだ向かいに桔梗も座った。
細長いテーブル上にはネイルアートの様々な道具やサンプルがある。
手を出すように言われ、遠慮しようとしたがあれよあれよといううちに右手を取られて爪の形を整えられていく。うわ、甘皮って切ってしまっていいんだ。
手元のことに注目してしまいそうだっが、目的を忘れてはいけない。
承諾を得てスマホで録音を開始しながら、インタビューを始める。
「秘諸姫様は……」
「桔梗で良いですよ。正直なところ、そう呼ばれるのはくすぐったくて」
「では桔梗さん。独立して店を開いたのが四年前、秘諸姫様と呼ばれるようになったのはそれから程なくしてですね。大きなきっかけなどはあったんですか?」
「私のこと、よく調べてくださっていますね。ネイルの施術は時間がかかりますから、雑談がてらお客様の悩みを聞くことも多いんです。プライバシーもありますから詳しくはお話できませんが──」
リンリンリン。ドアベルが鳴った。誰かが入ってきたようだ。
サロンの営業時間は午前と午後に分かれていて、今は休憩時間だ。扉にもクローズの札がかけられているから、普通ならドアが開くことはない。
桔梗も不思議そうな顔をしている。
「少々お待ちください」
そう言って彼女は席を立った。
盗み聞きするつもりはないが、狭い店内故に待合スペースの会話が聞こえてくる。
「あら、中村さん」
「助けてください、呪われてしまったかもしれません」
「落ち着いて。何があったんですか?」
「先週、友達とオカルトスポットに行ったんです。それからずっと変なことばかり起きて」
「……どうぞ中へ」
二人分の足音が近付いてきて、僕は何も聞いてませんとばかりにテレビのほうを見た。
桔梗に連れられて中村と呼ばれた女性が部屋に入ってくる。顔色は悪く、怯えた表情だった。手には可愛らしいネイルが施されているが、爪が伸びて根元に自爪が見える。ほどほどにこのネイルサロンの常客なのだろう。
「下哭さん、すみませんがもう少しお待ちください」
「構いません。席を外しましょうか?」
「すぐに終わりますから」




