アイ、想う姿
未だに闇の晴れない世界。
微かな希望を想い描くも、重い空気はそれすら飲み込む。
ハイネスを先頭に進む集団は、離宮の中庭に戻っていた。
そこには、ウェイス率いる集団が控える。
集団は、彼が率いるからと言って非戦闘員だけではない。
顔ぶれは、彼が信頼をおく冒険者で有ったり、
少数精鋭から洩れるも第一王子派閥の中では上澄みの者達だ。
集団からは、小さな騒めきが起こる。
「やりましたね、ベーゼン様」
「王子・・・ボロボロじゃない・・・でも、無事そうでよかったぁ~」
「あれじゃ、軟禁なんて嘘だな・・・・
ベーゼン様の言葉を妄想って・・・少しでも疑っちまった俺はバカだよ」
「次は、イセリナ様の奪還だよね・・・・ん~・・・考えちゃダメよ私」
様々な言葉の裏には、国への疑問が見え隠れする。
しかし、ヨハン達の表情が分かる距離まで近づくと、
彼らの上ブレた想いには皹が生じた。
それは、ウェリスも同じ思いである。
ウェイスとベーゼンは互いを労い言葉を交わす。
そして、集団と少し距離を置き二人は情報共有を行う。
ウェイスの声は少しだけ震えを孕んでいた。
「ベーゼン・・・無事でよかった。
次は北棟だな。
俺達は予定通り王子を先に連れて脱出する。
おい、聞いているかベーゼン」
ウェイスの声は、優しく相手に寄り添う様だ。
しかし、彼の言葉が業務的である事は拭えない。
状況が状況であると言ってしまえばそうだろう。
だが、優しすぎる言葉は逆に、重すぎる事がある。
まさに、今のベーゼンにはそうだった。
ベーゼンは、表情を引き締める様に両頬を叩く。
瞳の淀みは払われ、いつもの彼女がそこにいた。
「いつもありがと、ウェイス。
よしっと・・・そうね、イセリナ様の奪還。
ねぇ、何か変わった情報はあった?」
両頬を紅くしてはいるが、凛とした表情でベーゼンは問う。
だが、何処か締まらない。
彼女らしい姿と言えば失礼だろう。
しかし、ウェイスにとってはそれが嬉しかった。
ウェイスは小さく微笑むと、状況を伝える。
「現状、退路の確保は問題ない。
巡回兵も、予定通り別動隊がうまくやっている。
後は、予定が変わった部分について2つだ。
一つ目は、人員の追加が見込める。
まだ到着はしていないが、ルーシア様からだな。
少数だというが追加兵をお貸しくださった。
情報は、彼らだから間違いない」
ウェイスは親指で自身の後方を強調。
ベーゼンの視線は、彼の誘いに乗る。
指された先には、やはりと分かるモフモフ種族たち。
この殺伐とした空間で、ベーゼンが唯一心和ませる事ができる映像。
ベーゼンの表情にウェイスも同様につられる。
会話とは表情で受け取り方も変わるという。
その影響は、ベーゼンをやさしくつつんだのだろう。
気丈に見せていたベーゼンは、少し涙ぐむ。
続くウェイスの行動は情況的には不適切だが正しい。
彼はそっと肩を引き寄せ胸を貸す。
声こそないが、静かに感じる嗚咽から来る震え。
今は誰にも見せてはいけない表情だろう。
それは長い時間ではない。
しかし、ウェイスには時間が止まった様にも思えた。
それはベーゼンにとっても少しの時間。
しかし、救われたのだろう。
ベーゼンは、ゆっくりと距離を取り、彼に視線を向ける。
その表情に、ウェイスもいつも通りの言葉を返す。
「その顔だよな、お前は。
その表情、俺はイイと思うよベーゼン」
ジレンマからかムッと返すベーゼン。
しかし、それも含めウェイスは笑顔で頷く。
そして咳払いを一つ。
表情を引き締めたウェイスは報告を続けた。
「よし次だ・・・2つ目は、北棟の状況が予定と違っている。
少し不確定な情報だが、低階層の部屋に姫の侍女も捕まってるらしい。
世話役として、離宮に通っていたのは覚えているな?」
「えぇ、フェデルテなら当然じゃない?
彼女はイセリナの侍女だもん何の不思議もないと思うし・・・?
えっ、私は国に帰されたって聞いてたけど・・・・・
監禁って・・・何でよ?」
自己解決しかけたベーゼンだが、ハッと表情を変えた。
そこには、フェデルテへの心配もあるのだろう。
しかし、違う疑念が渦巻いている。
ウェイスは。やはりと小さく笑い言葉を返した。
「確信はねぇ情報だ。
だが、宰相がエルタニアに、今回の件を全てをぶん投げたって噂が有んだよ。
おっと、噂は後にしよう。所詮噂だからな。
ヤーハンの持ってる情報を聞いてから・・だろ?」
ウェイスは、目の前で腕を組み始めたベーゼンを止める様に声を掛ける。
それは、彼女に対する長年の経験則なのだろう。
ウェイスは、彼女の視線が自分に戻ったことを確認。
最後にと報告をまとめた。
「まとめると、退路は問題ない。
状況変化は2つ、【仲間が増える事】、【救出対象が増えた事】だ」
「わかった。
フェデルテの事は、ハイネス達に伝えておくわ」
ウェイスは、彼女の言葉を確認しに頷く。
そして小さく笑うと、彼女の頭を優しく雑に撫でた。
「ジェラールは大丈夫だ。何とかなる。
お前がついてんだぜ、魔工廠の聖女さん。
それに俺もいる・・・・必要なモンがありゃあ何だって揃えてやるよ」
「なっ・・・・ちょっとやめてよ、子供じゃないんだから。
もうっ、少し女子の気持ち理解しなよ! そういうとこだよ」
髪を直しムッとするベーゼン。
それを待つことなく、ウェイスは背を向けて歩き出していた。
表情は見えない。
しかし、声だけがベーゼンへと向けられた。
「女子って年かよ、お前は立派な女性だよ。
それと・・・・無理はすんじゃねえぞ。
自分じゃどう思ってるか知らねぇけど、
お前が居なくなったら、悲しむヤツもいるんだからな」
ベーゼンの表情は、少しだけ優しく変わる。
互いに向けあう感情は、どこか儚く温かい。
ベーゼンは、遠ざかっていく彼の背中に父性にも似た愛情を感じた。
一方で、その気取った様に手を振る姿が若干うざったく思えるのだった。




