↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/93

主役は視界の端に

日は東の空中腹をじりじりと昇り、人々を優しく見つめる輝く。

爽やに吹く冷たい風は、その背に豊穣の香を乗せ届ける。

それはまるで、二組の新たな夫婦を祝う様にも思えた。

陽の光が礼拝堂の影を浄化した頃には来賓席の空きは消える。

礼拝堂にはいつもの静粛さが戻り、式典の幕開けを待つばかり。

作業を終えた二人の研究者も有象無象に交じり最後列に着く。

静かな場所には必ず付き物なのだろう聞こえるのは囁く様な話声。

顔を合わせた事など皆無に等しい侍女たち3人の閑談が耳に付いた。



「ニケロム様とルイーナ様の婚姻はわかる。

 けど、合同でジェラール様もって・・酷い扱いね」


「あ~それ分かるぅ~。

 っていうかぁ、ジャラール様の結婚はショックなんだけどぉ」


「あんた、ジェラール様好きだよね~。

 でも、無駄じゃない私達じゃ。相手は一国の王子様よ。

 振り回されて妾がいいとこよ。どこぞの地方令嬢様みたくね」


「あ~、ちょっと前までは王宮にいたよね。

 なんで出てっちゃんたんだろ」


「良く言うわねアナタって・・・・時々怖い子ね」


「え~、なんのことぉ~。フフッ、あたし知らないしぃ~」



数人挟んだ先から聞こえる雑談。

ベーゼンは視線だけを流し、ため息を小さくつく。

そして視線を隣に移すと、まだ目覚め切らない少年が睡魔と激闘中。

ベーゼンは、ポケットから小さな懐中魔工時計を出し眺める。

まだ開始までは時間がある。

ベーゼンは、彼の肩をトントンと優しく叩き、小さく囁き掛けた。



「昨日あれだけ言ったでしょ、もぉ・・・フフッ。

 起こしてあげるから、始まるまで寝てていいよ。

 昔みたいに、膝枕してあげよっか?」


「・・・んん・・・うん・・・じゃなくて・・・いい。

 でも、あひがほふぁ~・・・・姉ちゃん、ちょっと寝るね」



少年は、あっさりと睡魔に負け、彼の漕ぐ船は座礁。

呆気なくベーゼンに寄り掛かる形に収まった。

概ね静かな空間に差し込む光は二人を照らす。

ベーゼンは、小鳥の囀りにも似た雑音から意識を外し祭壇奥の像を見つめる。

荘厳なそれは、創造神ヴェスティア。

何も返さない彫刻を見つめ、ただ時を待つ。

僅かな時間だというのに永遠にも似た時間。

それは、彼女を思考の海へと引きずり込んだ。



(あの時のエヴァの気持ち・・・今の私と同じなのかな・・・・

 なら、昨日のジェラールも、あの時の私と・・・でも・・・・・・・)



無意識の思考は、デービット(過去の自分)を見つめさせた。

朧げに思い出される苦く甘いエヴァとの日々。

そして、ベーゼン(今の自分)の思考と感情は、閉じた筈の記憶の扉を開いていく。



(誰かに分かってほしかったのかな・・・・・でも・・・・私には・・・・)



そっと視線を寄り添う少年に向ける。

スゥスゥと寝息を立てる少年は、精一杯背伸びをしても青年とは呼べない。

どう足掻いても彼女にとって可愛い弟、もしくは拾ってきた子犬。

無意識の思考は、精神を助け感情の整理をさせた。

ベーゼンの口からは小さく優しい笑いが零れる。

それを追う様に、鐘の音は響き渡り式の始まりを告げた。

来賓席では、過去に何度もあった獣人の元王子とその妻が笑みで友を祝福。

彼らの視線の先には開かれた扉。

満ち溢れた光の中で、寄り添うように進む2つの影。

4人と2国の行末を祝い、希望を乗せる様に響き渡る拍手の嵐。

壇上へと上がる4人。

そこに差し込む天窓かの日差しは神が祝福したかの様。

何人か隣の彼女達の囀りは、色めき立つと同時に見とれていた。



「ハァ~ジェラ~ル様、今日も一段と素敵ィ・・・。

 あたしがジェラール様の隣にいたかったなぁ~。


「素敵なのは同意ね。

 でも、私たちがあの場に立ってもああはならないわ。

 馬子は衣装着せても馬子。過ぎたるは及ばざるが如しよ」


「相変わらず、現実主義ねアンタ・・・

 でも、この子じゃないけど素敵よね。

 ジェラール様とイセリナ様は、少し温かみのある白い礼服。

 ニケロム様と、ルイーナ様は、純白の礼服・・・んんっ?」


「そうね、ジェラール様たちの衣装は旧来のデザインね。流行じゃないわ。

 どうせ宰相と当人の指示でしょね・・・・細かいデザインなんて雲泥の差よ」


「あの噂って事実なのかなぁ~?」


「ちょ・・やめなぁ、こんな時に・・・・」


「そうよ。婚礼の最中、不羈奔放で牢獄なんて・・・・巻き込まないでくれる」



よもや可笑しな方向へと舵を切った会話。

しかし、その中の一人のツンとした侍女はジトッと睨み幕を下ろした。

王宮には噂話など樽に詰めて売って捨てるほどある。

もっとも出所は定ではないのだが、暇を持て余すとそんなもので時間を潰す。

そもそも、侍女の立ち位置など、奉公ついでにお家の昇進が出来れば良し、

あわよくば、牽制しつつ暗い情報でも手に入ったら儲けものと言った程度。

その巣窟ともいえる王宮など叩けば出ない訳がない。

ベーゼンも侍女の一人の様にジェラールの晴れ姿を眺め思考した。



(確か・・・・んん~やめとこ。

 変な時に、考えが口から出ちゃったら困るもんね。

 でも・・・・羨ましいなぁ・・・・イセリナ様。

 それに・・・・なんかムカつく・・・・ジェラールの馬鹿!

 フフッ、口に出したら気が晴れるかな。)



トゥーンは、変な笑みが時折ちらつくベーゼンに不安を覚えた。

その表情は、不安の中に僅かな悲しみがある。

その小さな感情は、少年の口を動かした。



「姉ちゃん・・・・大丈夫か?

 なんか、やばい実験してる時より碌な顔してないよ・・・

 気分悪いなら一緒に出よ?」


「えっ・・・・あぁ、いいのよ。

 心配ありがとね。でも、お子様は気にしなくていいの。

 ねぇ、トゥーン見て。ジェラール様たち素敵よね。

 私もあんな風に祝ってもらえるのかな・・・

 ツォーネさんってどうだったんだろ・・・・・・

 あんまり明るい話してくれなかったけど、聞いたことある?」



ベーゼンの言葉に、腕を組み天井を見つめ悩む少年。

過去の記憶を漁っても、記憶にない両親の話以外は出てこない。

強いて上げれば、ベーゼン達と共にクルシュノで見た宰相とのやり取り。

今だから、ある程度予想ができる自分の血筋。

しかし、それを否定する自分がいる。

そして、自分を守る様に隠居する祖母に感謝する自分もいる。

結果、返す言葉は彼女の求めるそれにはならない。



「んん~、おばぁは何も教えてくれなかったよ。

 きっと、嫌な事なんだろうし・・・僕の為でもあると思う・・・」


「あっ・・・ごめん。変なこと聞いちゃったね。」



ベーゼンは、眉を顰め悩む少年へ謝罪。

それは彼への謝罪だけでなく、思慮の無い自分の浅はかさへの戒めだろう。

少年は腕組みをほどき、顰めた眉を緩め微笑みをベーゼンへ返した。

そこには大して深い感情はない。ただ思考を解放だけだ。



「気にしなくていいよ。

 だって、僕の知ってる家族って、" おばぁ " だけだし・・・

 そもそも記憶にない人たちだよ・・・

 それに、僕には ” おばぁ ” も " 姉ちゃん " だっている。

 だから気にしなくていいよ。

 僕・・・姉ちゃんの笑顔が見れれば、そっちの方がずっと良い」



そう言い残すと視線を天井に戻し何食わぬ顔を装う。

少しだけ頬と耳さきが、ほんのり赤く染まる表情。

はにかみを隠すそれは、ベーゼンに笑みを与えた。

一方で片や盛大に、片や淡々と進む婚礼の儀。

それは、国の行末を暗示する様に小さな闇を少しずつ育てていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。