↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/92

覗きは程々に

寂れた魔ない波を眺めながら散歩する二人。

すれ違う者は親子だと思うだろうが祖母と孫。

孫の手を引ツォーネは、何処に焦点を合わすわけでもなく景色を眺める。

祖母の横顔を眺めるトゥーンも、彼女に習い正面を眺めるが視点は定まっていた。



「おばあ、あそこに公園があるよ!

 おばあの好きな花があるかもしれないね」


「んん?・・・・そうさね、少し寄って行こうかね。

 フフッ、トゥーンお前は、誰に似たのかね・・・」


「んん?・・・僕は、おばあ似だよ」


「そうかね・・・フッ、トゥーンは優しい子だねぇ」



孫の表情につられ、祖母の表情も柔らいでいく。

交わった視線は直ぐに外れ、祖母の腕は勢いよく引っ張られた。

駆けだす少年は、年相応の表情で彼女を公園のベンチへと導く。



「おばあ、座ろうよ。

 花壇が良く見えるよ。ほら、おばあの好きな色の花」



ツォーネは、椅子まであと少しという所で少年の手を優しく手放す。

そして、言う事を聞かない脚に身をゆだねる。



「トゥーン、先に行って場所を取っておくれ。

 アタシはゆっくり行くよ。齢には抗えないねぇ」

 

「うん、先に席取っとくね・・・おばあは、若くてきれいだよ!」



少年は、祖母に背を向け走り出す。

表情を隠す様に小さくなっていく少年。

一瞬だけ見えた顔は、目に見えて真っ赤に変わっていた。

その姿に、ツォーネは笑みを浮かべ彼の小さな背中を眺める。


(フフツ、本当に誰に似たのかねぇ)


ゆっくりと、足の赴くままに少年を追う祖母。

目的のベンチに腰を下ろし、先に座る少年の頭を抱きしめる。



「しっかり場所の確保ができたねぇ。えらいえらい」


「おばあ、やめてよぉ! 恥ずかしいじゃん。」


「ハハハッ、もう六歳かね?

 トゥーンは、いつまでも可愛いトゥーンだよ」


「もぉ~、おばあは・・・」



嫌がり離れようとする腕だが、彼の言葉と真逆。

最初こそ言葉に従い力強く彼女を押し離れようと足掻いた。

しかし、最後にはその力は失われている。

少年は、祖母に抱かれるままに彼女の好きな色の花を見つめた。

同じように花を見つめる祖母は孫に問いかける。



「トゥーン、アンタはどうなりたいんだい?」


「どう?・・・・僕は、アイネス兄ちゃんみたいになりたいな」


「アイネス兄ちゃんねぇ・・・」



ツォーネは、孫の言葉を噛み締める様に口にする。

その理由を自問し、頭の中の靄を端に追いやっていく。

大して時間は経っていないが、頭の中はすっきりとしていた。

ぼんやりと遠くで聞こえる声は、少しずつ大きく変わる。



「───── おばあ、聞いているの?!」


「ん?、はいはい、聞いてるよ?」


「ん~・・・ ” はいはい ” って言う時は聞いてないじゃん。

 おばあだって言ったよ。2回繰り返す時は嘘だって」



ツォーネは胸元に抱きしめた孫の顔を覗き込む。

頬を膨らませ訴える孫を見つめる祖母の視線は優しい。



「だから、姉ちゃんが呼びに来てるって言ってるの」


「あぁ、ベーゼン達かね。話が纏まってるといいんだけどねぇ・・・」


「おばあは・・・・フフッ、いつものおばあに戻ったね。よかった」



トゥーンは、ツォーネに顔を埋め強く抱きしめる。

少しだけ強くなった腕の力に、祖母は笑みを漏らした。


遠くからゆっくりと駆け寄る女性は、二人の雰囲気に表情を緩める。

互いの表情が分かる距離まで近づくとベーゼンは口を開く。



「終わりましたよツォーネさん。

 とりあえず、魔導具の権利は私達になったんですよ、フフッ」


「急に席を外して悪かったね。

 へぇ~そうかい、ア(・)ン(・)タ(・)の王子様のお陰かね?フフフッ」


笑みを浮かべ会食の結果を伝えたベーゼンに悪戯な笑みを返すツォーネ。

意図を感じとったベーゼンは眉を顰め口を尖らせる。



「そっ、そんなんじゃないです・・・だぶん」


「なんだい、アタシゃ歳だからねぇ。よく聞こえないよ。

 フフッ、ああいうのが良いのかいアンタ・・・モノ好きね」



始まる会話はトゥーンに入る余地がない。

ツォーネはベーゼンをいじるも、どこか遠くを見つめている。



「第一王子・・・ここ数年でだいぶ変わったというねぇ。

 一時、王家が動いてたって話もあったねぇ・・・確かアンシュタインだったか。

 そういえば・・・・そういう事かね・・・・男は変るからねぇ、フフフッ」


「知りません! 私は・・・」



ベーゼンは背を向け、花壇を見つめた。

フワッと舞うスカートの裾、仄かに香る香水。

思い返せば、今日のベーゼンは少し違う。

トゥーンも感じる違和感だが、少年にはまだ早い。

悪戯な笑顔は、優しいさに上書きされる。

ツォーネは、ベンチの空きを手で軽く叩く。



「ベーゼン、おいで」


「なんですか? ・・・・・・・はい」


ベーゼンは、ツォーネの呼びかけに振り返る。

先程まであった彼女とは違う。

誘われるままに、ベーゼンは淑女然とベンチに座る。

始まる話は、近いようで遠い昔に王家へ嫁いだ魔女の話。

最後にツォーネから贈られる言葉は現実。



「 ────── 、華やかなモノは、その分醜い影があるんだよ。

 アタシには、あの王子がどんな男か見えないけど・・・

 王族である以上、それは付きまとうんだ。

 アンタが並みの幸せを望むなら・・・アタシは勧めない。

 まぁ、領主の娘じゃ、自由は難しいかもしれないがね」


「私、どうなんだろう・・・・やっぱり・・・」



互いの視線は、交わることは無い。

二人共、春風に晒される赤い花を見つめていた。

日ごとに暖かく変わる日差し。

地平を紅く染める頃には、肌寒さも数日前と同じだ。

静かに続く女性同士の会話。

少年は、” 憧れ ” が見せる表情に、彼女を遠くに感じるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。