問題は 『 都合よく 』
喪に服したような町の空気は今は昔。
坑道の入口では、3人の若者を囲み活気に沸く人々の姿があった。
同じ鉱夫や加工屋でも、陰気臭く嫌味を吐く様なの姿はもう消えている。
すれ違う町の人々は、英雄の凱旋の様に笑みを浮かべ称賛を向けた。
中にはその空気にあやかろうと、アイネス肩を叩き声を掛ける者達も。
「やったな兄ちゃん!よくわかんねぇ作業だったが最高だぜ!」
「口だけで結果を見せねぇ町長にも見習ってもらいてえな!」
「やったわね!これで、鉱山も再開出来るわけね、アンタ達最高よ!!」
飛び交う声の中には町長を罵倒するモノもあった。
しかし、よく考えるとパトリックへ依頼を出したのは彼だ。
確かに好感の持てる人間の様には見えないが、やることはやっている。
不思議な事だが、他人の評価などそんな不明瞭なモノなのだ。
評価する側がどう思うかで、相手の行動など良にも悪にも映る。
その為か、ベーゼンはその場を後にする町長の背中に哀愁を感じていた。
温度の上がった集団は、そのまま昼食の場へと進み賑やかな時間が始まる。
ベーゼンを中心とした面々は、鉱夫達の元締めと共に会食となった。
「いや~、よくやってくれましたな。
これで魔封鉱床を採掘して規模を小さくできますわ。
どうにか他の採掘も再開できるやもしれません。
本当に助かりました。ありがとうございます」
「フォッフォッフォッ、儂に礼を言うてもしょうがあるまい。
事を成したのは、そこの若者達じゃよ。
儂らは見届けたのみじゃ。のう、ツォーネ殿」
「フッ、言いにくそうだな、パトリック老。
まぁ、アタシもこの爺さんと同じだよ。何もやっちゃいない。
アンタらが礼をするなら、そこの若者達か、我々に依頼を出した町長だな」
「いやはや仰る通りです。ハハハハッ。
では、改めて ─────────── 」
元締めは、薄くなった頭を掻き改めてベーゼン達に頭を下げる。
そこには、表面的な礼ではなく心からの滲み出た感謝があった。
会話は礼から今後の事へと変わる。しかし、それは依頼達成の報酬ではない。
元締めは、咳払いし表情を改めた。
「報酬の支払いの前に、あの機材の所有権について話し合いたいのですが、
その前に一つお聞きしたい。あの魔封鉱床の影響を押さえる事は出来ませんか?
魔封石採掘に関しては、皆さんのお陰でどうにかなりましたが、
魔封鉱床の取り除きが終わらにゃ・・・
他の鉱床の作業が出来んのは困るんですわ」
元締めは、口調の丁寧さが少しずつ消え本来の彼に戻っている。
彼の逸る感情は察しが付く。
ここ1年近くの間魔導具を使えず閉山を余儀なくされた。
とはいえ、何か策を講じなかったわけでもない。
少しでもと、魔封石から離れた鉄鉱床の現場で作業をするも、
ガタイがいい彼らでも、常にエネルギーを吸われ続ければ敵わない。
安全でまともな作業など出来るはずもなかった。
だが、ここに来てようやく見えた光。
希望の光だが、思いのほか遠くに感じている様にベーゼンには映った。
希望に縋る姿に、ベーゼンはいつもの格好で悩む。
同じ姿を見せるアイネスだが、この時はいち早く復帰した。
「ベーゼンの今羽織ってるコートって、もっと大きく作れないかな?
マットみたいに広いヤツなんだけど・・・どうだろう?」
ベーゼンは問いかけに反応し兄に視線を返す。そして視線をトゥーンへ。
「トゥーン、あの術式って機材の管で使ってたヤツに連結できたよね?」
「連結・・・・うん、たぶん大丈夫だと思うよ。
でも姉ちゃん、あれで結構魔力使うんだよ・・・・・」
不安そうにベーゼンを見つめるトゥーン。
彼の感情を理解してか、ベーゼンは腰を屈め視線を彼に合わせ頭を撫でる。
「フフッ、トゥーン大丈夫。あの術式はシッカリできてるよ。
二人で考えたんだから、ダメなわけないよ。自信もと。
悪く考えれば、正解ても悪い結果を呼び込んじゃうよ。ね。」
「うん、姉ちゃん。 それじゃあ、これから僕は何をすればいいの?」
トゥーンの表情から不安は消え希望が湧きおこる。
その姿を見つめるツォーネの表情は聖母の様に優しい。
「よぉし、アタシも手伝うよトゥーン。
ほら、ベーゼン。指示出しだ。いい女は、導いてやんなきゃね。
まぁ、アタシらには出来ない芸当だけど。アハハハハッ。なぁ爺さん」
「フォッフォッフォッ、事を教えられても、ガラじゃあないからの。
さぁベーゼンや。儂も手伝うぞい」
元締めの作る暗い空気は、年長の二人の魔導士によって打ち消された。
ベーゼンとトゥーンを中心に新たな会議が始まる。
「コートは自分の魔力を少しだけ勝手に吸わせる様にしているんだ。
だた、これは姉ちゃんの魔力が異常だからできる事なんだけど・・・」
「トゥーン。このまま使っちゃ効率は良くないわ。
対象は人じゃないし、動く必要が無いから重くていいの。
フフッ、閃いたみたいね」
「魔封石を覆えれば、重くてもいいってこと?」
「そうよ、人じゃないから重さなんて・・たぶん大丈夫。
だから素材を活性化させなくても、効果が有ればいいって事よ。」
「しかし、全部の鉱床を覆うだけのミミズ素材は無いぞ・・・いや、そういう事か。
おい、モーガン殿。アンタん所に魔封鉱を喰ったミミズ素材は在庫が在るかい?」
「ミミズですか・・・おぉ、マインイーターの。
そうですな、一週間程ください。息子に連絡を取ってみます。
ですが、期待はしないでくださいよ」
「商人のくせに弱気じゃないか、アンタ」
「リスクにはってヤツですよ。 ────── 」
会議は、勝手に進んでいく。
ベーゼンの導き出した解に対し、それそれが理解し出来る事をする。
会議は、必要素材の議題を終え、必要な術式構築へと移った。
そうなると、モーガンの畑はそこにない。
彼は、町長と元t締めを相手に変化した依頼について交渉を始めた。
そこに今までの様な、少年の様に煌めく眼差しは無い。
在るのは、見た目に似合わない鷹のような眼差し。
一代で王都まで進出した商会長は伊達では無かった。
小一時間が過ぎ、会議は終わる。
そこに居るのはホクホク顔の一行と元締め。
一方で、苦虫を噛んだような表情を浮かべる町長だが、
心なしか晴々とした雰囲気があった。
概ね希望に満ちた空気が広がる会議室には、春を告げる強い風が吹き込んでいた。




