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亜光を生む才

早朝から続く議論は昼を跨ぎ、空が赤く染まる頃まで続いていた。

都度ある休憩は、ヨハンが食事やお茶を用意。

それが議論を妨げる要素を排除している事も大きいのだろう。

ストレスなく続く議論は、あれほど耳についた風の主張もBGMに思える程だ。

話題は、早朝にツォーネによって納屋から持ち込まれた素材とその可能性。

ツォーネは笑みを浮かべ、抱える程大きい袋を広げた。



「待たせたね。 こいつは、マインイーターの外皮と消化管だ。

 ここから南に行った所にナビア領ってあるだろ。

 そこの領主の依頼で討伐したんだよ」

 

「すごいね、おばぁ。

 マインイーターって食べる鉱物で性質が変わるんだよね?」

 


机に乗せられた生物の素材。

ある程度加工された素材は既に生ではない。

ベーゼン達はツォーネの許可を取り、それを手に取る。

まじまじと確認するベーゼン達にツォーネは説明を続けた。



「コイツの居た鉱山は、鉄と磁石、そしてヴォルフラムが主だ。

 依頼は、新しく見つかった鉱床に住み着いている先住の排除協力。

 そこでコイツは、ヴォルフラムを喰らっていたんだよ・・・

 雑な依頼で面倒だったな・・・まったく」



ツォーネは思い返し、眉を顰め素材を見つめる。

ため息と共に表情を戻す彼女はさらに続けた。



「まぁ、適当に受けたアタシも悪いかね。

 とは言えだ・・・怪我の功名かしら。

 コイツは、アンタらの問題を解決できるかしれないよ。

 ヴォルフラムを喰って魔封耐性を得た個体の素材。

 安くはしておくけど、使えそうだろ?」



置かれた素材を手に取るベーゼン。

素材の元を知らなければ、どうということは無い。

しかし知ってしまえば、それも違う。

外皮は、それほど気にならないが、巨大ミミズのソレでしかない。

机からダラリと垂れ下がる消化管は、見た目同様に弾力があり嫌な触り心地。

しかし、説明された通り魔力を遮断する。

ベーゼンは、いつもの悩む姿で思考の海へと足を進めた。



(そうね・・・魔力遮断なら囲まれた空間で魔術が成り立つわね・・・

 なら、魔封石の坑道でも使えるか・・・・)



ベーゼンは、出来る事を繋げ目的へ道を作る。

封魔石の礫、トゥーンの鉄砲、マインイーターの素材。

ベーゼンの中で見えた者は加速装置。

しかし、魔力だけでは成り立たない。



(そういえば、磁石の産出もあったわね・・・・)



思考の海につかるベーゼンは思い返す。

トゥーンの鉄砲の原理は、圧縮応力。ベーゼンのアレと同じだ。

それはベーゼンの場合には影響はないが魔導具では違う。

ガワに対し、影響は大きい。

その為に、トゥーンは " あまりもたない " と言っていた。

そこに来て、ベーゼンの思考は過去の記憶から新たな発想を導き出した。

笑みを浮かべた才媛は思考の海からあがる。



「ツォーネさん、マインイーターの素材を譲ってください。

 お支払いは、ウェリントン商会が致します。

 あと磁石も欲しいのですが、どうにかなりませんか?」


「構わないわよ・・・そうね、八がけでどうかし?どう使うか気になるしね。

 あとは磁石ねぇ・・・・ナビアじゃウェリントンの圏外か。

 まぁ少しの時間と値は張るけど、依頼出しとくわね」


「ありがとうございます。ツォーネさん。

 あとは・・・・トゥーン、あの魔道具改良しよ。

 少し大きくて使いずらくなるけど、今より強力になるわ」



ベーゼンの満面の笑みは少年を射抜く。

一瞬視線を反らすトゥーン。だが知識欲はそれを押さえる。

そこに在るのは、恥ずかしそうに顔を赤らめながらも前のめりの姿勢。



「うん、姉ちゃん! じゃあ、何からはじめればいい?」



ベーゼンの口元は歪む。

そこにある才媛には聖女と悪魔の共存があった。



「フフッ、君の鉄砲を根本から作り直すわよ!

 原理を ” 圧縮応力 ” から " 電導 " に変えるの。

 方法と考え方は幾つかあるけど、まずは簡単な方からやってみようかな。

 庭で現象を見せるね。イメージできた方がいいから」



ベーゼンは、トゥーン、ツォーネ、パトリックを連れ庭へ。

残る二人は、料理当番だ。

庭では標的を置き、ベーゼンは空中に複数の術式を構築していく。

それに魅せられる3人。



「・・・・すごいな。人がこれ程の事を・・・・・・・」


「姉ちゃんは、やっぱりすごいや・・・」


「フォッフォッフォッ・・・・末恐ろしいのぉ」



膨れ上がる魔力は術式を通し発光し、ベーゼンを強く照らす。

それは、光と共に場に浮力を作り、彼女の髪を浮かび上がらせる。

見る者には神秘的な印象を与え聖女、或いは女神と感じさせるだろう。

空中に構築されていく複数の術式は一つへと重なっていく。

そして・・・・・耳をつんざく程の爆音と衝撃波。

3人は悲鳴と共に耳を塞ぐ。

辺りは砂煙に包まれ、先ほどの聖女の姿を認識できない。

そこは道に接した庭先。

日も暮れ始めたというのに人だかりの山。

しかし流石は風の強い高地だ。

砂煙は早々と晴れ、その中心に人影を映した。



「予想よりも、加速したわね・・・・・

 見れたかな? 小石に磁力を与えて、魔力て作った磁場を利用したの。

 フフッ、どうにかなったけど、まだ問題は山積み。

 とりあえず、この術式を魔導具として再構築するわよ」

 


彼女の視線の先には、形状をそのままに残した標的。

その背後にあった岩壁は、存在した事すら判らない。

パトリックは満面の笑みを浮かべ、残る二人は唖然と口を開ける。

魔法とは精霊との対話。そう教えられるだけの学術だ。

その為、より効率的に伝える手法、より大きな効果を生む手法が研究の主だ。

大きな魔力で生んだ火を、より小さな魔力で大きな炎と改善していく。

それを生業としてきたのがツォーネ、そしてパトリックといった先人魔術師。

しかし、目の前で起こる現象は、彼らの長い歳月には存在しない。

才媛から発せられた言葉 " 電場 " なども存在しないのだ。

力場ぐらいのニュアンスで捉えた二人だが、生み出された結果は異常。

二人の表情は違えど、奥底にある感情は畏怖にも似た敬意だろう。


だが少年は違う。

目の前で起きた現象は、1人の人間が起こした結果にすぎない。

魔力で出来た " 指示書 " を精霊たちは実行しただけ。

しかし、その現象結果は脅威であり大きな可能性。

ワクワクの抑えきれない少年は、ベーゼンに駆け寄る。



「すごい! 凄いよ姉ちゃん!

 こんな現象が世界には満ちているんだね。

 僕も姉ちゃんみたいに知りたいよ!」


「フフッ、明日からまた一緒に勉強しようね!」


「うん!」



ツォーネの瞳の中で、盛り上がる二人。

表情を戻し笑みを浮かべた彼女は、無駄に出来上がった人だかりを払う。

静けさを取り戻した天空の町は月明かりが優しかった。


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