↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/94

交渉は家族愛を浮き彫りに

2日後の昼下がり、領主館の広間では二人の大人が領主へ駆け合っていた。

1人は魔導具屋の老師。もう1人は王都まで勢力を伸ばした豪商。

話はベーゼンへの依頼だ。

それぞれ違った方面からベーゼンを褒めつつも、彼女が現場に必要だと伝える。

しかし、現実はそう容易くはない。

父ドワイトと母アンジェリカは首を横に振る。

それでも、引き下がらない2人の大きな子供にドワイトは口を開く。



「しかしなぁ、あれでまだ16。危険には晒したくはないのだよ。

 わかるだろパトリック老、モーガン」


「そこを突かれると何も言えません。

 しかし、パトリック殿のおっしゃる通り良い機会ではありませんか。

 お嬢様をお一人で向かわせるわけではございません。

 もちろん私も、私の私兵もお守りします。

 それに、お嬢様もやる気ではございませんか」


「う~ん、しかしな・・・ どう思う、アンジェリカ。」



豪商の笑みと手もみに耐え兼ねたドワイトは、アンジェリカに助け船を求める。

視線の先では、目を瞑り思考するアンジェリカ。

その姿はベーゼンに重なる。



「そうね・・・言いたいことは理解できるし筋も通っているわ。

 ん~・・・もう、あの子ったら碌でもない事に首を突っ込むんだから。

 ねぇ、パトリックさん。あなたから見てべーゼンはどうなの?

 才能は抜きにして、現状でどうなの? 無事に戻ってこれますか?

 私はこの子が心配なの・・・大切な可愛い娘なのよ。ねぇどうなの?」



アンジェリカの表情は、言葉を重ねる毎に暗く悲壮感を増す。

そこには、日々ベーゼンへの叱責の裏にある深い愛情が窺えた。

感情に飲み込まれ今にも泣きだしそうなアンジェリカ。

察する様にハンカチを渡し、アンジェリカの頭を胸に寄せるドワイト。



「パトリック老・・・・・

 私は、娘をこんな風に危険な場所へ送るために学ばせた訳ではない。

 正直 " 領地外の民 " や " 王の評価 " など ・・・

 極論 " 娘の成長 " も、この子の安全に比べたらどうでも良い。

 私はだた、ベーゼンが幸せに暮らせればそれでいいんだよ。

 親ばかだろ・・・笑ってくれて構わない。

 これが私たちの二人の答えだ・・・

 領主などと言われても、こんなモノなのだよ」



ドワイトと領民2人の視線は、交わることは無い。

場の空気は、ベーゼンの求める状況とはかけ離れたいた。

勢いで動いたモーガンなど、予想外にオロオロとするばかり。

この状況は、記憶に残る朧げな過去において、ベーゼンには想像できなかった。

放任的と聞こえがいいが、其々が自らを優先する2人の親。

子供の為と金と地位を求め、家庭を蔑ろにする両親。

欲しいモノは買い与えられるが、残るモノは無機質な虚無。

確かに何も無いよりはマシかもしれない・・・・

しかし、それはまた話が違う。

何かと口うるさい母と、時に厳しいが無駄に優しい父。

二人のそれにウンザリもするが、思い返せば心は温かくなる。

その時の育みが、ベーゼンの心を強く抱きしめる。

ベーゼンは溢れ出しそうな感情を堪え、結んだ口を静かに解き一息吐く。



「お父様、お母様。・・・我がままを言ってごめんなさい。

 このお話は無かったことしてください。

 これ以上、二人を・・・困らせたくありません・・・」



無理に作った笑顔。

少女の瞳からこぼれる涙に、二人の領民は我に返る。

” ベーゼン嬢だから大丈夫だ ”と考えてしまった事に頭は上がらない。



「儂らが間違っておったよ。すまなかった領主殿。ベーゼンも悪かったの」


「私もつい、ベーゼン様なら解決してくれると考えてしまった。

 この背で若人を導くべき者として恥ずかしいばかり・・・

 息子には、ああも言っているのに私は・・・・

 皆さま、本当に申し訳ありませんでした」



二人の謝罪に対し、ドワイトとアンジェリカは表情を和らげる。

そこには、互いの理解があるように感じられた。

深々と頭を下げる二人に対し、ドワイトはそれを受け入れる。



「わかっていただけたのなら、それでいいのです。

 他領地の出来事とは言え、お力添え出来ない事は残念に思います。

 すまないな、お二人共」


「いえ ───────── 」



続く言葉は良くある。いえいえ合戦。

時間が経つほど滑稽感じる光景でああった。





謙遜合戦が終わる頃、大広間の扉は開かれた。

開かれた扉からは、落ち着いた足取りで入室する若者。

次期領主たる風格の優男は兄アイネスだ。

ここ数カ月ベーゼンは、兄とゆっくり会話をしていない。

彼は領内警戒の為、昼夜問わず兵士と共に警戒に出ているのだ。



「失礼します。遅くなりました父上。アイネスただ今戻りました」



妙な空気に眉を顰める兄アイネスは、ベーゼンの顔に驚く。

笑顔だが、目が紅く少し腫れている。

兄は即座に駆け寄り、ハンカチを渡すあたり、

二人の息子であることは疑いようがない。



「どうしたんだいベーゼン。

 ほら、顔を拭って。

 よかったら、僕に話してくれないかい?」



ベーゼンは、両親に視線を送る。

二人は、互いの目を合わせる事無く何故か息が一致。

同時に頷くそれに、ベーゼンは笑みが漏れた。



「お兄様、実は ──── 」



ベーゼンの話を頷きながら聴き入るアイネス。

時に眉を顰める場面もあったが、都度ベーゼンが訳を伝える。

妹の話を聞き終えたアイネスは目を瞑り思考する。

ベーゼンはそこに母の面影を見た。



(家族って似るのね・・・フフッ、私もか)



少し口元が緩むベーゼンにアイネスは笑みを返す。

少し経つと、考えが纏まったという様に表情を引き締めた。



「ベーゼン、それでいいのかい?

 本当は行ってみたいんじゃないかな」

 

「それは・・・」



口ごもるベーゼンに、アイネスは笑みを浮かべる。

兄は表情をそのままに、視線をベーゼンから両親へ。



「父上、母上、覚えているますか?僕は16の時に兵士の皆と魔獣を狩ったよ。

 ほら見て、腕も足も満足に動くよ。傷とか痣は・・・治るからいいよね」

 


真剣な表情から、少しだけおどけて見せるアイネス。

彼の話を真剣に聞く両親二人だったが、父また眉を顰めた。



「アイネス。お前には5つの時から剣術を教えているのだぞ。

 ベーゼンには、それが無い。違うか?」



父ドワイトは、アイネスを諭すよに告げる。

しかし、アイネスは食い下がらない。



「ん~・・・ベーゼンも幾つからだたかな・・・

 パトリックさんの所で魔術の鍛錬していたよね。

 剣術も魔術も力にはかわらないよ。ねぇパトリックさん」



” そうじゃな ”と頷くパトリックに、アンジェリカの睨みが襲う。

まあまあと抑えるドワイトは、目を細めアイネスに問う。



「だがな ─────── 。

 で、お前はこの状況をどう動かしたい。

 私を納得させてみろ、アイネス」



そこには、父親の顔ではなく現領主の顔がある。

アイネスは、笑みを浮かべ頷く。

彼は、少しの間天井を見つめ思考した後、口を開く。



「僕は、ベーゼンを行かせるべきだと考えてる。

 それは、ベーゼンにとって価値が多いし、

 うまくいけば、ウチの領に利益を齎すからだよ。

 でも、僕だってベーゼンの事は心配だよ」



父の目は鋭い。それは父が授業で時々見せる表情だ。

息を飲む観衆に、アイネスは笑みを浮かべる。

父ドワイトはその表情に口元を緩めるが、視線の圧は変らない。


「では、アイネス。お前や私の懸念点をどう解決する?」


「フフッ、簡単な事さ。僕がベーゼンを守るよ。

 いいだろ父さん、来週から非番だよ。

 先週は3人でアンシュタインに行っていたじゃないか。

 たまには僕も羽を伸ばしたいよ」



真剣な表情から口調も崩しおどけるアイネス。

それは重く沈んだ空気を払う意図が感じられた。

ドワイトは、表情を崩し鼻で笑う。そして視線をベーゼンへと流す。



「アイネス。非番のお前に頼めるか?

 ベーゼン、兄を付ける。いいな?」


「ハァ・・あなたは子供には弱いわよね・・・もう。

 アイネス、ベーゼンに甘くしちゃダメよ。ベーゼンもわかっているわね」



ベーゼンの表情は心から明るくなる。

身体は、思考と関係なく兄アイネスへ飛び付く。

今までは無かった事にベーゼン自身も驚くほどだ。

同じように驚くも笑みを浮かべるアイネスはベーゼンを諭す。


「あっと、ハハハッ。どうしたんだベーゼン。らしくないよ」


「お兄様、ありがと!」


「こらベーゼン、人前よ・・・もう、言っている傍から」



母の一言にソソクサと席に戻るベーゼン。

その隣に掛けるアイネスは、2人の領民の話を詳しく聞く。

モーガンの目的地は、パトリックの依頼と同じ町。

依頼内容も " 魔封石の採掘 " で一緒だ。

良い顔しなかった両親もアイネスの提案で完全に折れた。

それはベーゼンの希望が通った事になる。

一刻ほど経ち、旅の話も纏まり席を立つベーゼン。



「ありがとうお父様!お兄様!」


「くれぐれも無茶はするなよベーゼン。

 信じてはいるが、お前には前例があるのだからな、良いな。

 それと、忘れてはおるまいなベーゼン。

 ちゃんと・・ベーゼン、最後まで聞きなさい!」


「わかています。ジェラール様に前もって連絡よね。これから書きますわ!」



ベーゼンは父のに被せる様に声を張り、大広間を飛び出し階段を駆けていく。

残る5名は互いの顔を見つめ合う。その過程は違えど苦笑いし浮かんでいない。

ベーゼンは、これからの事を手紙に綴り、ジェラールへと送る。

そして3日後、アイネスと共にクルシュノへと旅立った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。