商人の悩み事
モーガンからの手紙を受け、ベーゼンは商会を訪れた。
通いなれた商会の応接室だが、ベーゼンの気持は少し重い。
辺りを気にするベーゼンに、モーガンは小さくため息をつく。
「愚息が済まない事を致しました。
あれは、王都におりますゆえお気になさらず。
・・・まぁ、良ければこちら事を少し聞いてください。」
「こちら事?・・・構いませんわ。 私で良ければお聞きいたします。
モーガン様、手紙のお話とは違いましてよね?
ご家族の事ですか?・・・ウェイリス様の?」
モーガンは目を閉じ静かに頷く。
何処か哀愁のある丸まった背筋は彼の気苦労からだろう。
出された紅茶に手を伸ばすベーゼンにモーガンは続けた。
「お察しの通りウェイリスのことですがね。
アイツもあの出来事から良く悩む様になったんですよ。
まぁ、流れはともかく、結果としては良い傾向ではあるんですがね。
ただ、価値観というんですか。
その辺が昔より堅実になったというんですか・・・
いや、それも悪い事では無いんです。悪い事では無いんですがね・・・・」
含みのある言葉を残し沈黙するモーガン。
ベーゼンは一口紅茶を啜り、視線をヨハンへと向ける。
ヨハンにはベーゼンへ返す答えは無い。
ベーゼンは視線を戻し変らぬ表情で、モーガンに問いかける。
「悪い事でな無ければ、良い事なのではないですか?
以前も良く ” よく考えろ ” とおっしゃっておりましたよね?
ウェイリスに何か問題でもあったのですか?」
モーガンは、ため息をつき紅茶を一口。
続く言葉と共に背は更に丸くなる。
「ええ、以前は息子夫婦の仲も良かったんですがね。
息子嫁の誕生祝いから、どうも風向きが分かってしまった・・・
最近では、別居している様なんです。
その事に家内も悩んでしまいましてね。
世間様の様に " 孫の顔が " なんて気楽に言いたいものです・・・
ハハハ・・・・ハァ」
重苦しい空気にベーゼンは言葉が出ない。
察したにモーガンは背を伸ばし、重い空気を払う様に手を叩く。
「とまあぁ、アイツはなんやかんや王都で頑張っとります。
ですので、ここにはおりませんよ。
いやぁ、商会長との線は悪手でしたな・・・あいつにとっても。
私は、幼馴染で良家でしたので良かれと思ったんですがね。
さすがに、領主のご息女であるベーゼン様に想いを寄せていたとは・・・
父親失格ですな。ハハハハッ・・・ハァ。
まぁ、この話はここ迄にしましょう。
では、ベーゼン様、気を取り直し本題に入りましょう」
モーガンは机の上に地図と拳大の鉱石を置く。
小さな鉱石は薄水色で背景は辛うじて透けて見える程。
ベーゼンは、紅茶に口をつけ気持ちを入れ替える。
その姿にモーガンもまた表情を商人然へと変え話を始めた。
「この鉱石についてなんですが ───── 」
モーガンの話は、机に置かれた新たな鉱石についてだ。
薄水色の透き通った鉱石は魔鉱石に分類される。
その中でも魔力を遮断し吸収する特性がある魔封石と言われるもの。
今回の相談は、この魔封石の鉱脈が見つかり採掘に困っているとの事だ。
ベーゼンは、地図を指さすモーガンに質問を投げる。
「モーガン様、そこは中央高原南部の町クルシュノですわよね?」
「おぉ、さすがベーゼン様。その通りでございます。
この町は、元々鉄鉱石とミスリルが取れる鉱山がありました。
先月の事ですがね。工夫がミスリル鉱山の壁をぶち抜いて見つけたんですよ。
見つけたは良いのですがね、規模が大きく、石も育ちすぎておりまして・・・
魔封石の性質上、どうにも採掘できんのですよ」
モーガンは、そこでと言わんばかりに視線を送る。
ベーゼンは、眉を顰め腕を組み机に置かれた魔封石を眺め思考。
一口紅茶を飲み、魔封石を手に取る。
「モーガン様、魔力をこめてもよろしくて?」
「ええ、まだ在りますのでどうされても構いません。
小さければミスリルのつるはしでも採掘できるのですがね。
この大きさになると、つるはしがダメになっていますんですわ。
挙句、空洞内全体に鉱脈・・・嬉しいやら悲しいやら。」
ベーゼンはモーガンを他所に、徐々に魔力を込める。
しかし、全て吸い込まれ、吸われた魔力はそこに感じられない。
続けて大量の魔力を急激に流し込む。
結果は同じ。ベーゼンは魔封石を室内灯にかざし眺める。
そこには、先ほどと変わらない薄水色の透き通った鉱石があるだけ。
眉を顰め口を尖らすベーゼンは首を傾げ、モーガンに相談する。
「相談って、洞窟内で魔法発動しないし、つるはしで傷つけれない。
だから、どうにかならないかってことですわよね・・・
ねぇ、モーガン様、魔法使える場所ってあったりします?」
「ええもちろん。中庭がございますので、そちらに移りましょう」
モーガンはベーゼンを連れ中庭へ。
しかし、そこでも結果は先ほどと変わらない。
眉を顰めるベーゼンは眉を顰め唇を噛む。
(まだ完成してないけど、試してみますか・・・)
ベーゼンの魔力は高まる。しずかに紡がれる言葉。
現象は発生、風が渦巻き球体を形作る。
中心に生み出された金属片が陽の光に輝く。
球体は急激圧縮されるとと共にロート状に形状を変えた。
渦巻く風の道は魔力生成された金属を打ち出し加速させる。
しかし、魔石直前弾丸はかき消された。
その光景に唖然とするモーガン。
苦虫を噛んだような表情のベーゼンは唸り頭をかく。
「んん~・・・何よこれ・・・じゃぁ、これならどうだ!」
ベーゼンは同じように魔力を高め言葉を紡ぐ。
そして、庭に落ちていた石ころを宙に投げ、水球に包む。
先程の様に圧縮される水球。
あわせて、水球の先に風の回転する空洞の道を生成。
圧縮された水球の中で石ころには小さな亀裂が走る。
次の瞬間、ベーゼンの掛け声と共に石ころは水球から射出。
射出された石の弾丸は、風の空洞で回転を増しさらに加速。
投石などと言えるほど甘くない速度で石ころは魔石に食いついた。
石ころは異常な衝撃音だけ残し粉々に。
横では、モーガンが小さく悲鳴を上げるが、好奇心は変らない様だ。
残る魔封石の元へ向かう2人の表情は明るい。
「おぉ、さすがベーゼン様だ。
亀裂が入っているではありませんか。これなら光が見えましたな」
「そうね・・・とは言いたいけど、大分魔力を引かれるわね。
鉱脈のある場所じゃ、無理かもしれないわ。
・・・ねぇ、モーガン様。この話って別で動いていたりない?」
ベーゼンは、首をかしげ腕を組みモーガンを見つめる。
それは、先日のパトリックからの依頼があったからだ。
モーガンも同じように腕を組み考える。
そして、何かを思い出したかの様に目を見開いた。
「あぁ、そういえば、町の者も手段を探ると言っておりましたな。
なにやら魔鉱石なら魔法使いの領分だとか」
ベーゼンの中で2つの話が繋がった瞬間である。
その表情は、あの時の悪魔。
今回の対象はモーガンではない。ただ自身の夢を実現するためだ。
ベーゼンの頭の中では、旅の為に父を落とす算段を組み立てていく。
「ねぇ、モーガン様。この町って王家の直轄領よね?
採掘権はどこがもっているの?」
モーガンは唐突な質問に腕を組むが、無駄だと考え走る出す。
しかし、その表情はいつに無く明るく、そして怪しく歪む。
「ベーゼン様、応接室でお待ちを、書類を確認いたします。
やはりベーゼン様に相談して正解ですな。面白くなってきましたぞ!」




