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馥郁は共感を導く

太陽は真上を過ぎて少し経つ。

アンシュタインの中心街は少しだけ賑わいが過ぎ去り落ち着いている。

3人に引っ張られ進むベーゼンは、知らぬ町で既視感を感じた。

人通りが落ち着いているとは言え、賑わう大通りに人の波が無い訳が無い。

しかし、2人の王族の先には自然と道が出来る。

それは、父の領地で見る光景と同じ。

獣の王子に気付く彼の民は羨望の眼差しを向け道を開ける。

それは、敬意のみで彼の私的な時間を害する素振りはない。

ベーゼンはルヴァーテに手を引かれ、2人の次代を担う王族に続く。

優しく繋がれた手は、彼女の優しい声の様に柔らかく暖かい。



「フフッ、ベーゼンさん見て。

 王子王子って祭り上げられたってただの男よ。

 嬉しい時に飲んで騒ぎたいだけの馬鹿な男共。

 今は判らないかもしれないけど、その程度なの。

 相手が王族だからって気にする事無いわ」


「・・・そんなものですか」


ベーゼンは初めて会った異国の女性を見つめる。

優しい笑みからは、その言葉の奥ある真意は読み取れない。

ただ、彼女の旦那に対して向ける視線は、母が父に向けるモノと同じ。

街中で喧嘩し仲直りする男女と同じだ。

ベーゼンの表情は少しだけ和らぐ。



「あの・・・ルヴァーテ様。ありがとございます。

 私、ルヴァーテ様の話を聞いて少し気が楽になりました」


「フフッ、笑顔になってきたわね。

 私もね、元は王族ではないのよ。

 少しだけ変わった力があったから彼と遭えたの」



ルヴァーテは優しい視線を、前を進むルーシアに向ける。

視線はベーゼンに戻ることなく言葉は続く。



「初めはね、形式だけの関係よねって思っていたわ。

 だって同じ獣人って見られるけど、種族は違うでしょ。

 狼人種と狐人種よ。話だって合わないわ普通。

 でも・・・フフッ、ああ見えて優しいのよ彼。

 貴女だってそうでしょ?」


「ルヴァーテ様・・・私は・・・」



ベーゼンの視線は足元へと沈む。

確かに、ジェラールとは家柄は大きく違う。

彼の欲しいモノは、自分の知識と能力だと考えている。

ルヴァーテの言う彼女の様な特殊な力と大きくは違わない。

それでもジェラールと話すのは楽しいし嬉しい。

彼はベーゼンの突飛な話を親身に聞き興味を示す。

そこに疑問や問題の意見はあるが、否定や拒否、ましてや軽視や嘲笑は無い。

彼に会い、話す内に彼が誰であれ一緒にいる事に幸せを感じている。

それは、彼女の話と重なっている様に感じる。

しかし・・・・

ベーゼンは不安な眼差しのまま、ルヴァーテに手を引かれ2人に続いた。





未だに賑わう繁華街。脇道は真逆の光景。

進むほど華やぐ世界。行きつく先はベーゼンの知らない世界。

そこには、王族の様に上等な仕立ての衣服の男。

無駄のない振舞は、どんな相手を客としているのか理解しやすい。



「いらっしゃいませ・・・段差がございますのでお気をつけてください。」



腰を折り優美な所作で4人を誘う執事の様な男。

3人が王族であることを知っていながら触れることは無い。

男は扉を静かに開け進路を示す。

王子たちが扉に手を触れる事は一切ない。

建物の中には同じ様な仕立ての服を着た男女が頭を下げる。

男は4人を引き連れ奥のテーブルへ。



「こちらの席でよろしいでしょうか?

 個室もご用意できますが、いかがいたしましょう?」

 


男の言葉には客に対する敬意があるが媚はない。

相手が王族と理解しているが、客は同じ客だと考えている様に感じ取れた。

その対応にルーシアは笑みを浮かべる。



「俺はここで構わない。ルヴァーテはどうだ?」

 

「えぇ、構わないわ・・・

 ねぇ、ルーシア。私じゃないでしょ。

 まずはジェラール様とベーゼンさんよ?」



一瞬、笑顔のまま眉を顰めるルヴァーテ。

顔立ちも相まって威圧感がある。

そのやり取りに不安が増すベーゼンだが、ジェラールは違った。

彼は笑みを漏らし彼女に伝える。



「ルヴァーテ、気にしなくていい。いつもの事だろ?

 公的な立場も今は無い。そうだろルーシア?

 それに、あまり見せつけないでくれ。ベーゼンが困っている」



ジェラールの視線は、異国の王族を流しベーゼンで止まる。

そして彼女に優しく大丈夫だと頷く。



「さぁ、座ろう。今日はルーシアの驕りでいいのだろ?

 なにせ祝いと言っていたからな。私はこのような店は馴染ではない」


ジェラールの視線はベーゼンからルーシアに。

そこには苦笑いで頭をかく姿がある。

そこに在る彼の何か失敗をしてしまった様な表情はベーゼンに既視感を与えた。

何処か聞きなれた名前、そして少し違和感を残す雰囲気。


4人は静かに席につく。

ベーゼンは、周りを見回す。

そこには視線に気づき恭しく頭を下げるハイネスのみ。

彼は頭を上げベーゼンに頷きを返す。

其々の従者達は数名を残し店外に待機している様だがヨハンの気配はある。

ベーゼンは彼の頷きに小さく胸を撫で降ろす。

明らかに場違いな自分、初めての世界。

そこには、孤独感にも似た感情があった。

しかし、異国の姫は優しくベーゼンの感情を和らげる。



「やっぱり不安よね?

 ねぇ、ベーゼンさん。あなたのこと教えて?

 私ばかり話しているもの・・・それって少し寂しいじゃない、ね?」



ベーゼンの視線の先で少しおどけた様に首をかしげる異国の姫。

その横では宮廷作法とは程遠い姿で話すルーシア。

その話を聞き笑うジェラールの姿をベーゼンは初めて見た。

ルヴァーテはその視線を追い笑顔を浮かべる。



「ね、変らないでしょ?

 私達も楽しみましょ。ベーゼンさん」



彼女は、自身の生い立ちをベーゼンに話す。

それは、彼女が亡国の民であること。その国の巫女であった事。

だた、それ以上に話す内容は、ルーシアの人柄、考え方。そして多くの惚気。

話の方向は、口調と共に良くある恋バナへと変化していく。



「ねぇ、ベーゼン。不安に思うほどの事じゃないわ。

 まぁ、他の妃とはすごくいい関係かって聞かれると・・・

 二つ返事で笑顔にはなれないわね」


「・・・そうですよね。

 ルヴァーテ様は嫌じゃないんですか?」


ベーゼンは、艶のある笑みを浮かる獣の妃を見つめる。

ゆっくりとグラスに口をつける姿は妖艶そのものだ。

しかし、そこから返る言葉は町娘と変わらない。



「フフッ、それは嫌よ。嫌じゃない子なんている?

 よっぽどの性癖ね。私には無理!

 でも、王家の血筋なんてそんなものじゃない?

 誰の笑顔が敵意で、誰の睨みが善意なのか・・・

 死んだらそこでお終い・・・多く子孫を残したいのも頭では判るわ。

 でも、判っていても嫌な気持ちは変わらないわよね。

 誰だって " 君(・)だ(・)け(・)だ(・) " って言って欲しいじゃん。

 って、 ” さん ” なんて付けなくていいわ、堅苦しいし」



ベーゼンは、彼女の意見に自分の意見が異端ではないと感じた。

陽は次第に沈み、西の空を紅く染め始めるのだった。


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