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モノ想う葦、求める邂逅

日が昇り、そこにはいつもの朝があった。

慣れ始めた知らない部屋は少しだけ書物で散らかってる。

ベーゼンはベットから天井を見つめた。


(ただの契約よね?・・・

 なんでああなったかな。もう少し上手く出来たのかな・・・)


自分を抱きしめる様に蹲るベーゼンの耳に硬質の打音。

扉越しの聞きなれた声は少しだけ優しく聞こえた。



「おはようございます。ベーゼン様。

 食事のご用意が出来ております。

 御着替えのお手伝いをいたします」


「ヨハン、必要ないわ。

 一人でできるから、今日はいい!」


「仕事ですので、失礼致します」


「ちょっと・・・もーぉ」



ヨハンは入室と共にため息。

頭を抱えた彼女の姿に、同調する様なため息のベーゼン。

しかし互いの感情は対局に近い。

眉を顰め口を尖らせるベーゼンに、ヨハンの表情は極めてドライ。

流れる様に椅子に押し込められたベーゼン。

彼女の肩まで伸びた髪を梳かし、衣服を用意するヨハンは手慣れている。

用意された服は男装に近いさっぱりとした物。

少しだけ表情を和らげるベーゼンは彼女の表情を伺う。

年上の姉の様な従者は、覗き込まれた視線に笑みを返した。



「昨日は頑張れましたね。

 ベーゼン様にしては上出来過ぎですよ。

 しかし、アレが噂に聞く第一王子とは・・・私の情報不足でした」


「ジェラール様の事よね。

 私も自国の王子の事知らなかったし・・・いい噂は聞かないもの。

 でも・・・・・ハァ・・」



着替えも終わり、ため息と共に項垂れるベーゼン。

クスッと笑うヨハンは、ベーゼンの頭をポンポンと優しく擦る。



「恋煩いですか?

 奥様もお喜びですよ、きっと」


「そんなじゃないよ!

 私は・・・・そこじゃないの・・・たぶん」


「フフッ、王家は大変ですよ、お嬢様。

 では、失礼します」



丁寧にお辞儀をし、退出するヨハンは笑みを残す。

もとの表情に戻ったベーゼンはため息。

備え付けの鏡に映る顔を眺め前髪をいじる。

そして、ゆっくりと部屋を後に広間へと向かった。





少しだけ穏やか変わった空気の食事を終え、アンシュタインの最終日が始まる。

図書館までの道はベーゼンの思考とは裏腹に爽やかだ。

相変わらず賑わう商店街は獣人達で少しだけ賑やかに感じた。

今日は図書館の前に豪華な馬車はない。

ベーゼンは少しだけ心が軽く感じる反面、少し寂しさがあった。

いつも通りの禁書エリアには誰もいない。

焚書となった魔導書は、既に複製品であろうものが本物の様に置かれている。



「良く出来ているけど、走り書きとか落書きは無いのね。

 これも、王家の成せる業か・・・」



独り言をつぶやくベーゼンに笑みを向けるヨハン。

そこに従者の表情はない。

送られる視線に " 何よ " と不貞腐れつつもベーゼンは知識の海を漁る。

時は経ち、外では昼を告げる鐘の音。

共鳴するベーゼンの腹の蟲。

表情を変えないヨハンは彼女に問いかける。



「本日は、どうされますか?

 今日は獣人種達の行商も多く見受けられました。

 屋台も目新しいものがございましたよ」


「そうね、いいかもねぇ~」


「お嬢様、上の空ですよ。

 お食事を摂りませんと、お体に差し支えます」



ヨハンの言葉に誘われる様に禁書の山を後にする。

建物を出ると一瞬目の前は真っ白に。

広がる世界は、知識の世界とはまた違った情報が溢れていた。






賑わう商業地区。

屋台の獣人種からの声は空腹のベーゼンを捕らえる。



「よう、兄ちゃん。買ってくか?

 青っ白い顔してっと運気もどっかに行っちまうぞ。

 コイツは、少し独特の臭みがあるが栄養満点だ」


「兄ちゃんって。これでも女です・・・

 おじさん、これ何の肉なの?」



一瞬焦った屋台の店主だったがそこは商人。

一歩前に出る様に前のめりで話を続けた。



「悪いな嬢ちゃんだったか。

 これは、熟成した鹿肉だよ。

 そいつを豆で作った調味料をベースに味付けしたタレ焼いたんだ。

 甘しょっぱくて少しピリ辛で美味(うめ)えぞ。

 あぁそうだ、謝罪にしちゃあ雑だがまけとくぜ」


「熟成した鹿肉かぁ・・・面白そうね。 じゃぁ ──── 」



二人の会話に被る様に青年の爽やかな声。

後方の声はベーゼンの記憶にある。

声は店主だけでなく彼女を襲う。

それに合わせ、ヨハンは声の主に頭を下げる。



「ほぉ、鹿肉の屋台。上品さは無いがそこが良い。

 店主、娘の分も含め10本くれ。ハイネス、支払いを頼む」


「はいよ貴族様、ちょっと待てな。

 じゃあ、嬢ちゃんには謝罪っう事で1本おまけだ」



店主は、10本の串肉をハイネスに手渡す。

そして、1本をベーゼンへ。



「嬢ちゃん、しっかり食って顔色良くしな。

 顔色がいいと印象も違うぜ。なぁ、貴族の兄ちゃん」


「・・・ありがと」



ジェラールは、何処か飄々とした表情の彼女を誘う。

振り返らない彼。その背から感情は読み取れない。


「ベーゼン、食べ歩きも悪くないとは思わないか? どうだ、一緒に

 さすがに二人では、数が多くてな・・・」


そこにある声は、いつものジェラール。

ベーゼンは、複雑な想いの中に高揚感を見つけた。

それでも一歩引いている自分がいる。

戸惑いながらも、心は思考を抑え込む。



「はい、ジェラール様」



二人と従者達は、露店をめぐり空腹を満たす。

いつもの様に会話はない。

あるのは静かなベーゼンと、気遣う様に話を振るジェラール。

商業地区を少し離れ、湖を眺める丘で二人は足を止めた。

ジェラールは振り返り、ベーゼンに視線を送る。



「どうしのだ、今日はやけにしおらしい・・・警戒か?

 うむ、あの時の話か…物は言いようだったか、すまない。

 しかし、軽い気持ちで伝えた訳でないぞ」


「それは・・・・

 嬉しかったです・・・でも」



ベーゼンはお茶会での事を想い出す。

そこには、淡い想いと相反する合理的な思考。

二人を包む様に爽やか風が丘を流れた。


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