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二匹の蟲は本を貪り夢を語る

窓を開けると差し込む光は寝起きのベーゼンをベットへ通し戻す。

それを見つめるヨハンはため息。

彼女は、ベーゼンの護衛兼専属メイドとなっていた。

祖母の様な仰々しい演技を嫌う彼女は濡らしたタオルをそっと主人へ近づける。

そこは間諜、ベーゼンに気取られる筈はない。

意識外からの冷気の衝撃。

ベーゼンの友(睡魔)はあっさり退散。

残るのは可憐な悲鳴そしていつもの怒号。


「キャーーー・・・・ちょっとヨハン!」


メイド服の従者はまたため息。

返るのは冷たい視線と女性にしては少し低い声。


「お嬢様・・・起きたならご準備を

 もう一度、お休みになるとおっしゃるなら構いませんが、 

 自由なお時間が減るだけですよ・・・読書とか」


眉を顰めたご令嬢はハッと目を見開く。

そして、メイド服の従者が用意したドレスを横目に、

少し短めのワンピースとショートのドロワーズに着替えた。

その手際の良さは異常。


「お嬢様! そんなはしたない恰好では!」


従者の声を残し部屋にはもう影も形も無い。


食事を終え、母の嫌味と家族の苦笑に見送られたベーゼンは明るい。

輝く湖を横目に街の図書館を目指す幼女風味の少女。

変った少女を稀有に思う視線は多いがどれも一瞬。

ベーゼンは走るテンポを落とし街並みを眺めた。

そこには彼女を”あ(・)の(・)"と罵る者は居ないだろう。

目の前に広がる露店、そして正面に控えた巨大な建物。

人々の活気が彼女の気持ちを高揚させた。





図書館の中は外よりは幾分静か。

ベーゼンの高揚感は最高潮。

駆け出す足を落ち着け受付へ

メイド姿のヨハンがそっと入館料を支払う。

すると、受付は静かに説明を始めた。


「────── となっております。

 くれぐれも蔵書を傷つけぬ様お願い致します」


恐怖心を煽る説明を受けベーゼン達は知識の園へと入っていく。

一般知識から専門分野、騎士が守る禁書のエリアまで存在した。

両脇を囲うように建ち並ぶ本棚を眺めつつ、求める知識のエリアへと進む。

専門知識や新理論を記す書物が増えれば声の数は減っていく。

何冊か抱え椅子に座るベーゼン。

斜め向かいには一人座っているが彼女には関係ない。

翌日も、また翌日も同じ席に同じ顔。

会釈は交わすが他人でしかない。

あちらも貴族だろうか、主人より少し大人びた青年従者を連れている。

主人の顔色は何処か青白い。




5日目だろうか、ベーゼンは魔力の流れの書籍を探した。

それは容易く見つかるも、相席の青年の目的と被る。

彼は優しく微笑み本を譲るが何処か具合が悪そうだ。

ベーゼンは眉を顰め一瞬思考。

表情を和やかに彼を気遣う。


「ありがとうございます・・・

 ぶしつけな質問ですいません、顔色が優れないようですが?」


彼女の質問に彼は優しく返す。

表情こそ優しいが、何処か苦痛を押さえている。


「いや、大丈夫・・・・ちょっと魔力に当てられやすい体質なんだ」


ベーゼンは思う、それで魔導理論かと。

珍しく母の様にお節介になるベーゼン。


「貴方って魔力の保有は少ないわよね。

 でも、感応性は高いんじゃない?」

 

「あぁ、よくわかったな…君は医療師か神官の卵か?」


ベーゼンの口からは気の抜けた声、そして納得。


「えっ・・・ん~、確かにそれも可能性よね。

 でも、違うわ。 私の夢はもっと大きいの」


声を挟むヨハンは、ベーゼンを窘める。

同じように彼の従者も動いた。

別れ際にベーゼンは一冊の本を渡す。


「この本には魔力を体内から抜く理論が書いてあったわ。

 できるかは知らないけど読んでみるといいじゃないかな?」


顔色の悪い青年は笑みを浮かべ、彼女に言葉を返す。


「ありがとう、明日も来るのかい?」


「そうね、来たいわ。 居心地がいいから住みたいくらい」


青年の表情は少し明るくなる。

それを見つめる彼の従者の表情も何処か優しい。


「フフッ、君は面白い女性だ。 また会えることを願うよ」


男が背を翻しその場を去る。

従者の男は深く頭を下げ、彼に付き従った。

ベーゼンの後方では何か言いたげなヨハン。

ベーゼンは空気を察し先手を取る。


「・・・はしたないでしょ。 わかってるわよ。

 でもあの目・・・・寂しそうだったから」


ヨハンはベーゼンの言葉に、ため息をつく事無く静かに頭を下げた。

その日、対面の青年はそのまま帰り、ベーゼンは1人夢を追う。





青年との会話から数日。

挨拶を交わし、本の交流をする二人。

静かに見守る従者をしり目に少しだけ会話は弾む。

時には互いの夢を語るもその違いは大きい。

一方は自らの健康と余生。

もう一方は奇想天外な夢物語。

他愛も無い会話が笑みを生み。

二人の笑みは、控える従者たちも笑顔にする。

しかし、その日は少し違った。

目の前の青年の顔色はいつも以上に優れない。

ベーゼンは、彼の言葉を思い出す。

そこに浮かび上がる言葉”魔力に当たりやすい"。

彼女はハッとする。

老師は彼女に伝えた事。


『魔力の強い者からは魔力が漏れてしまう事があるんじゃ。

 特に女性はな・・・気を付けるんじゃよ』


その時は気にも留めなかった言葉だが今は分かる。

気分や体調が悪い時程、女性は魔力が高まるのだ。

それはベーゼンの様に巨大な魔力を持つ者には顕著。

平時でも僅かながら魔力は滲み出る。

ベーゼンは眉を顰め唇を噛む。

目の前では、魔力に当てられた青年が息を荒く倒れている。

彼の従者は、受付に医療師への連絡を頼みに。

ベーゼンは、ヨハンに視線を送り声を投げた。


「ヨハン、人払いをお願い。

 彼の内包魔力を発散させるわ!

 貴方にも影響があるかもしれないから下がって!」


言葉にするのは簡単がだ、そんなことを行った者はいない。

理論としては存在していても、実例がない以上どうなるかも不明だ。

しかし、あれほど荒かった息遣いは今は弱々しい。

ベーゼンは、彼の周りに魔法陣を描き彼の胸に手を当てる。

目の前で横たわる青年に無意識に昔の自分を重ね呟く。


「大丈夫・・・私だけは見捨てない」


その時、彼への親切心の裏側に自らの心の変化を感じ取った。

昔は無かった家族の愛、そが彼女(彼)を変え、過去の自分を救おうとする。

魔力は、天井を越え天高く上る光の柱を作り出す。

目の前の青年は、苦痛の表情が和らぎ息遣いも安定。

医療師の到着する頃には、一部を除き全ては元通りに戻っていた。

目覚めた青年は辺りを見回す。


「ハイネス・・・私は夢を見たよ。

 あの面白い女性に助けられたんだ・・・・彼女は何処に?」


一方、ベーゼンは状況に焦っていた。

彼女を引き留めるヨハンの言葉からも逃げる様に図書館から逃亡。

口から洩れる呟きは断罪を待つ死刑囚の様。


「本が燃えた・・・ありえないわよ・・・でも見つかったら不味いわ。

 お母様に叱られる・・・・いえ、今度こそ修道院に入れられてしまうわ‥‥」


それは、大量の魔力の放出に伴い、魔法陣の一部が暴走。

媒体である魔導書は耐えきれず燃え上がり消滅した。


青年は沈んだ夕日を背に、静かに佇む月に想いを描く。

今までに出会った事の無い女性の事を。


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