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昭和38年 ~令和最新型のアラフォーが混迷の昭和にタイムスリップしたら~【なろう版】  作者: 朝倉一二三


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140話 涼しい風


 優しき巨人、岩山君に子どもが生まれた――男の子だ。

 いい奥さんと可愛い子ども、彼の人生はこれから忙しくなる。

 ノンストップだ。


 建設中の別宅もそろそろ完成しそうだし、八重樫君の週刊連載も順調である。

 その先生が、スタジオを訪れている編集者の丸太さんに気があるらしい。

 やっと彼にも春が来そうか?


 ――暦は8月過ぎ、ヒカルコに中元などを各所に送ってもらう。

 新聞にアメリカのテキサスタワー乱射事件のニュースが載った。

 これって映画にもなった話だよな――昭和41年だったのか。

 事件は、テキサス大学時計台の屋上を占拠した犯人が、ライフルを使って眼下の人たちを無差別銃撃した事件である。

 まったくもって恐ろしい。


 8月に入ってずっと曇りだったのだが、晴れた日には気温がぐんぐん上昇。

 34度~35度にもなった。

 ここまでくるとさすがに暑い。

 クーラーが欲しくなるが、どうしようか迷う。

 なにしろ、この時代のクーラーは高価なのだ。


 1台11万円~14万円ぐらいかな、令和なら100万円超えは確実。

 高価なのは確かだが、俺もヒカルコも家で仕事やら作業をしているので、暑いのはしんどい。

 34度の中で、Tシャツ1枚の汗ダラダラで小説を書いているヒカルコが不憫だ。

 つ~か、もう文豪なんだ、自分でクーラー買えよ――と思うのだが……。

 女は暑さに強いのだろうか?


 それに、シャツ1枚だと、胸の形が目立つんだよなぁ。

 人目がないとはいえ、ちょっとな。


 暑いのは人間だけではない、コノミが面倒をみている金魚も暑さにやられている。

 水が30度ぐらいになると、金魚も夏バテをするようだ。

 水がぬるくならないように頻繁に換えたりしているのだが、底のほうで口をパクパクさせている。

 どうみても調子が悪い。


 そんな金魚より、俺のほうが先に音を上げた。


「だ~っ! もう我慢できん!」

 俺は立ち上がって、出かける準備をした。


「どうしたの?」

「電気屋に行って、クーラーを買ってくる」

「ええ?! クーラーって高いと思うけど……」

「高いけど、金ならあるし。仕事のための環境整備に使うなら、経費で落ちるだろう」

 住居と共用でも、半分はいけるはず。

 まぁ、高価なので減価償却やらあると思うが、そんなのは全部税理士任せだし。


「無理しなくても……」

「涼しいほうが仕事もはかどるだろ?」

「それは、そうだけど……」

「俺としては、文豪が仕事する環境を整備してやらないといけないからな」

「私は気にしないけど……」

「そうはいかん。そのうち新田川賞とかノーベル文学賞を取るかもしれないし」

「そんなわけないと思うけど……」

 彼女は自分の実力を過小評価しているのだが、傍から見ればそんなわけがない。

 ノーベル賞は冗談としても、賞の1つ2つ取れてもおかしくはないのだ。

 三流作家の俺から見てもそう思う。

 数年後にノーベル文学賞を取る大先生もそう思っているから、評価してくれているわけだし。


 暑くて汗だくなのはヒカルコも一緒なので、反対するつもりはないようだ。

 それに車を買うよりは実用的だと思うのだが?

 ここで車を買ったとしても、生活が便利になるシチュエーションが見えない。

 俺が出かける準備をしていると、大家さんがやってきた。


「あらぁ? 篠原さん、お出かけ?」

「はい、ちょっと買い物に……」

「そうなの」

 俺が出かけたあとに、ヒカルコから俺の買い物のことを聞くに違いない。


 俺は外に出ると、建築をしている大工や内装をしている職人たちに挨拶をしてから出かけた。

 今やっているのは内装の仕上げなので、外側だけみると完成している。

 引き渡されたら、引っ越しするのが楽しみだ。


 そうだ――金庫の引っ越しだけ、手伝ってもらえないだろうか。

 金庫の設置場所は、2階の1角にある。

 補強も入れられて万全だ。


 新しい別宅のことを考えながら、国鉄の駅に向かって歩く。

 いつもの商店街を抜けると、建設中の巨大ショッピングモールが見えてきた。

 こちらも完成は10月ということで、外側はほぼ完成している。

 今は中の仕上げをしている真っ最中だろう。

 買い物をする場所が増えるのはありがたいし、洒落た店ができることを期待したい。


 平成に入って、ここのショッピングモールを訪れたことがあったが、そのときとは店も違っているだろうし。

 令和には各フロアが某漫画専門店で埋まっていたが、開業始めのときにはそんなことはないのだろうし。

 いったいどんな店が入っているのだろうか。

 今から楽しみだ。


 駅前商店街を抜けて、俺は駅前の電気屋に到着した。

 店の前に出ている新製品を眺める。

 随分と新しい家電が増えたような気がするなぁ。

 やっぱり景気がいいのだろう。

 それを肌で実感できるようだ。


 しばらく眺めていたのだが、俺の姿を見つけたのだろう――ハッピを着たいつもの店員が飛んできた。


「お客様! 今日はなにをお探しでしょうか?」

「クーラーが欲しくてな」

「クーラーお買い上げ、ありがとうございます~!」

「おいおい、まだ買うって言ってないぞ?」

「なにをおっしゃいます! さぁ、こちらへ!」

 店員に引っ張られてクーラーの置き場に向かうと、2台の家具調家電が壁に設置されていた。

 高価なものだし、家庭用クーラーなんて普及し始めたばかりなのであまり種類はない。

 それでも、みるからに新製品らしきものが壁にある。

 ガワは木目で、大きなダイヤルがついたタイプ。


 この時代、なんでも家電は家具調だな。

 やっぱり高価なものなので、高級感を出したいんだろうな。


 TVもステレオも全部木目の家具調。

 そいつにヒカルコがレースをかけたそうにしているので、止めた。

 電話やドアノブにレースも止めてほしい。

 ただ使いにくいだけだ。


 家具調はさておき、この時代の家電にリモコンなどは存在しておらず、直接手で操作する。

 クーラーの前に行くと、スイッチを入れて大きなダイヤルを回して温度を調整する。

 不便だが、TVなども皆そうだ。

 このあと有線のリモコンなども開発されたりするのだが、線が邪魔でやっぱり不便だった。


 TVのリモコンもコードが伸びていて、ボタンを押すとガッチャンガッチャンとダイヤルが回る。

 確かに立たなくてもいいわけだが、やはりなにか違う。


「こっちの機械のほうがどうみても新しいタイプだな」

 俺は並んでいるクーラーの筐体を見比べた。


「お客様! お目が高い! 実は――」

 こっちのクーラーはテストバージョンらしい。

 試作品を客に試しに使ってもらう、いわゆるプロトタイプ。

 もちろん、客が望めばって話だ。

 プロトタイプじゃ、どんな不具合が出るか解らんしな。


 それでも、車のように危険があるわけでもなし、面白そうだ。

 それにプロトタイプ、試作機は男のロマン。


「――ということは、普通のより安くしてもらえるのかい?」

「大きな声では言えませんが――はい」

「それに試作品だから、なにかトラブルが起きる可能性もある――と?」

「そうです――が、なにかあれば、メーカーの技術者が飛んできますよ」

「本当に不具合があるなら、至急直さないといけないしな」

「はい」

 来年あたり14万円で売りに出すものを、12万円で買えるらしい。

 先に言ったとおり、トラブルの可能性もあるが、迅速に対応してくれるようだし。

 これは買い得だろう。


「よし、買った!」

「毎度ありがとうございます~!」

「悪いが、現金払いな」

「本当はローンを組んでいただきたいのですが……」

 ローンを組むと、ローン会社からキックバックがもらえたりするから、ローンを組ませたがる。


「自営だからな。ローンが通らねぇかもしれん」

「自営ということは、社長さんなんですよね?」

「まぁ、そうだな」

「よっ! 社長!」

「おだてても現金払いな」

「わかりました~」

 この時代は、家電の値段が高いから、本体を売れば儲かるんだろうし。


「あ、そうだ! クーラーって取り付け工事があると思うんだけど、別料金かい?」

「いいえ、サービスにさせていただきますよ」

「それはありがたいが、大丈夫かい? 儲けのほうは」

「いつもご贔屓にしていただいてますから」

「それじゃよろしく頼むよ。時間はかかりそうかい?」

「いいえ、数日中には、伺えると思います」

「そうなんだ」

 こんな高いクーラーをポンと買える家はそうそうない――ということは、取りつけ工事もそんなに混み合ってないということなのだろう。

 それに、暑いと言っても、平成令和のように灼熱地獄でもない。

 クーラーがなくても扇風機でなんとかなるし。

 未来の東京は、クーラーがないと命の危険も心配されるレベルだしなぁ。


 料金を現金で支払い、領収書をもらった。

 当然、住所も伝える。


「買うもの買ったし」

 さて、帰るか――と思ったのだが、立ち止まった。

 そういえば――第2秘密基地に設置するものが必要か。

 照明は、第1秘密基地にある蛍光灯をそのまま持って行って――いや、外してあそこまで運ぶのが面倒だな。

 それと、扇風機ぐらいは必要な気がする。

 第1基地にあった扇風機は、コノミが使っているので、すでにない。

 購入したほうがいいだろう。

 冬になったら、石油ストーブも必要かもな。

 まぁ、服を着たままやってもいいけど。

 それともこたつを買って、こたつの中でゴニョゴニョするか。


 それと、途中でベッドも買わにゃならん。


「あ、そうだ」

 ベッドもそうだが、使うとシーツが汚れたりするなぁ。

 洗濯機がいるか? ちょうど、水道と電気は来ているしな。


「あの~なにか?」

 俺がフリーズしていたので、店員が話しかけてきた。


「いや、天井に吊るす蛍光灯と扇風機を1台くれ。それと洗濯機だ」

「ありがとうございます~!」

 扇風機も物価が上がったのに、以前に買ったものと比べて値段は少々安くなっている。

 電化製品が沢山売れて、量産効果で値段が下がってきているのだろう。


 扇風機の梱包を解いてもらう。

 梱包はいらないし。


「さて、どうするか……」

 タクシーに乗って、そのまま第2基地に行くのだが――ベッドも買いたいしな。

 俺はいつも家具を買っている、商店街の家具屋に歩いて向かった。

 ベッドを買ったあと、大通りでタクシーを捕まえて、第2基地に向かえばいい。


 家具屋に到着すると、ベッドを注文した。


「ベッドをくれ。シングルで一番安いやつでいい」

「へい! まいど~」

 いつもここで家具を買っているから、相手も俺のことを覚えているようだが、今回は運ぶ場所が違う。

 間違えないように伝えた。

 荷物は大工の彼に受け取ってもらおう。


 ついでに寝具屋に行って、シーツや毛布を買う。

 どうせたまにしか使わないんだが、シーツは複数枚いるだろ。


 色々と考えていると、無駄なことをしているような気がしてきたのだが、俺の人生には必要なスパイスだと思っている。

 たまにはアホなことをやらんとツマランだろう。

 それが、面白い方向に転がることもあるしな。


 買うものを買ったので、瓶コーラなどを買い込むと、大通りでタクシーを捕まえて第2秘密基地に向かった。


「お~い、いるかぁ~」

 タクシーから降りた俺は、倉庫の中に躍り込んだ。


「う~す! あと、1週間ぐらいっすよ」

 今日は若い大工が1人だった。

 倉庫の中の部屋はすっかりとでき上がっていて、中の仕上げをしている。

 中は床張りなので、少々手間がかかるのかもしれない。


「悪いが、部屋に入れるベッドや洗濯機やらが到着するので、受け取っておいてくれないか?」

「いいっすけど、洗濯機っすか?」

「あそこに置こうかと思って」

 俺は水道の蛇口がある場所を指した。

 洗濯機の排水は、そのまま垂れ流しだが、たまに洗濯するぐらいなら問題ないだろう。

 干す場所は、倉庫の中に紐を張ればいい。

 まぁ、やっぱりスゲー無駄なことをしているような気がするが、楽しそうだからよしとする。

 本当に秘密基地っぽいじゃないか。

 そのうち住みたいとかいい出すやつがいるかもしれない。

 そのときにはグレードアップすればいいしな。


 大工の彼には、岩山君の子どもが無事に生まれたことを話してある。

 話を聞いて喜んでいた彼だが、自分の相手はまだいないようだ。


「扇風機置いておくから、暑かったら使ってもいいぞ」

 彼に扇風機とコーラを渡した。

 まだ冷たい。


「あざーす! うひゃ! つめてぇ!」

 瓶のコーラを受け取った彼は、おでこに当てている。


「あ、栓抜きはあるか?」

「開けられるから大丈夫っすよ」

 未来なら、わざわざ電気を引かなくても、バッテリー式の照明やら冷蔵庫でなんとかなりそうな案件だけどなぁ。

 まったくこの時代は不便極まりないが――もう慣れた。

 住めば都っていうぐらいだ。

 もうスマホも金庫の中に入れてしまって、出すこともないし……。

 慣れてしまうもんだ。


 俺は、現場を大工にまかせて、家に帰ることにした。

 これで部屋のものは揃うだろう。

 あとはその都度、細々としたものを持ち込めばいい。


「篠原さん! クーラー買ったの?!」

 家に帰ってきたら大家さんがいたのだが、開口一番これだ。


「最近暑いですし、涼しいほうがヒカルコの仕事もはかどるんじゃないかと思いましてね」

「それはそうなのだけど……お金のほうは大丈夫なの?」

「ええ、もちろんですよ」

 心配する大家さんだが、彼女が思っているより俺は大金を稼いでいるからな。

 なんの問題もない。


 ――数日後、クーラーの工事業者がやってきた。

 取り付けるのは、居間である。

 一番いる時間も長いし、TVもあるし、ヒカルコが仕事をしているし――ここしかない。

 ネズミ色の作業服を着た男たちが3人やって来て、取り付け工事をしている。

 壁に穴を空けたりして大変だ。

 クーラーの仕組みは、平成令和のものとさほど変わらないようである。


 けたたましい工具の音が響く中、書き留めがやってきた。

 サントクの特許料の支払いと、2月に出たムック本の印税である。

 特許料はいつもの爪切りの分と、袋綴じ棒の分も入っている。

 合わせて、350万円ほどだな。

 袋綴じ棒は、宣伝すればもっと売れるかもしれないが、今のところは爪切りでいっぱいみたいだし。

 あれは映像で見せたほうがインパクトがあると思う。

 ドーンとTVCMなどを打ったら売れるはず。

 そこら辺は、サントクの社長さんにも考えがあるのだろう。


 ムック本の方は、定価330円の印税33円を、7対3で分ける。

 本編の単行本は、八重樫君が7で原作の俺が3だが、ムック本は逆だ。

 初版は20万部なので、23.1円×20万部で462万円。


 合わせて812万円か――中々の稼ぎだ。

 金額に喜んでいると、レコード会社からの印税も入っていたようだ。


「ああ、レコード会社の印税もあるのか」

 どうやら、あのロック曲を追加で10万枚プレスしたようだ。

 めちゃ大ヒットになってる気がする。


 レコードが330円で、印税が20%――66円✕10万枚で660万円。

 令和なら、全部合わせて軽く1億円を超える収入である。


 金が入ったが、遊ばせていても仕方ない。

 とりあえずの生活費はそんなにかからないし、あらかた電化製品も買ってしまった。

 このあとデカい買い物をする予定もない。

 あえて買うなら、車か……。


 そりゃ、憧れの車も買えないこともないが、東京に住んでいてそれがどうしても必要なのかと問われると、そうでもない。


「う~ん」

 俺は、株を買い足すことにした。

 銀行に電話をかけて現金を用意してもらい、自宅まで持ってきてもらう。

 お得意様なら、こういうこともできる。

 いや、やってもらわないと、大金を持ってタクシー使ったりしないとアカンし、マジで怖い。

 この時代なら、なにがあってもおかしくないからな。


「取り付け終わりましたぁ!」

 作業員の3人が並んで礼をしてくれた。


「早速スイッチ入れたりしてもいい?」

「はい、どうぞ!」

 俺はエアコンのスイッチを入れてダイヤルを回した。

 動き始めると、唸るような大きな音がする。

 令和のようなインバータ制御ではないから、電気代もそれなりだろう。


 機械が轟々と唸り、すぐに冷たい風が噴き出してきた。


「は~涼しい……」

 ヒカルコが、クーラーの吹き出し口に顔を当てて、涼しんでいる。

 口では大丈夫だと言っていたが、やっぱり暑かったのだろう。

 それに今日は作業員がいるので、薄着じゃないし。

 まさかエロいTシャツ姿を人に見せるわけにはいかない。

 大家さんからも「はしたない!」と、いつも注意を受けているみたいだしな。


「はい、ご苦労様でした。これ、少ないですけど、なにか冷たいものでも飲んでください」

 彼らにお礼を少し渡した。


「ありがとうございます~!」

 作業員たちは帰っていった。


「は~」

 ヒカルコはまだクーラーに当たっている。

 よほど暑かったらしい。

 今日は人が来ていたので、ちょっと厚着だったしな。

 涼しくなったのか、2階に上がるとまたTシャツに着替えてきた。

 落ち着いたので、仕事をするようだ。


 俺は取り付けられたクーラーを眺める。

 横に回路図が載っているのだが、スイッチとモーターとコンプレッサーしか載っていない。

 あとはキャパシタって書いてあるが、これはコンデンサか?

 試作品みたいな話だったが、これだけシンプルなら壊れようがない。

 俺でも直せるのではないか?

 まぁ、モーターやコンプレッサーの破損だと、丸ごと交換しかなくなるが……。


 クーラーが入ってヒカルコの仕事もはかどっているので、俺が昼飯を作ることにした。

 夏らしく素麺だ。


 食事のあともヒカルコは仕事をしていたのだが、そのうちコノミが帰ってきた。


「ただいま~」

「おう、おかえり~」

 ドアを開けて彼女を出迎えると、そのまま2階に上っていった。

 2階の窓は自作の網戸をつけて全開にしてあり、下から上っていった熱い空気は外に抜けていく。

 煙突効果ってやつだ。

 空気の流れがそれなりにあるので、ちょっとは涼しい。

 まぁ、それでも薄着をしないとやっぱり暑いけどな。


「!」

 コノミが2階に上がってランドセルを置くと、すぐに居間にやってきたのだが、戸を開けて驚いている。


「どうした?」

「冷たい! なんで?!」

「あれあれ」

 俺は壁に設置された木目調の機械を指した。


「なにあれ?!」

「クーラーだよ」

「クーラーってなに?!」

「冷たい空気が出てくる機械」

「冷蔵庫と違うの?」

「まぁ、仕組みは一緒かもしれないなぁ……」

「そうなんだ!」

 彼女がクーラーの下に行くと、冷たい風に当たっている。


「冷たい!」

「お腹に当てたりすると、お腹が痛くなるぞ~」

「本当?」

「本当だよ、はは」

 しばらく3人で涼んでいると、お客様がやってきた。


「コノミちゃ~ん!」

「は~い!」

 すぐに玄関に行ったコノミだったが、お友だちを連れて戻ってきた。

 いつもの鈴木さんと野村さんだが、もう1人女の子がいる。

 彼女は新しいクラスに変わってからできたお友だちだ。

 彼女も漫画が好きだが、くだらないものと言われて禁止されている家庭らしい。

 そういうことをすると、余計に欲望が爆発するんだがなぁ……。

 女子なら腐ったりするぞ~。


「すごい! 涼しい!」「すごい!」

「あれが、冷たい風を出す機械! ショウイチが買ってきた!」

「すご~い! クーラーだ!」

「お、鈴木さんはクーラー知ってるんだ」

「はい、サンシー、新3種の神器ですよね」

「おおっ! さすがお姉さん、めちゃ詳しい」

「えへへ……」

 彼女が珍しく照れている。


「あと、車を買えば新3種の神器もコンプリートだなぁ。あ、コンプリートって解らんか」

「ショウイチ! 車買うの?!」

 車という単語に反応して、俺に抱きついてきたのは野村さんだ。


「だめー!」

 それに反応して、コノミも抱きついてきた。


「買えないこともないけど――東京にいたら車はいらないだろ? 電車もあるし、バスや都電もあるし」

「え~?」

 俺の言葉に野村さんが残念そうだ。

 俺の車を買ったら乗せてもらえると思っているのだろう。

 そりゃ、乗せてもいいけど、車は必要ないと思うなぁ……。

 とりあえず、余った金は株を買い足す予定だし。


 ――とまぁ、そんなことを子どもに説明しても理解できるはずもない。

 居間が涼しいので、2階から漫画を持ってきて、涼んだり宿題をやったりしている。

 遊んでいるだけじゃなくて、ちゃんと勉強をしているのが偉い。

 漫画を読みにきている女の子も、成績が下がったりすれば、ウチに遊びにくるのさえ禁止にされるかもしれないしな。


 ヒカルコやコノミたちが涼んでいる間に、今度は株屋に電話。

 銀行屋に運んできてもらった現金を、今度は株屋にもっていく。


 入金額を言ったら、車で取りに来てくれるらしい。

 やっぱり大口は強い。

 株屋の口座に入金が完了したら、担当に電話をかけて口頭で注文を伝える。

 買うのは当然、某花札屋の株の全力買い。

 もちろん信用取引などはしない。

 これからも現金に余裕ができたら買い足し、未来に高騰するまで、ずっとホールドするわけだ。


 いや、途中で原油の先物と、地金を買うために抜くけどな。

 それまでに増えてくれればいいなぁ。

 確か、この会社は昭和40年代にも玩具を作っていてヒット作を出しているんだよね。

 そうすれば、いくらか増えてるんじゃなかろうか。


 そのうち、俺が株をもらったサントクも上場するかもしれない。

 今のところ売上は順調だし、ほかのヒット商品も控えている。

 そういえば、2枚刃や3枚刃のカミソリも作っているらしいし、売りに出せば大ヒット間違いなし。


 株などを買い増ししている間に、第2秘密基地が完成した。



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