139話 昭和のお母さんたち
第2秘密基地を作っている。
散歩ついでに現場の確認などをしていたのだが、帰りに岩山君の奥さんに出会った。
彼女が妊娠していたのは岩山君から聞いていたのだが、まさか臨月だとは……。
奥さんと話していると、突然産気づいてしまい、急遽秘密基地を作っている大工のトラックに乗せてもらい病院に直行。
サントクに連絡を入れて岩山君に伝えてもらうことにした。
この時代には、携帯もスマホもない。
簡単に連絡ができるような時代ではないのだ。
せめて、ポケベルでもあればと思う。
俺だけ病院で待っていると、岩山君が息を切らしてやって来た。
あとは、一家の大黒柱になる彼の仕事だ。
俺は家に戻ることにした。
――そして夕方。
電話がかかってきた。
「はい、篠原未来科学です」
『あ、ありがどうございまじだぁ~』
いきなりの大声で俺は驚いた。
どうやら、電話の向こうで大泣きをしているらしい。
「もしもし? 岩山君か?」
電話番号を渡していたので、早速電話をかけてきたようだ。
『はいぃ~ぞうでずぅ~』
まさか、あんな大男がガン泣きするとは思ってない。
「――ということは、無事に赤ちゃんが生まれたのかい?」
『はいぃ~ぞうでずぅ~』
「そりゃ、よかったな! 奥さんと子どもをだいじにしてあげるんだよ」
『はいぃ~……ちょっと、大五郎! 電話を貸しなさい!』
電話の向こうで揉めている声が聞こえる。
「もしもし?」
『私、大五郎の母でございます』
突然の声に俺は驚いた。
俺が、両親に電話したほうがいいと言ったので、連絡をしたのだろう。
まぁ、この時代に育児休暇なんてないだろうし、子どもを産んだばかりの奥さん1人じゃあまりに大変だ。
両親の協力を仰ぐか、奥さんの実家に帰るという選択が普通じゃなかろうか。
「え? あ、はい――私は篠原と申します」
『ウチの息子と嫁が大変お世話になりましたようで』
「いえいえ、目の前で産気づいた女性がいたら、助けるのはあたり◯田のクラッカーですので」
『おほほ……』
岩山君のお母さんが来たということは、姑が世話をするのだろうか?
『ちょっと! 岩山さん! 私にも替わってくださいな!』
『あなたには関係ないでしょ?!』
『関係なくはないでしょ?! 娘と孫の命の恩人なんですよ?!』
『孫の恩人なら、こちらだってそうなのですから』
なんだか、電話の向こうで揉めている声が聞こえる。
話の具合から、奥さんのお母さんも来ているようだ。
そりゃ、父方母方、両方の孫だからな。
昭和だから、父方のほうが強い感じだろうが、母方も一歩も引いていない感じがする。
奥さんは大人しい感じだったのだが、お母さんは少々違うタイプなのだろうか。
いや、それとも奥さんが猫をかぶっていて、岩山君が尻に敷かれるのかもしれないが。
『もしもし、幸子の母でございます。幸子がお世話になりまして、本当にありがとうございます』
「いえいえ、人として当然のことをしたまでで――」
『このご時世に、奇特なお方だと――』
「いえいえ、とんでもない」
『ちょっと小野さん! こっちもまだ話したいことがあるのよ! なにをするんですか!?』
どうやら、向こうで揉めているらしい。
そのうち――。
『ガチャ、ツーツー』
切れたな。
またかけ直してくるだろうか?
しばらく待っていたのだが、電話はかかってこなかった。
とりあえず、子どもは無事に生まれたらしい。
めでたい。
両家にとっての孫でもあるし。
どっちが主導権を握るかで、揉めているのだろう。
お母さんズしかいなかったようだが、お父さんズもいるんだろうか。
俺は居間に戻った。
「だれ?」
「赤ちゃんの話をしただろ? そこの家族たちだったよ」
「生まれたの?」
「彼の様子からすると、そうだと思う」
「男の子? 女の子?」
「さぁ?」
どうも肝心なところを聞いていない。
まぁ、そのうちまた会うかもしれないし、そのときに聞けばいい。
「赤ちゃん?!」
俺たちの会話に、TVを観ていたコノミが反応した。
「そうそう、俺のお友だちに、赤ちゃんが生まれたんだよ」
「そうなんだ! 見てみたい!」
「あ~、そのうち見られるかもなぁ」
「本当?」
「ん~多分なぁ」
正直解らん。
コノミがどうしても見たいというなら、岩山君の家に行って見せてもらうしかない。
今日は色々なことがあって、どっと疲れた。
早めに寝ることにした。
――出産騒ぎがあって、1週間ほどあと。
今日は日曜日である。
昨日、コノミの学校は終業式で、今日から夏休み。
彼女も朝から起きて、ラジオ体操に行っている。
そのあと、コノミのお友だちが遊びにきているのだが、10時ごろ訪問客があった。
「「ごめんくださいませ」」
聞いたことがない声だが……。
「は~い」
玄関に出ると、岩山君と複数の女性たちがいた。
本当にいきなりやってきたので、驚いた。
彼に住所を渡したけど、アポ無しだったし。
一番デカい岩山君が真っ先に目に入ったのだが、その他にもお客様がいらっしゃる。
彼の前に2人の中年女性――背の高いスーツにズボン姿の女性と、着物姿の小さな女性。
ふたりとも、頭にパーマをかけていて、この頃の流行りといった髪型をしている。
多分、両家のお母さんたちなのだろうが、お父さんズはいないのだろうか。
歩いてきたのだろう、皆汗をかいていて暑そうだ。
クーラーで冷やしてあげたいところだが、今のところそういうものはない。
お母さんが一緒なので、巨体の岩山君がいつもより小さくなっている気がするのは気のせいか。
彼の隣に、赤ちゃんを抱いている奥さんもいる。
もう、歩いて平気なのだろうか?
「はじめまして、大五郎の母でございます。不躾かと思いましたが、ぜひともお礼をいたしたく、まかりこしました」
細身で、痩けた頬の厳しそうなお母さんだ。
岩山君の様子からみても、お母さんは苦手らしい。
チンピラも一発でKOする豪傑でも、オカンは苦手か。
「これはご丁寧に、篠原です。それでは、こちらが奥さんのお母様ですな」
「はじめまして、幸子の母でございます。この度は、本当にありがとうございました」
こちらは、ちょっと小太りでニコニコしている。
奥さんがちょっと丸くなってシワが増えたら、お母さんにそっくり。
微笑んでいるのだが、電話の様子からすると一筋縄ではいかない感じ。
一見優しそうに見えて、怒ると怖いタイプに違いない。
「いえいえ――ここではなんなので、どうぞお上がりください」
「「ありがとうございます。それでは失礼いたします」」
皆を客間に案内すると、座布団を用意して、ヒカルコに声をかけた。
「ヒカルコ、扇風機を貸してくれ」
「うん」
客間に扇風機をセットすると、俺が上座に座った。
俺はあまりそういうのを気にしない人間なのだが、両家のお母さんを見てみると、しっかりとした人たちだ。
やっぱり作法に則ったほうがいいだろう――といっても、俺も詳しくはないのだが。
俺も独身だったし、人と付き合うのは仕事の関係ばかり。
自分の家に人を入れたこともなかった。
だいたい、家はいつもぐちゃぐちゃだし、人を招くような部屋でもなかったしな。
こうやって突然のお客様でも、招き入れてもてなすことができる。
家を買って家族を持つ――ということは、つまり今のようなことなのだろう。
「あの、ツマラナイものですが……」
岩山君のお母さんが、包まれた箱を座卓の上に置いた。
おそらく、饅頭とか煎餅とかそういうものだろう。
そこで戸が開いて、お茶がやって来た。
持ってきてくれたのは、大家さん。
今日はウチに遊びに来ていたのだ。
「聞いたわぁ、岩山さん。赤ちゃんが生まれたんですってねぇ」
彼女は岩山君と一緒に競馬に行った仲だからな。
「うす!」
大家さんが、奥さんが抱いている赤ちゃんを横目で見ながら、氷の入った麦茶を並べていく。
やっぱり冷凍庫があるのはいい。
多分、大家さんも赤ちゃんを見てみたかったのだろう。
渡されたお土産を、大家さんに持っていってもらうことにした。
お客様たちは、彼女を俺の親だと思ったに違いない。
「ああ、そうだ――岩山君、お父さんたちは?」
「う……うす」
「病院に来なかったのかい?」
俺の言葉にお母さんが堰を切ったように話し始めた。
「来ましたよ! 来ましたけど、あとは任せるとか言って、帰ってしまったんですよ! 男ってのはいつもそう!」
「その通りね」
岩山君のお母さんが憤慨しているのだが、奥さんのお母さんも相槌を打っている。
ここらへんは、共通認識なのだろう。
「しばらく連絡がないと思ったら、突然子どもが生まれたとか! 私は、びっくりして椅子から転げ落ちましたよ!」
彼は、実家にあまり連絡していなかったらしい。
「ごめんなさい……」
「謝ればいいってもんじゃないのよ! しかも、今年は丙午じゃないの! 男の子だったからよかったものの!」
「……」
オカンに怒られて、大男がしょんぼりしている。
ああ、ひのえうまなぁ――そういうのもあったなぁ。
令和でも気にしている人はいるけど……。
「まぁまぁ、お母さんも落ち着いて。岩山君、兄弟はいないのかい?」
「弟たちが3人いるっす」
――ということは4人兄弟か。
「ええ?! 岩山君クラスがあと3人もいるってことは、すごい食事量になりそうだな……」
彼1人でも、4人~5人前は平気で平らげるだろう。
彼が特別に大食らいとしても、全員男ってことは、やっぱり食事の量がとんでもないに違いない。
「その通りです! もう台所は朝から晩まで戦場よ!」
岩山君のお母さんが立ち上がった。
そりゃそうだろう。
1人で、全部その量を用意するってことは、並大抵ではないはず。
「――ということは、岩山君は長男なんだ」
「うす」
長男なのに大五郎――大一郎とかじゃないのか?
「私も長女です」
赤ちゃんを抱いた奥さんが小さく答えた。
奥さんの実家――小野家というらしいが、4人姉妹らしい。
こっちは全部女の子だ。
それまた大変そうだが――女の子なら食事の用意などは手伝ってくれそうではある。
「それじゃ、両家にとって初孫ということになるねぇ」
「はい」
彼女が赤ちゃんをあやしながら微笑んだ。
産後ではあるが、調子は良さそうに見える。
「篠原さんには、大五郎の就職の世話までしていただいたそうで……」
「はは――ちょうど、知り合いの会社が大変そうだったので、紹介したのですよ。岩山君みたいに一流大学出ている人を紹介するには小さな会社だったのですが……」
「とんでもございません。今すごい勢いで会社が大きくなっているそうじゃありませんか」
「そうですね。多分、このまま大きな会社になると思いますよ。新製品もドンドン作ってますし」
「それに、結婚祝いと出産祝いも驚くぐらい沢山いただいたとお聞きしましたが……」
今度は、奥さんのお母さんだ。
「ああ、それはですねぇ。岩山君にちょっと金儲けのお手伝いをしてもらったので、その分前みたいなものなんですよ」
「「……」」
両方がこちらを見ている。
いったいなんの商売なんだろうと思っているのだろう。
「あの――怪しい商売とか、違法行為をしているわけじゃありませんよ、ははは。それでもまぁ、口止め料込みでの金額なのですが……」
一応言い訳をしてみるが、大金を祝いにくれるなんて、改めて言われると自分でも怪しいと思う。
俺は矛先をそらすために、奥さんに話を振ってみた。
「でもなぁ、岩山君の食事を作りながら、赤ちゃんの世話をするのはちょっと大変だねぇ」
「は、はい……」
奥さんもそれは理解しているのだろう。
普通の旦那ならなんとかなりそうだが、岩山君の場合はそうもいかない。
なにしろ、あの食事の量だ。
「やっぱり、お母さんたちの助けが必要だろうねぇ」
「もちろんですよ! 私も、最初からそのつもりです!」
「こちらだってそうですよ!」
両家のお母さんたちが引かず、イニシアチブを取ろうと必死だ。
お父さんズは完全に蚊帳の外。
昭和なら男の実家のほうが強いと思うのだが、奥さんのお母さんも一歩も引かない。
これは中々のツワモノだ。
「まぁまぁ、どちらかが主導権を握るではなく、初孫の幸せのために協力して当たる――そうはいきませんかねぇ」
「そ、それはそうなんですけど……」「……」
俺の言葉に2人が顔を見合わせた。
「それに岩山君の実家にはまだ弟さんたちがいるのでしょう? お母さんがお孫さんの所に行ってしまったら、困ることになりませんかね?」
「あの子たちだって、いい歳なんです。自分たちのことは自分でできるでしょう?」
「そうかもしれませんねぇ」
一応、そう言ってみたのだが、昭和の男たちは家事能力が低い。
そういうものは女にやらせるものだと考えているからだ。
お母さんは、自分たちでできるでしょ? ――と言っているが、俺は無理だと思っている。
両家の話し合いの結果。
双方のお母さんが泊まり込むことで同意。
俺はホッと胸をなでおろした。
なんで俺がこんなことの仲裁をしているんだよ。
困ったことがあったら相談に乗るとは言ったけど、岩山君の仲人でもなんでもないぞ?
そんなことより思い出した。
「奥さん、ウチの子が赤ちゃんを見たいと言ってるんですが、見せてあげてもいいですかね」
「ええ、もちろん」
「ありがとうございます」
俺は、部屋から出ると階段の下から、コノミを呼んだ。
「お~い、コノミ~!」
「なぁに?」
彼女が階段の上から顔を出した。
「赤ちゃん見たくないかい?」
「見たい!」
「赤ちゃんが来ているから、下においで」
「うん!」
「赤ちゃん?!」「私も見たい!」
コノミの後ろから、鈴木さんと野村さんも顔を出した。
「いいよ、おいで」
「やったぁ!」
女の子3人が、階段をバタバタと降りてきた。
走ったりすると危ないとは言ってあるのだが、聞きやしない。
まぁ、俺も二段飛びとか三段飛びとかやったからな。
布団に包まって階段を転げ落ちるとかやりそうで怖い。
一応、そういう危ないことは絶対にしないようにと言ってあるが。
「「「わ~い!」」」
女の子3人が客間にやって来て、赤ちゃんを覗き込んでいる。
「かわいい!」
そうかなぁ……顔は真っ赤だし、猿みたいなものだと思うが……。
もちろん、口に出しては言わないが。
「鈴木さんと野村さんは、弟や妹がいるから、赤ちゃん見たことがあるだろ?」
「でも、私も小さいときだったから……」「うん、私も」
そうか。
そういえば、彼女たちの兄弟姉妹は、歳が結構近いからなぁ。
小さな頃は記憶はないかもしれない。
「じ~っ」
コノミが本当に赤ちゃんを覗き込んでいる。
「どうしたコノミ?」
「かわいい」
「そうだよなぁ」
「私も赤ちゃんほしい……」
小さな赤い顔を見ていた彼女がつぶやく。
「ははは、まぁ欲しいと言って手に入るものじゃないしなぁ……」
話を聞いていた女性たちも、子どもの言葉に笑っている。
まぁ、俺とヒカルコの間に子どもが生まれる可能性はあるがなぁ。
それは籍を入れてからと思っている。
それに望んだからといって、すぐにできるわけでもないのだが。
俺が種無しの可能性だってあるし。
――挨拶と話し合いは済んだので、両家が帰宅した。
なんだか疲れたわ。
「赤ちゃん可愛かったわねぇ」
大家さんが居間でお茶を飲んでいた。
「両家とも、大家さんのことをウチのお母さんだと思ってましたよ――多分」
「おほほ」
岩山君と一緒のときには、「大家さん」と俺が呼んでいたし、彼は知っているだろう。
あとで皆に説明してくれるかもしれない。
「大家さんにも孫ができたら、やっぱり取り合いするんですか?」
「いやぁ――そういうのは向こうに任せてしまうわぁ」
彼女はあまり孫には興味がないらしい。
「子どもが嫌いだとか?」
「そんなことはないのだけど、向こうがやりたいというならねぇ」
まぁ、取り合いをしたりはするつもりはないみたいだな。
「ヒカルコは? 赤ちゃんを見にこなかったが……」
「人の赤ちゃんだし……」
今のところ、興味なさそうな感じではある。
そりゃ、赤ちゃんが欲しいなら、すぐに俺と入籍しているはずだしな。
彼女がなにを考えているのか、よく解らん。
――その夜、7時から、空想科学ドラマ「ウルトラ星人」が始まった。
令和でも続いてるシリーズの輝かしい初代であるが――。
やっぱり、先日始まったサンダーロードに比べると、完成度はイマイチといった感じか。
始まったばかりで手探り感も強い。
ここから徐々に洗練されていくわけであるが。
一応、八重樫君にも勧めておいた。
今後、人気シリーズになるのは間違いないからな。
――さて、岩山君の所には両家のお母さんたちが同居して生活が始まったらしいのだが……。
5日ほどで、岩山君の実家からSOSが届く。
急遽お母さんが帰宅すると、家の中は酷い有様だったという。
お母さんの金切り声が、響き渡ったのは言うまでもない。
なんでそんなことを俺が知っているのかといえば、岩山君のお母さんが公衆電話から電話をかけてきたからだ。
「なんで、たった5日で家の中がぐちゃぐちゃになるんですか!」
そんなの知らんよ。俺に言うなよ。
「私にそう言われましてもねぇ」
「まったく! 男どもときたら!」
なんで俺が愚痴を聞く羽目になっているんだ。
だから俺は仲人でもなんでもねぇし。
「でも、岩山君のお母さん。ものは考えようですよ」
「どういうことですか?」
「あと数年すれば、息子さんたちは全部家から出るわけでしょう?」
「それは、そうですねぇ」
「そのあとは、息子さんたちが稼いでくれますから、悠々自適な生活ができますよ」
「……そう言われてみれば、そうですねぇ!」
「そのときになれば、孫も沢山生まれるでしょうし。よりどりみどりですよ」
「わかりました! そう考えると、随分と楽になりました。ありがとうございましたぁ!」
電話が切れた。
今回の孫のことは諦めて、奥さん側の実家に任せるようだ。
どう考えても大食らいの息子たちの世話をしながら、孫の面倒を見るのは不可能だろう。
今回のことで、お母さんも理解したらしい。
それに対して、岩山君の奥さんの実家である小野家だが――。
花嫁修業万全の妹さんたちが、お母さんのいない穴を埋めてしっかりと実家を回していたという。
これはもう完全に勝負ありだな。
そのうえ、小野家のお母さんは娘たちを交代で呼び寄せて、子育ての実習もさせているらしい。
赤ちゃんのあやし方、夜泣きへの対応、おむつの洗い方などなど――まさに実地に勝るものなし。
このお母さん、かなりのやり手である。
娘さんたちもいいお母さんになるだろうこと、請け合いだな。
おかげで岩山君も安心して、家を任せることができると言っていた。
いかにも昭和の専業主婦って感じだよなぁ。
別に令和のスタイルがアカンとは言っていない。
時代によってライフスタイルの変化は致し方ないのだ。
なにはともあれ、岩山君の家が順調でよかった。
彼には色々と世話になったし、また世話になるかもしれない。
彼の代わりの人間を雇うという手もあるが、金儲けができると解ると掌を返すかもしれん。
岩山君のような真人間ばかりとは限らない。
それに、ここは令和ではなくて、やったもん勝ちの昭和だしな。
岩山君の家族に振り回されながら、合間を縫って予定納税も済ませた。
子どもが生まれて大騒ぎになっても、税金は待ってくれないのだ。
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――そのあとは、7月の末に矢沢さんの漫画の2巻が発売になった。
ある日、相原さんが夜にやってくると、俺に単行本を手渡し、コノミに抱きついている。
「お? セーラー服戦士の2巻ですか?」
「はい、初版25万部ですよ」
「おお~、やっぱり売れているなぁ」
「はい、コノミちゃん」
彼女がコノミにも本を手渡した。
「やった! ありがとうございます」
「はぁ~コノミちゃん、可愛い! クンカクンカ」
セーラー服戦士の2巻が出たということは、矢沢さんの漫画家人生も順調に滑り出したな。
彼女はストーリーも作れるし、勢いがつけば1人でもなんとかなるに違いない。
お母さんと一緒に東京で暮らすのも夢じゃなくなってきたってわけだ。
――そのあとは、なにごともなく暦は8月に入った。
コノミは夏休みを満喫していて、ヒカルコは朝のTVドラマに夢中である。
医者志望のヒロインが女を助けたのだが、その女に軍人の婚約者を寝取られそうになったり、婚約者が演習で亡くなったり、医者を目指していたのに諦めて産婆として働いたり――という、いかにも女性が好きそうなストーリーである。
どうやら、巷でもすごい話題になっているようだ。
視聴率は50%前後と大人気らしいのだが、俺はまったく興味ないので、スルー。
別宅と、第2秘密基地の建築も順調である。
色々とイベントがあったが、八重樫君の週刊連載も順調であり、人気もあるらしい。
担当の丸太さんも、喜んでいた。
そうそう――打ち合わせのときに先生がやってきたのだが、どうも丸太さんのことが気になるらしい。
彼は美人タイプにはまったく興味がなく、ああいうタイプが好みのようだ。
ウチにやってきた丸太さんに話を聞いてみたが、彼女は家事も卒なくこなし料理も得意だという。
聞く限り、良妻賢母タイプ――これは、やっと先生にも春が来るか?
彼には焦らずに、攻めて行けと言ってある。
もちろん、こちらからの援護射撃はするし、先生の誠実さやよいところなどもさり気なくアピールしてやらなくてはなるまい。
その前に、なんでおれが恋愛相談受けてるんだ。
まぁ、いいけどさ。
八重樫君には世話になっているしな。
たまに散歩がてら、岩山君の家にも寄ってみるが、赤ちゃんも順調そうだ。
家の前には沢山のおむつが干してあり、いかにも赤ちゃんがいる家庭というのが伝わってくる。
その時も、奥さんの妹さんが来ていたのだが、顔がそっくりだった。
多分4人姉妹が、皆同じ顔をしているのではなかろうか。
そう考えると、岩山君の実家の弟たちも、皆同じ顔だったりして。
もう、4人姉妹と4人兄弟同士で、結婚したらいいのではなかろうか。
恋愛の末一緒になるのであれば、それは構わないが、相手もおらず見合いをするというのではあれば、そういう選択もありじゃないか?
今度提案してみようか。
――などと考えていたのだが、気がついた。
なんでここでも、また仲人みたいなことをやる想定をしているんだ。





