Interlude
暗闇の中、円卓を男たちが囲む。
「──日本で、『従わぬアリス』の存在が確定された。それも、複数だ」
俯く男たちの表情は見えない。
「それだけではない、『キャロル』の存在も確認されたと言うではないか」
「『従わぬアリス』はともかくとして、『キャロル』の存在は、『計画』の妨げとなること必至。除外の必要性を感じる」
「今は、まだ問題はない」
「左様。彼の『従わぬアリス』の能力は未だ不十分。遍く世界に『幻想』を与えるほどの能力に能わず」
「ならば、いかにする?」
「しばらくは、放置するか?」
「それは叶わず。いかに力の足りぬ『アリス』と言えども、『キャロル』と共にある者を放置するのは、あまりにも危険すぎる」
「──我々は、幾度もの失敗を経て、今日へと至った」
「幾度もの失敗から学んだのだ」
「危険をそのままにしておくことの過ちを」
「我らの『管理』がなかった時代の暗黒を、歴史として学んでいる」
「サラエボの少女を彼女のおもむくままにしておいた過ち、忘れてはおらぬ」
「上海での我らの手を離れた少女たちの邂逅を、忘れてはおらぬ」
「我らが『管理』したことで、世界は平穏を守ってきたのだ」
「ブカレストの少女に明日を祈らせたのは我々だ」
「ニューヨークの少女とカブールの少女の出会いを演出したのも我々だ」
「それにより、世界の平穏は保たれている」
「我々が、『管理』しているからだ」
「我々が、世界の平和に責任を持っているからだ」
「故に──」
「争いの種は、摘まねばならぬ」
「我々が関知せぬ争いは、許してはならぬ」
「世界の平和は、我々の手の中にある」
「それはすなわち、世界の争いも全て我々の手の中にあるということ」
「世界は、我らの手の内になければならぬ」
「そこからこぼれ落ちる存在を許容するか?」
「否、許容はできぬ」
「ならば、我々が取るべき行動は決まっている」
「こぼれ落ちるというのならば、掬い取るだけ」
「掬い取れぬというのであれば、潰してしまえば良い」
「存在全てを我らの手の内に入れるのではない」
「我らの手の内にある全てを、存在の全てにすれば良いのだ」
「簡単な集合の問題だよ」
「全てを手にできないのであれば、手にあるものを全てにすれば良い」
「右手で『アリス』を掴み、左手で『アリス』を潰す」
「おいおい、『キャロル』の存在を忘れているぞ?」
「なぁに、『アリス』のいない『キャロル』などに存在意義はない」
「弾丸の入っていない銃には、置物程度の意味しかないようにな」
「よし、方針は決まったな」
「──我々は、『従わぬアリス』の存在を許してはおけぬ」
「我々は、『従わぬアリス』の存在を削除せねばならぬ」
「我々により、世界を統治するために」
「我々により、この世界を守るために」
「我ら、この世界のための僕となろう」
「我らを礎として、世界を守るために」
「『従わぬアリス』、我らが潰す」
「──『世界の僕』極東担当は、その総力を持って、『従わぬアリス』の存在を削除するべし」
「──承った」
「ゆめゆめ、忘るることなかれ」
「そなたの働きに、世界の統治がかかっていることを」
「そなたの働きに、世界の平和がかかっていることを」
「忘れるはずがなかろうて。──我らがその管理を怠った結果が、先の大戦なのだ」
そして、陰が部屋を覆う。
闇に溶ける男たちの陰。
「──世界を手にすることが、傲慢というのであれば、世界の僕たろうとする我らのことは、なんと呼ばれることだろうな……」
彼の黒い瞳に映るものの正体を見る者は、もう誰もいなかった。




