第8話
俺はサケノミたちと1度目の情報共有を終えて、契約書980円(税別)の購入手続きをネットでポチり、再度ゲームにログインした。
「おう。ただいま、ウェンディ」
「ただいまって、何が?」
ふむ、周囲の景色も昨日と変わっていない。やはりいくらリアリティのあるゲームでも、ログアウトしている間に現実時間と同じく時間が進むわけではないらしい。
プレイヤーにとって迷惑になりかねないのだから、当然ではある。
「いいや、こっちの話だ。じゃあ先に進むが、念のため俺が身体を動かしていいか?」
「⋯⋯気に入らないけどアンタの方がずっと強いもんね。ちゃんと守ってよ」
「任せろ。ただ、少し試すことがあるかもしれんが、そこは信じてくれよ」
手持ちのアイテムを確認しよう。インベントリ内からパイプ銃と不死鳥の虹羽根を調べて見る。ゲーム中の動作は、契約書内の記載を開く演出でインベントリ内が表示された。
『パイプ銃』
『胃袋内をさ迷う骸骨ヒトデたちが手にする自作銃。装弾数6発。鉛の弾丸ではなく、瓦礫内の小さな石や鉄屑を無理やり詰め込み、建材や水道管であったはずの鉄パイプから強引に放つ。爆発に近いその衝撃は射手の腕すら等しく損なうが、理性の失いつつある惨忍な彼らにとって、それは些細な問題にすぎない。目の前の敵を虐げられるなら、それで十分なのだ』
『不死鳥の虹羽根』
『幻の火鳥、その抜け殻とされる七色の羽根。見る角度によって毒々しく色を変え、手にした者の網膜にありもしない残光を焼き付ける。
かつて、ある狂った学徒はこれを「高次元の炎」の痕跡だと信じた。
焼かれ、灰となり、なおも潰えぬ生命。
その美しさに魅了された者は、やがて自らの魂を薪とし、止まない幻聴の中で極彩色の悪夢に身を投じることになる。
死を拒絶するその輝きは、果たして救いなのだろうか。
あるいは、永遠に終わらぬ葬列への招待状なのだろうか』
『使用効果』
『一時的に発狂耐性を犠牲にして、攻撃に火属性を絶大に付与する。
また所持している場合、死してもある者の夢として目覚めるが、その代償は小さくない』
フレーバーテキストと説明文には、こう書かれていやがった。
「どうりで弾がまっすぐ飛んで来ねえなと思った。でも、どっちもろくでもねえな」
「こ、こんなの両方とも使いたくないわよ! 捨てちゃいましょうよ!?」
「まったく持って同感だけどよ。今お前は無一文どころか、ろくな服も持ってないんだろう? 売れたり交換できるかもしれない物は、少しでも持ってる方が良いんじゃないのか?」
「うぐっ⋯⋯それはそうだけど、なんなのよぉ」
ウェンディは瓦礫の山から引っ張りだしたシーツを巻き付けて服にしている。財布1つどころかコイン1つも持っていなかった。
瓦礫の山を2つほど登ると、また骸骨ヒトデたちがウロウロと彷徨っていた。横スクロールゲームだけあって、敵は多いらしい。
「試しに使って見るか」
銃のスキルツリー強化無しでパイプ銃の引き金を引く──やはり明後日の方角に弾が飛んでいき、せいぜい骸骨ヒトデたちの気をこちらに向けるだけに終わってしまった。
「初期武器はこんなもんか、役に立たんなこれ!」
「イギ!?」
身を少し隠しながら、腕1本で1番近い骸骨ヒトデにパイプ銃を投げつける。内部の火薬が暴発したのか小規模な爆発を起こし、その間に骸骨ヒトデたちをランタンで丸焼きにした。
「こいつら焼いても美味そうじゃねえよな」
「バカじゃないの!? ヒトデなんて食べられるわけないでしょう!?」
「ところがどっこい、ウニやカニ味噌みたいな味で食べれるのもあるんだよ。生食は腹を壊すけどな」
「えっ、本当⋯⋯?」
焼ける匂いはわりとジューシーではある。でもこんな人間の骸骨をかぶれるほど、巨大なヒトデを食べるのはゲームでも遠慮したい。
「それでウェンディ、ランタンのスキルツリー強化があるんだが、どれが良い? オススメはラーニングか、ランタン吸い込みかな」
「そんなことできるのね、この腕の透明化は?」
「4本腕のスキルツリーも取っているが、透明化の習得レベルが15からなんだ。まずは即戦力を持たんと、ここを出れないからな」
彼女のレベルを上げればステータスも上昇していく。それにいざとなれば、俺の拳を試せば良い。
「よくわからないわ、どっちがどう違うのよ?」
「さあな、詳しい説明文とか無いからな。でも吸い込みは何か吸い込んで敵にぶつけるとか、伸ばせば能力をコピーするとか、ラーニングは相手のスキルを見て思いつくとかだろう、たぶん」
10匹ほどヒトデを焼き『実績:ヒトデ狩り10』「実績:攻撃20回」と表示された。これで彼女のレベルは8になり、4本腕、ランタン共に初歩的なスキルツリーを一通り習得したことになっていた。




