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第7話

 戦闘終了後に軽く周囲を探索しても、残念ながら誰も見つけられなかった。おそらくそういうゲームの仕様なのだろう。

 実績解除は『初めてのログイン』『初めての貯め撃ち』『初めてのミッションクリア』『初戦闘』『死亡』それなりの経験値を獲得できたが、彼女は1度死んだ扱いになるらしい。


「何それ、パイプと虹色の羽根?」

「これはヒトデたちの手製のパイプ銃だな。羽根はミッションで手に入れたがわかんねえ。銃は一応スキルツリーがあるが、とりあえずしまっておくか」


 瓦礫の山と大砲の残骸から発掘できたのは、これだけだった。インベントリにしまうと、パイプ銃と不死鳥の虹羽根×9と表示された。あとでフレーバーテキストでも読んでみよう。


「それで、いったいアンタは何者なの?」

「ただのゲームプレイヤーで、ある女性を探している者だ。とりあえず身体の自由を返しておこう」


 これだけのゲームだ、繊細な好感度システムを実装している可能性が高い。それにゲームキャラクターとはいえ、口説いてもいない年頃の女の子の身体を好き勝手は、師匠にまた笑顔で鏖殺《おうさつ》される。適切なコミュニケーションを取るつもりなら、なおさらだろう。

 俺がログインしている状態で彼女が自由に動けるか分からなかったが、あくまで操作の優先権が俺にあるだけらしい。彼女は自由に動き始めた。


「ゲームプレイヤーって何よ。やっぱりアンタが私の身体を操っていたのね。いやらしい」

「そう言うな。俺が手を貸さなかったら、君は今ごろ胃酸の海で溶けて、影も形もなくなってたんだ。助けた感謝はしなくて良いが、謝るから水に流してくれると助かる」

「⋯⋯胃酸って、あれは毒の川じゃないの?」

「ここは大海魚の腹の中らしいからな。この状況だと君はもっと強くなって外に出るしかないってわけだ。運がねえな」

「なにそれ、そんなわけないじゃない⋯⋯」


 げっそりとした顔で倒れかけたが、ウェンディはなんとか自力で踏みとどまった。


「こんな砂みたいな手まで増やして、アンタは契約者ってやつなの?」

「契約者? なんだそれは?」

「よく知らないけど契約を持ちかけてくるから関わるなって、もし契約しても契約を破棄しろって、お父様が言ってたのよ」

「ふむ⋯⋯」


 身につけていたガジェットっぽい電子装飾まで半端に溶けて良く分からないが、どうやら彼女は服装や言動から見るに、それなりの富豪の娘という設定のようだった。


「別に契約を破棄しても良いぞ。俺は別の相手と再び契約するだけだからな。でもその場合、君は胃袋の中で、たったひとりぼっちになるんだが?」

「うっ、それは、そのぅ⋯⋯」

「外に出れず、ヒトデの群れに襲われるのがオチだろうな。それに新しい手は後で透明にできたり、切り離すこともできる。ついでに、その女性のシンボルでも、大きくできるかもな?」


 そっぽを向いていた耳が、大きくピクッと動いた。食いついたぞ、しめしめ。だが大きさを気にしている女の子ってサイコーだよな。年上のお姉さんでも、年頃の女の子でも、今みたいに恥ずかしそうに隠して気にしている姿がマジでグッとくる。

 もっとも、ウェンディは気にするほど小さいとは思えないサイズなのだが、純粋にプロポーションが良いんだよな。大きすぎず小さすぎず、戦闘を行うにしてもベスト以上と言って良い。それとも彼女の今まで出会った女性はそこまで恵体なのだろうか、背が高く恵体な女性も素晴らしい。ゲーム世界なだけに、実に期待が高まる。


「ちょっと、そんなに見ちゃイヤよ。⋯⋯でもできるの、大きく?」

「手を生やすよりは、ずっと簡単だと思わないか?」

「そ、そう、ならしかたないわね。しかたないもん」

「そうだぞ。緊急時なんだから利用できる物はなんでも利用すべきだ。それで聞きたいんだが、この声のマドカという名前の女性に聞き覚えないか?」


 俺はサケノミが録音していた音声をパソコンで再生した。


『⋯⋯これです、ゲームをやる理由。私もこんなにたくさんスタンプもらったの、初めてです!』


「聞いたことない声よ。マドカって変わった名前の人も知らないわ」

「そうか⋯⋯」

「どういうご関係?」

「友達だよ、居なくなったな。手掛かりを探すために、わざわざこんな所に来たんだ」


 ⋯⋯やっべ、やっちまった。やっぱり俺は人探しが素人だ。今みたいにいろんなキャラクターに聞けそうなシナリオを選べば良かったじゃないか。

 ついつい自分の好みだけで選んでしまった。あーやっちまったなぁ──まあ、ここまで人間のようなコミュニケーションができるとは露ほども思ってなかったせいだが──。


「どうしたの?」

「何でもない。自分の欲望と業と馬鹿さ加減に、少し呆れていただけだ」


 とはいえ彼女がゲームを送って来たらしい事実がある以上、可能性は0じゃない。居ないという事が確認できると思って続けてみるしかないか。

 おっと、スズメちゃんからメッセージアプリに連絡が入っている。内容は『ログアウトしてタイトル画面を見て今すぐ』だった。⋯⋯なんのこった?


「すまないがログアウトするぜ、ウェンディ」

「⋯⋯ログアウトって、何?」


 画面が暗転。殺風景なタイトルが映ると思っていたんだが ────。


「ははっ、こりゃ我慢できるわけねえわ。俺はあと何回スズメちゃん我慢できないだろうと思えばいいのかねえ。すげえや」


 霧と不気味な塔だけの殺風景だったはずのタイトル画面は、白衣を身に纏う彼女の背に続くように、勇ましく4つの腕でランタンを掲げるウィンディの姿が追加されていた。

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