第24話
わずかな光も届かない地下階層を、漆黒の影と共に疾駆する。古く利用できなくなった電子機器たちを廃棄したこの場所は、まるでネオンひしめく出来の悪いサイバーパンクのようだった。
「見張りか」
電子機器たちを柱に、間違って飲み込んだのか巨大なウロコが乗っている。ザックから聞いた封鎖区画の入り口で間違いなく、見張りらしきゴーグルを付けた重武装の人影が数人、アサルトライフルらしき銃を手に警戒していた。
「で、例のガキどうしたんだ?」
「ハハッ、実験に使うってよ。今ごろウミウシとでも、子作りに励んでるんじゃねえの?」
「ムリムリ、何度もハラ蹴っ飛ばしてやったじゃないの、下の口も使い物にならないわ!」
よし、生まれて来たことを壮絶に後悔させてやるか。性的な貶めとか、ウェンディの耳に毒だ。
「ウェンディ、聞こえているな。ここから先の返事は、連中を制圧するまで少し頷くだけで良い」
連中の会話が聞こえてしまったのだろう。歯ぎしりがわずかにしたあと、ウェンディは頷いてくれた。
「作戦はこうだ。契約本を上に放り投げ落下させる。その間に裏に回り込み、前に出た連中が本に気を取られている内に制圧。最後に残りを制圧する。── 始めるぞ」
物影めがけて俺の契約本を上へと放り投げる。トサッ、という軽い音と共に、契約本は地面に上手く転がった。
「あん? また誰か逃げ出しやがったのかな?」
「ヤドカリじゃねえの。ハチの巣にしてやろうぜ」
銃を構えた3人が前進した。刹那、ウェンディを死角へと滑り込ませる。
「ハウッッッ!!?」
背から股間を蹴り上げると、男は短い悲鳴を漏らして崩れた。隣の男が異変に気づくより早く、四本の腕でその肩を跳躍の踏み台にする。
喉元を正確に捉えたサッカーキックが、男の呼吸と意識を奪う。
銃声は許されない。深く踏み込んだ一閃の回し蹴りで、並んだ2人を音もなく闇に沈める。
最後の一人となった女には、壁際で挟み苛烈な4連撃を叩き込み、仕上げに全体重を乗せた両足踏み付けで、その腹部を背骨ごと粉砕した。
「あ、ババ、ばは、ば」
全員アワ吹いて気絶してやがる。せいせいするぜ。連絡用の子機を破壊して、奪った武具をインベントリに、次々と放り込む。
フレーバーテキストが表示された。何かわかるかもしれない。
『R46アサルトライフル』
装弾数30発。かつての傑作銃、R26の全仕様をジウルーン関連企業が独自に再設計した小口径ライフル。一切の装飾を廃し、致死性能のみを追求したその姿は、ある種の機能美すら感じさせる。戦場に美徳は不要であり、ただこの1つのみが確実な結末を約束する。
『防弾防刃セット』
戦地派遣される徴用兵に支給される、軽量な複合防護ベストとヘルメット。弾丸を弾くのではなく、衝撃を分散し即死を防ぐことに特化している。たとえ五肢を失おうとも脳が無事であれば、次の作戦を遂行できるからだ。
『使用効果』
その他欄に装備可能。1度だけ胴体と頭部に受ける即死攻撃を無効化するが、それ以外の場所に効果はない。
「あの言動の何が正義か知らんが、この装備を見る限り、連中が高い軍事力を持つのは間違いないみたいだな」
頷くウェンディにアサルトライフルと防弾防刃セットを装備させ、監視カメラに見つからないように通って行く。
ウロコの下は思ったより明るい。何かあるのか、ウェンディが黙って上を指さしている。画面が自動でウロコの方に切り替わった。
「エッフェル塔に⋯⋯歌手のライブ、あれはヒッピー文化の映像か?」
観光名所や熱狂的なライブ映像、平和に関するデモ映像など、とりとめのない現代のダイジェストが、鱗の裏側にホログラム映像で流れている。
周囲を見る限り、どこからか立体的に映像機器で写しているわけではない。ウロコ自身が映像を映し出しているように見える。
『実績:現実世界の真実 (鱗)』
「また現実世界の真実か。でもなんでこんなもんが、剥がれたウロコの内側に流れるんだ⋯⋯?」
「ねえゴールド、大海魚って、自然から生まれたのかしら⋯⋯?」
「⋯⋯確かにこれは、どこからどう見ても人工物っぽいが、何か知ってそうなザックにでも、後で聞くしかねえか」
また現実世界の真実とやらの実績が解除されたが、今の俺たちには、その意味を知る由もなかった。




