第23話
時計の針が2時間後を指し、ウェンディは前触れもなく消えてしまった。タイトル画面を呼び出せば、そこにはランタンを抱えたままの彼女がいた。
再ログインして気づいたが、彼女を現実に呼び出している間、時計の針が変化していない。ゲーム中の時間は凍結されたままだった。
翌日。ゲーム内で一晩を過ごし、すっきりと目を覚ましたウェンディを連れて、俺たちは聖エイル医院へと向かっていた。
「でもなんだってこんな所に、ジウルーンがいるのかしら?」
「さてな。何らかの調査にでも来たのか、あるいはデカい企業だから、名前だけ借りてるような連中なのか。情報交換したが、正義の販売ってそんなに儲かるのかねえ?」
「正義ねぇ、町中であんなことする連中が、とてもそうなんて思えないわ」
「違いない。そういえば聞く機会がなかったが、お前自身はゲームをしたことはないのか?」
「ゲームって、小さな機械のピコピコのこと?」
「⋯⋯前も聞いたが、昨今なかなか聞かねえ言い方だな、よくわかったよ。着いたな」
今日は休日だから、終わったらこっちでゲームをたっぷり体験させてやろう。
聖エイル医院は大水槽にもっとも近く、ホテルの屋上から階段を登った先に建てられている。目的地はその裏にある小さな祠だった。
「来たか。ラジオで噂になっていたぞ、ステイゴールド」
「待たせたな。それで、話があるんだろう?」
人目を忍んでのやり取りだ。彼は顔も頭巾で隠している。手短に終わらせたいのは彼も同じなのだろう。
「ああ。俺はザックとでも呼んでくれ。今日は取り引きに来た」
「取り引き?」
「この街の外に出る方法を探しているんだろう?」
「⋯⋯方法があるのか?」
「ある。深海エリアの封鎖区画に、外に繋がる転移装置があるんだが、問題が起きてな」
「ジウルーンか?」
彼は小さく頷き、1度だけ周囲をよく見渡した。
「腕を見込んでジウルーンの撃退を依頼したい。代わりにこちらは転移装置の使用権と、マドカという女性について、調べるだけ調べよう」
どちらにせよ連中の標的にされているかもしれないウェンディにとっても、悪くない取り引きだ。
「撃退、あるいはこの街の保安隊が、連中をどうにかできるようにすれば良いんだな?」
「そうだ。可能な限り、犠牲者を減らしたい」
となると隠密行動か。出たとこ勝負になる。
そして俺自身にも言える事だが、ここから先は、ただのゲーム内の戦闘ではないかもしれない。
⋯⋯思えば、ずっとウェンディは、そんな重圧と俺のようなテキトー極まりない覚悟のわけのわからん相手に好き勝手されてきたわけだ。若干死にたくなるな、恥ずかしくて。
──── やるか、全身全霊で。アーリア師匠の名をこれ以上、涜すわけにもいくまい。
「ウェンディ、戦えるか?」
「⋯⋯やるわ。あの海の前であんなコト、許して良いわけがない」
良い目だ。彼女は ──── 戦うと決めた。




