第21話
地上から手を振ると、向こうもひきつった笑みで手を振り返してくれた。何をそんなに引いているんだろう。周囲は爆撃受けたみたいにボロボロだが、得るものは多かった。
「おっ、一気に22レベルまで上げられるみたいだな。あと3レベルで腕の切り離しできるぞ」
「いまさらだけど、こんなバカでかい怪物も、インベントリってのに入れられるのね⋯⋯」
俺はインベントリ内に『タラバエビの大甲殻』『タラバエビの生肉』『タラバエビの焼き肉』『サメサメブラザーズの右足』『極上のフカヒレ』を放り込んでいた。
「なあ、フカヒレって食べたことあるか?」
「ないけど調理できる人って、ウォムにいるのかしら?」
「そこだよ、たぶん雑に焼かれそうだよな。まあいいや、22レベルに上げるぞ」
『おめでとうございます。実績:20レベル到達につき、ファストトラベル機能。AR機能(1日2時間限定)が開放されます』
「おっ、ファストトラベル解放か、これで移動が楽になるが、AR機能って、このゲームそんなのまであるのか」
「ゴールド、えーあーるって、なんのこと?」
「擬似的な拡張現実って意味だ。サブメニューを確認してみよう」
サブメニューには、簡素にこう記載されていた。
『ファストトラベルはゲーム内で既に到達したことのある特定の地点へ、長い移動時間を省いて瞬間移動するシステムとなります』
『AR機能はゲーム内のキャラクターやアイテムを現実世界に呼び出します。お気に入りの場所で共に記念撮影をしたり、各キャラクターと適切なコミュニケーションを行えます。※周囲の安全を確認してプレイしてください』
コミュニケーション機能とかもあるのか。料理の写真を送って味の感想を貰えたり、一緒に散歩したりできるのかな。なかなかに遊び心のある機能だ。
「じゃあ、地下で資料漁りの続きしようぜ」
「⋯⋯⋯⋯ねえ、地面ボッコボコだけど、地下室って大丈夫なの?」
「あっ」
急いでウェンディを操作して階段を降りたが、唯一無事だったノートパソコンは落下してきた天井の下敷きになって、見るも無残な有様だった。
「あ、あぁ、ちくしょうっ⋯⋯! プレイ録画しているとはいえ、あの腐れサメどもぉお!」
「これは無理ね。一応回収しとく?」
「⋯⋯それしかねえか。資料も少し探りたいが、もうなんも残ってなさそうだな、くそぉっ」
インベントリに『壊れたノートパソコン』を追加したが、地下室内部も荒れ放題になっている。俺たちは肩を落としてウォムのホテル前に、ファストトラベルで戻るしかなかった。
◇◇◇
特ダネと、言って良いのだろうか。
8mはある怪獣みたいなタラバな怪物を、16歳くらいの女の子が眉間に剣を突き立てたと思ったら、いきなりタラバな怪物が花みたいに爆発した。
それだけじゃなくて気持ち悪いサメ腕が勝手に動いたと思ったら、いきなり女の子がトビウオみたいに飛んでサメをえぐって、エグくて、下顎がサンドイッチみたいになってた。
あの厄介なヤドカリみたいな泡が口からブシューって、ぐるんって、フカヒレ。あっ、フカヒレ美味しそう?
おかしい。おかしい。虎の子のミサイルだって撃ち込んだのに、これは夢? 風邪をひいた時に見る夢? お仕事のしすぎ? それとも特ダネ?
「業者さんたち⋯⋯ちょっとおでこ触ってもらえるかな。私、熱があるかも」
「俺もちょっと平熱に自身ないわ。風邪薬飲もうぜ」
もうひきつった笑みで、あの娘に手を振り返すしかなかった。だってその間にあんなに大きなタラバの殻が消えてるんだもん。わけわかんない。
どうやら私だけが、風邪の熱に浮かされているわけじゃないみたい。みんな救急箱から粉薬を飲んだ。苦い。よし、現実に戻ろう。戻るべきだ、戻らないと、戻りたくないなぁ苦くて頭痛がする。
「業者さん。今の⋯⋯どう放送したら良いと思う?」
「一応修理終わってるが、まさかラジオで放送する気か、正気かよ?」
「正気で特ダネが報道ができると思う?」
「⋯⋯違いねえな」
とにかく命が助かった。本がずっと宙に浮いてたし、噂に聞いた上位者って娘なのだろう。ステイゴールド。分かるのはそれくらいだけど、私たちはその名前で試験放送を始めることにした。
こつ然と消えた彼女たちに業者さんが驚くのは、このすぐあとだった。
◇◇◇
すぐにチェックアウトを済ませ、1度ホテルを変更することにした。
散々な目にあって忘れかけていたが、ジウルーンどものせいで再び厄介なイベントに巻き込まれてもたまらない。
幸いにもしばらく滞在できるだけのものは得ている。今度は念には念を入れて少し割高だが、不審者の出入りを警備してくれる門番付きの1日10トランプの宿屋を選ぶことにした。
「ふふっ、お姫さま扱いしてくれるんだ?」
「いつだってお前は可愛い箱入りお姫様だよ。じゃあ俺はログアウトするから、向こうでな」
「箱入りは余計よ箱入りは、もう!」
ゲームの不具合や、開発陣の意図しない挙動の可能性もあるからな。それにウェンディにあんな顔をもう1度させるのも忍びない。
乱暴に契約本を掴んでくるウェンディに、一旦別れを告げてログアウト。タイトル画面右上のメニューを操作して、オプションからAR機能を開き、ウェンディ・リヴァイアサンのチェックマークを入れる。
タイトル画面に戻ると、白衣の女性の隣にいたウェンディが消えていた。そういう演出なのだろうか?
「あれ⋯⋯? 画面がカメラ機能に切り替わらないな。不具合か?」
「不具合って、何が?」
「お前が画面に映らないんだよ、ウェンディ。おかしいな、パソコンで調べ ────── は?」
いた、俺の後ろにちっこいのが。ゲーム中と同じ、どうみてもSF世界の巫女騎士様の彼女が、居る。
それも今までのドット絵じゃなく、触れられそうなほどリアルなウェンディが、なぜか、俺の部屋に座っていた。




