第20話
タラバの腕から這い出たサメは逞しい足に尾と腕のようなヒレがあり、寄生するためか逆立つ牙か骨のような物が体から突き出ている。ゆらりと立ち上がると、すでに勝ち誇ったようにニタリと嘲笑って見下しやがった。
嘗め腐りやがった──俺のキャラと、師母の武を──それが酷く癪で、火がついた。
「ウィンディ。ちとコイツら骨身に分からせるわ」
「えっ?」
ケープマントを外して飛ばし、剣もランタンも、銃のホルスターも投げる。無手に生身。いや、防具だけはSSRか、残念だな。
「ちょっ、なんで武器を手放したのよ、まさかサメ相手に降伏する気!?」
「悪いが、ここから先はゲームジャンル変更の格ゲーだ。その鮫肌を砥石代わりに使ってやるよ」
「はぁあ!? アンタ何言って!?」
「シャアアアアアア!」
巨躯から放たれた右ヒレが、視界を覆わんばかりに迫りくる。その逞しい脚力に一瞬見惚れそうになるが、フェイント――思考を切り替え、構えを鷹爪拳へと転じる。
両腕を翼のごとく左右へ展開し、指先に全神経を集中させる。バネのように膝を畳んで天高く身を躍らせると案の定、さっきまで自分がいた空間をザラついた尾が薙ぎ払っていた。
「徹頭徹尾、薄汚ねえマネしやがって……!」
狙いはエラの一点。きり揉み回転急降下と同時に鋭い指先を深く突き立て、肉を抉り取る。激痛にのけぞり無防備に晒されたその顎を、垂直に跳ね上げた蹴撃で真っ向から打ち砕く!
顎の形状が悪いツラだ。さぞ短い下顎の牙は脳天に美味かろう。
「えっ、ええっ!?」
「シャ、ジャヅァアアァアア⋯⋯!?」
「どうした、まさか今さらこんな華奢なナリにビビってんのか? だったらこっちから試すぞ!」
残り1匹を挑発してやるとボコボコとまた泡を吹き始めた。タラバが使ってミサイルを両断した、あのウォータージェットカッターだ。
本格的にこの腕を試し始めるにはお誂え向きだ。地面を踏み締め、腰を据えて低く構える。四つの腕でそれぞれに虚空を捉え、全神経を指先へと研ぎ澄ます。猛然と襲いかかる水の閃を円の軌道で優しく、かつ鋭く導く。一筋の円弧を描いた衝撃は、加速すら伴ってサメの片足へと叩き返された。
ウォータージェットカッターだ。尾もバッサリと斬られ、美味そうなフカヒレが宙を舞った。
「シャッ、アァアアアア!?」
「へっ、頭部を狙ったが動かれたか。でも2本腕よりずっとやりやすいぜ!」
それにしても4本腕が良い。左右別々に抉りやすく、鷹爪拳のバランスも取りやすい。単純に柔く細い女の身体なら攻防が柔軟に、かつ2倍にできる。ここまでイメージ通りとは恐れ入った。
「いぃい今の何したのぉお、まほぉー!?」
「あん? 適当に見切りやすい水の閃きと踊ってやっただけだ。こんなん初歩だぞ、初歩」
実際、これでもやりたいことの1割もできてねえんだよな。初歩の水分コントロールの練習にはそれなりだけどよ。
2本腕だとあの技を重ねてもいろいろ限界でつまらなかったからなぁ。師匠なら片手で同時に3撃打つとかもできるんだろうけど。
あ、サメたちの顔色が変わった。どんより白く濁った目が、酷く右往左往してやがる。
「ケッ、水生生物が陸で霊長類に挑んでんじゃねえよ。詫びにフカヒレ置いてどっか行きやがれ!」
「シャヒィイイイイイイイ!!!」
残った1匹は背を向けてバタバタ走って逃げ始めた。取り残されたもう1匹も、ヒレを両手のように使って逃げて行った。
「あっ、しまった!? せっかくだから、ランタンの吸い込みも試せば良かった!?」
「ああもう⋯⋯アンタはいったい何なのよ⋯⋯?」
「最初に会った時に言っただろう。俺はお前だけを支える、黄金の支柱だよ」
『実績:初めてのボス討伐』『実績:初めてのボス撃退』『実績:初めてのボスソロ討伐』『実績:無傷ボス討伐!』『実績:ストーリー1面クリア!』




