第19話
リヴァイアサン・プロジェクトについて。資料の題名はそう書いてあり、ざっと見たところ内容は何らかの生き物の飼育計画書のようだ。
簡素な白紙にキリトリ線が中央に書き込まれていおり、その左右に同じ1番から6番までの要項がそれぞれ記入されている。
B.動物飼育施設の使用計画書(新規・継続 〇)
1、実験名:リヴァイアサン・プロジェクト。
2、飼育期間:
3、動物種(系統):硬骨魚類。
4、最大頭数:1匹
5、最大ケージ数:海上技術安全研究所(実海域再現水槽)
6、備考:指定資源との共存率研究、調査。動物の処置については生物兵器禁止条約に基づき安楽死を予定。
飼育期間についてはパソコンの画面がひび割れ、歪んでいてよく読めない。要項を読む限り、強大な生物兵器でも作ろうとしていたのだろうか?
サブメニューから入って実績を確認してみる。確かに先ほど『実績:現実世界の真実□/□』を新たに取得したことになっている。だが現実世界の真実って、いったいなんだ⋯⋯?
これが単に実績:世界の真実と書いてあるのなら、ゲーム内の重要なイベントに携わる資料だというのはわかる。だが現実とも書かれている。裏を返せばゲーム内の現実世界以外の何か、別の世界があると示しているのだろうか?
あるいは海外ゲームによくある翻訳設定のミスだろうか? 右側の数字らしき物も□で潰れている。かくいう俺も海外ゲームの有志による翻訳プログラムをダウンロードして導入し、フォントやレンダリングをミスって、文字が□になったこともある、だが──。
「ねえ、これってAはないの?」
「A? あっ、たしかに最初にBって書いてあるな? ⋯⋯ウェンディ、リヴァイアサンって聞いたことあるか?」
「家の家紋だけど? お父様は『無秩序な自然状態を回避するために、人々が契約によって創造した強大な象徴』って、家紋の前で忘れないようにって、私に言ってたけど⋯⋯?」
無秩序な自然状態。契約による創造。何か引っかかるが現状の手札だけで考えると、契約して得たスキルツリーで、何かとんでもない物でもこの世界に作り出して研究していたのだろうか?
「⋯⋯お前さんの本名って、もしかしてウェンディ・リヴァイアサンか?」
「そうよ。言ってなかったっけ? それとこの資源との共存率って、いったい何かしら?」
「これだけじゃ分からんが、何らかの資源をどうにかできる⋯⋯それも1匹で何か影響を与えることのできる動物の研究をしていたってことだろう。でもなんで、ただのラジオ塔にこんな資料が?」
その時だった。地下にも響く爆発音が俺たちの耳に轟いた。
「今のは!?」
「地雷の爆発か? とりあえず外の見える場所に移動するぞ!」
ウェンディを操作して一気に階段を駆け上がる。リスクなく降りれそうな4階まで駆け上がり、身を隠しながら外をうかがうと、真っ先に飛び込んできたのは爆炎と黒い煙だった。
「こなくそぉおお!!!」
バシュウゥウウウと尾を引いて窓から飛び出す3発のロケットミサイル。それが、水の線でいとも簡単に両断されていた。
「ヤドカリじゃない。なんだアレは⋯⋯?」
「サメ⋯⋯?」
サメには見える。全体的にはよく食べたタラバガニに近いが、ハサミの先端がサメの上半身のように変化している。
そして大きい。このラジオ塔の半分ほど、8m弱はあるんじゃないだろうか。指向性地雷も効果がないのか、破片が分厚そうな甲殻をむなしく叩いているだけだった。
『ストーリーミッション:1面ボス「サメ腕ビッグタラバエビ」を攻略せよ!』
『緊急ミッション:ラジオトウをフホウセンキョするセイリョクをすべてサツガイせよ!』
「あいつら不法占拠なのか? ええい! とりあえず、あの風邪ひいた時に見る夢みたいなデカブツを止めるぞ!」
「う、うん!」
窓枠にガツンとランタンを打ち付けてフルチャージ。触覚の根元を狙いキラーブレイズを撃ち込む。だが読まれていたのか、カニの口がヤドカリのように泡立って、大玉の泡を次々に撃ち返してきた。
泡の絡まったキラーブレイズは徐々に勢いを失って、地面に墜落して爆発した。5階からも銃声が鳴りやまないが、泡1つ壊せていない。
「ちょっとゴールド!? 迎撃されちゃってるじゃない!?」
「遠距離ゲーで無効化迎撃はチートだろう! しかたねえ、回り込むぞ!」
「シャァアアアアア!」
大慌てで通路と階段を蹴飛ばしていると、突然、サメの頭が突っ込んで来た。もう建物に取り付きやがったのか!
突っ込んでくるサメ腕を避けて、転がるように屋上にたどり着く。下を確認するとタラバガニは5階にサメ腕を伸ばそうとしていた。
「余所見してやがる! なら一気に行くか!」
「一気にって!? ぎょぁあああああああ!!?」
引き抜いた『モーガリス帝国片手剣』を手に、眼球ひしめくタラバの顔面へ跳ぶ。狙いは甲殻の薄い目の間だ。逆手の剣に全体重を乗せ、3本の腕をフルに使って眉間に突き立てる!
「おわっ!? っと、神妙にしやがれってんだ!」
激痛にのたうつタラバの暴動。襲いかかるサメ腕を蹴り飛ばし、邪魔な眼球を足場にするように跳ねると、剥き出しの口内へフルチャージのランタンを力任せにねじ込む!
「くらいやがれ!」
左右に分かたれた顎が衝撃に押し込まれ、炎の牙が喉奥を突き抜ける。歯を砕き、肉を焼き、一気呵成に貫通した爆炎は一閃。タラバの背に赤い花を咲かせるようにして突き抜けた。
『ストーリーミッション:パラサイトサメサメブラザーズを撃退せよ!』
「なんだと、第2形態か!?」
倒れ伏したタラバの腕から、ズルリとイモムシのようにサメが這い出てきた。あのタラバは妙に濁って虚ろな目をしていると思ったが、この2匹のサメに寄生されていた状態だった。




