第2話
その日、俺はずっと連絡のつかなかったはずのマドカちゃんから、あるゲームを受け取っていた。
新作ゲームらしい。タイトル名は『マージナル・コントラクト』直訳すれば契約における限界点とでも言った所だろうか。指先1つで楽しめるモバイル向け近未来SF系RPGらしく、それ以外の情報は霧に包まれたように不透明だ。
メッセージアプリに送られてきたURLのメインビジュアルには、深いフード付きのローブを身にまとう少年少女が互いに背中を預け合ってポーズを決め、足元にはそれぞれ別のエンブレムが輝いている。
この状況は胡散臭い。俺は思わず顔をしかめた。
「お前の所にもマドカちゃんからゲーム届いたか、ゴールド?」
「ああ。他に書き込みもスタンプもないし、状況だけ考えるなら、どう考えてもハニトラとかの類だよな。何か知ってるか、酒飲みな刑事殿?」
「刑事でも興信所職員でも探偵でもないっての。毎度毎度しっかり否定させるなよ」
もはやお決まりの挨拶を言い合い、低く笑う。もっとも彼の普段の口ぶり、というか酒と共に吐き出される普段の愚痴は、どう考えてもその界隈っぽいのだが。
「おいおい、サケノミ。つまりなんだ、俺だけに生贄になれって言ってんのか。何かあったら鍛えた拳でどうにかするだけだぞ?」
「そこまでは言ってねえよ。俺の方はもうダウンロードしたからな」
「ほっ、豪儀なことで。率先して市民を守ってくれるお巡りさんには頭があがらねえや。でも税金は安くならんのかね?」
「俺たちもキッチリ税金払ってるっての。俺たち、いや違う、あの方々はケガをした時の絆創膏みたいなもんさ。だが所轄やサイバー犯罪対策課連中は、マドカちゃんの行方に不審な点は見当たらないってウワサだぜ?」
事件性が確定しないと、警察は動けないと言いたいのだろう。彼はいつもあくまでよくあるウワサとして話してくれる。リスクマネジメントはバッチリってわけだ。泣けるぜ。
「もっとも機械を操作して別の時間とか、誰かに頼むとか、他にもいろいろとゲームを届けてくれた可能性が考えられる事案ではある」
「彼女じゃない、別人のイタズラである可能性か?」
「そりゃ最有力は、あれからマドカちゃんと一緒に何度も俺たちとゲーム付き合いのあるスズメちゃんだが、アレでやると1mmでも思えるか?」
「ないな、ないない。俺の好きなロリキャラに絵師様たちがこぞって巨乳に描いたり、メガネ派の連中が、メガネをかけるなと言い回るくらいありえん」
冷たいようだが、互いに顔も本名も明かしていない4人が助け合うには限度がある。
それに今頃、探索のプロである警察もこの件に関するゲーム会社を調べてくれているのだろう。
だから俺達一般市民ユーザーができることと言えば、心配しながらゲームをして、なぜマドカちゃんがこのゲームを無言で送ってくれたのか、調べ回るくらいしかないわけだ。
「俺が言うまでもなく、ゲーム会社はしっかり警察が洗うだろう。それで、どうする?」
「いいぜ、あえて火中の栗に拳を突っ込もう。なにせ全員同じ龍の炎に、こんがり焼かれた仲だからな! ボイチャしながら同時にするか?」
「いや、最初は念のために時間を数日ズラそう。チャットツールも念のため別口にする。スズメちゃんとの確認もそこから伝える。データや音声をスッパ抜かれる危険性を避けることを提案しよう」
「おいおい、マジでちょっとしたスパイ物みたいでアツいじゃねえの。それで『マージナル・コントラクト』自体の情報は、何か無いのか?」
「まだリリース前だからな。強いて言えば、印象が少しサバイバルSFか、サスペンスっぽいくらいか?」
言われてもう1度メインビジュアルを見れば、どことなくダークで薄暗い気がする。CEROレーティングではC(15才以上対象)。という事は、某有名なゾンビハザードゲームがDなので、そこまで過激な表現は無い、という事だが。
「じゃあ、すずめちゃんへの連絡は任す。俺が先陣を切るぜ」
「良いのか、ゴールド?」
「痕跡があるんなら、姫っ子1人の情報を嗅ぎ回るくらいわけないっての。こちとら20年以上のベテラン追跡者だぜ? 任せな」
「ゲームの中だけだけどな、だから気に入った」
「よせやい、照れるぜ。じゃあそろそろ切るぞ」
「待て、ゴールド」
「なんだよ?」
「⋯⋯また4人で、龍に挑めると良いよな」
「⋯⋯へっ、まったくだ、泣けてくるぜ」
俺は彼女とまた会えることを祈りながら、音声チャットを切った。




