第1話
それなりに暑い8月31日。その日俺たち4人は、あるゲームに熱狂していた。
クリーチャーチェイサーという多大な人気のある怪物討伐ゲームだ。初のコラボクリーチャーが実装されるということで、ずっと深夜まで挑戦していたのだが⋯⋯。
「ファッ!? あ、あっ、ああああああ!?」
「地雷、ちゃんと全部爆破したのに!?」
「ゴァアアアアアアア⋯⋯!」
怒涛の勢いで画面全体に広がる吐き出された炎。とてつもないその勢いに、俺たちの操作していた4人のプレイヤーキャラクターたちは、全員巻き込まれて敗北。
画面には古城の前にデカデカとゲームオーバーの文字、勝ち誇るように咆哮する黒いドラゴンと、嫌味な討伐アドバイスのテキストが踊っていやがった。
「クソッ、総攻撃量《DPS》チェックがキツ過ぎる! 地雷だけで10000ダメージだぞ! 運営初コラボだからって、ハシャギ過ぎじゃねえの!?」
「貯めアリなのは良いが、マップ全体即死火炎とか、運営完全に悔しがり体制だよなぁ」
「むきぃいいいいい! 片目を無くして全身に裂傷、なんなら片翼も潰れて残ってない! そこまで追い詰めて虎の子の地雷も使ったのにぃい⋯⋯!」
「もう夕方から20回も負けてる。ギリギリのせめぎ合いのはずなのに、強いですね魔刻龍」
このゲームは敵のHPが一切表示されないタイプだ。攻撃時のダメージ表示だけで推測するしかないので、それもこの状況に拍車をかけている。
強い。確かに強い。だがあと1歩、1ボタン、1モーション攻撃を叩き込めれば勝てた気がする。その1歩がぶ厚い。そして果てしなく楽しい。
「勝ちてえ、勝ちてえ、勝ちたいなんてもんじゃねえ、絶対に勝ちてえ。もし勝てたら運営に熱いキスしてありがとうと、両手で握手してちぎれるぐらいに腕を振ったっていいぞ俺は!」
「もう時間日付変わって一回りしてますもんね」
「よーし、俺はもう全ブッパする。猛毒を使うぞ!」
「良いのか、それ別クリーチャー用だっただろう?」
「リソースなんざいつでも取り返せる。けどこの4人での初勝利貢献は、今しかできねえだろうが」
「私ら、無所属の流れですもんね。せっかくだからフレンドコードは交換したけれど」
インカムからカシュッと金属音。アイツは気付けにもう1本ビールを空けたようだ。
俺も気合を入れよう。近くに置いてある水入りペットボトルを手刀で切る──よし。ペットボトルは微動だにせず、水は《《1滴も》》ボトルから漏れていない。上下真っ二つになって失敗していない。集中力は故郷の清流のように十分冴えている。
「やりましょう。諦めたくありません」
「もうモーションは十分覚えたはず。よし、コントローラーもう1回拭くわ」
「全員地雷は持ったな。最後の勝負だ!」
こうして、俺たちは最後の勝負に挑んだ。
「くそう、BGM最高にカッコ良いなぁああ!」
「コラボ元と同じとか、粋で良すぎだろ!」
「さんざん特殊スキルやギミック本編で出しといて、コラボがただただものすごい炎ブレスを吹くだけの超最強ド王道ドラゴンだぁあ!? 愛してるぞ開発陣!」
攻撃を続け、1回目の即死全体攻撃を1度だけのアイテムを使って回避。第1形態を1度倒してムービースキップ、復活して、第2形態。
「よし⋯⋯ここまで誰もやられてない!」
「わかってる、わかってるから、毒もっと!」
「もう1回毒れ毒れ毒れ毒れ毒れ毒れ、毒った!」
行き交う言葉さえも尖っていく。ここまで遊んでくれて、ありがとう。よ〜〜〜く頑張ったね。
しね! 死ねじゃなくて、しんで! はは!
開発陣からの感謝の贈り物はそんなとこだ。そんな言葉に抗う絶頂の娯楽性、最高だ。脳が震え過ぎて死ねる。もう脊髄で喋っていた。
「DPSは!?」
「わっかんない、オーケー焦るなぁあ!」
「まだっ⋯⋯!」
「地雷れ!!!」
残りのHPなんてわからない。だが、もう手持ちの回復ポーションは尽きた、勝負所!
「⋯⋯⋯⋯だめだ!?」
「ああっ、くっ、そぉっ⋯⋯!」
「うそぉ、おぅおぅ⋯⋯」
宿しすぎた熱量が赤から青紫に変化して、全画面が再び炎に蹂躙される。放射の余波だけで数百メートルはある翼が羽ばたかず宙に伸ばされ、巨体が空を昇っていく。
負けた。さっきと同じ、即死火炎攻撃。
────── 届かなかった。
「待て、毒はまだ効いてるぞ!?」
「なに、マジかよ!?」
コントローラースティックを何度弾いても、俺のキャラクターは倒れて動かない。みんなも同じく倒れているままだ。
でも、魔刻龍の毒エフェクト表示は消えていない。毒ごと炎を吹くエフェクトが尽きていない。
「画面が、暗転した⋯⋯?」
「まさか、倒したっていうか相討ちなのか?」
「お願いお願いお願いお願いお願いお願い明日から学校なの休み無いの部活なの模試なのお願いお願いお願いお願いお願いぃい!」
「勝てたの、どっち⋯⋯?」
暗転した画面から最初に浮かんだのは、倒れ伏す魔刻龍と、見慣れた討伐クリアの文字!
「はぁ⋯⋯うぁあああああ! やったぁ!」
「────ッシャオラアアア!!!」
「はは、息き切れて指、震えてら、ははっ!」
嵐のように押されるゲーム内のチャット地雷スタンプたち。このゲームで勝った時の喝采ジンクスだ。気づけば拠点に戻るまで、何度もコントローラーのボタンを連打していた。
「実績解除:筋書きの無い勝利、くぅう〜!」
「やったねマドカ! もうだめかと思ったよ!」
「⋯⋯これです、ゲームをやる理由。私もこんなにたくさんスタンプもらったの、初めてです!」
顔も互いに知らず、本名も互いに名乗っていない。なんなら女の子2人は、画面越しで今日初めて出会ったばかり。それでも勝利を分かち合う。勝利の余韻は最高の美酒で、この日はぐっすりと眠ったことを覚えている。
この8ヶ月後にマドカちゃんは、俺たちの前から姿を消した。




