第17話
ラジオ塔に到着した。段差のある逆三角形の変わったビルの屋上に、半端に折れてしまったラジオ鉄塔が立っている。一見要塞のような出で立ちだが間違いないだろう。
『実績:ANRラジオ塔到達』
「おっ、ちょうど今回の経験値で15レベルになれそうだ。これで火炎の強化が最大値で、腕の透明化もできるぞ」
「本当? さっそく透明にしてみてよ」
4本腕のスキルツリーを見上げて、目当ての星に光を灯す。するとそれまで肩甲骨から生えていた腕が透明になって見えなくなった。
「どう、違和感ない?」
「このケープマント着ている限りは見分けがつかないな。取ってもよほど注意深くジロジロ見ないと、違いは分からんかもだ」
「そうみたいね。やれやれ、ようやくだわ」
タンクトップや背中や肩を着飾らないドレスなら、これで問題なく着れるだろう。しかも任意で透明かそうでないか自由に選べるようで便利だ。
さて、ラジオ塔だが壁全体に戦闘の痕跡らしき銃弾の跡が無数にある。堅牢なバリケードも閉まっていて、入り口も窓も開かれていない。幸い敵らしき影は見当たらない。しかし──。
「行かないの、ゴールド?」
「ウェンディ、入り口の脇の方で、白骨死体が寝ている奥の足元をよく観察してみろ」
画面操作もそこを最大限拡大してみる。目立たない鈍色の弁当箱に小さな三脚をつけたような物が、地面に置いてあった。
「あの弁当箱みたいなのは、何かしら?」
「地雷だな。しかも指向性の強力なやつ。一定方向に放射状に鉛玉バラまく凶悪なヤツっぽいな。泣けるぜ」
「地雷って、だ、誰がそんな物騒なもの置いたのよ!?」
「さてな。プロの軍人でもいるのか、ヤドカリ相手にでも使うのかもな」
「ここからなら撃てるけど、壊しちゃう?」
「いいや。ヤドカリ相手に置いてんなら、壊して請求されてもめんどい。中に入れる経路がなかったらそうしようぜ」
ぐるりと建物の周囲を回ると、屋上に繋がるハシゴの周囲だけ地雷が配置されていなかった。なるほどヤドカリじゃあハシゴは登れないものな。
「ケープの中、下から勝手に見ないでよ?」
「心配しなくても、後ろのマントが長くてよく見えねえの。中に綺麗な足があってもな」
そう。まことに残念ながら、ケープマントの中はしっかりとは見えない。だが時折風に揺れてくっきりと見える体のラインや、チラチラと出ている生足と、見るべき点は無数にある。何より薄くひらひら揺れるケープで貞淑に隠しているという没入感と淡く健全な背徳感がたまらない。録画しておいて良かった。後でウェンディ自身と相談して、下手だが絵に描き残したい。
「⋯⋯そんなに見たい?」
「声を大にして言うが、男はいつだって女の体を触りたくて、しかたねえものだよ」
「⋯⋯えっち。なにそれ、へんなの」
バカ話をしながら周囲の警戒は怠らない。というかマントが絡まないように気をつけて────うわ、このケープマント、物体に触れる寸前に少し自動で浮くのか、絡まないで便利だな。
彼女を操作して無事に屋上に登り切った。5階建ての高さは周囲を遠くまで見渡せる。せっかくなので地図を広げて要所の確認を行った。
「⋯⋯なんか、遠くでゆっくりと動いてる丸い物が見えない?」
「心臓かな。なんで淡く光ってるのか分からんが」
ようやくだ。ようやくここが生き物の体内かもしれないという、わずかな確証を得た。地図を確認すると、あれは動き光る岩と描かれていた。
「本当に、ここは生き物の中なのかしら?」
「何か新しいものを見れば見るほど、自信なくなってくのもどうかと思うけどな」
概ね地図に描かれた場所と、ここから見える要所の位置関係もズレはないようだ。一方で屋上の入り口は東側と西側に2つあり、どちらも鍵がかかっている。
俺はインベントリから雑貨店で購入しておいたマイナスドライバーと、ヘアピン箱を取り出した。
「こんな物でどうするの?」
「まあ手を貸せって。上手く開けてみるからよ」
東側の鍵は複雑な物じゃない。ウィンディを操作して上手くヘアピンを伸ばせばほら、ミニゲームが始まった。
マイナスドライバーで鍵穴を抑え、ヘアピンも鍵穴に入れてカチャカチャと回す。構造の甘い場所を狙って回すと、鍵が開いた。
「本当に開けれるんだ」
「流石に中に地雷はないようだな。入ろう」
鍵を裏側から再び施錠して、足元を確認しながら階段を降りる。5階の廊下には物が乱雑に置かれていたが、朽ちている印象はなかった。




