第15話
ゲームをログアウトして眠り、起床、出勤。野良仕事をこなし鍛錬を終えた。
「ログインする前に、攻略wikiでも探してみるか」
タイミングとしては悪くなく、今後すぐに必要になるかもしれない。まだ情報の精度は低いだろうが、マドカちゃんの探索や今回の事件について、何かしら判断できる材料があるはずだ。
パソコンの検索エンジンに『マージナル・コントラクト Wiki』と入力。ヒットした最上段のリンクは求めていたものだった。クリックし、情報の海へ飛び込む。
簡素なページには「人気の10件」「今日の10件」「初心者向け」「キャラクターロストについて」「不明点」「ゲームプレイ」「データ」「契約交換相談」「フレンド登録」など項目別で分けられ、wiki内検索も整えられていた。
「キャラロスト⋯⋯?」
このゲーム、キャラクターロストがあるのか。人気の10件でも今日の10件でも、キャラクターロストのページについて検索回数がかなり高い。
様々な死亡報告が並んでいるが、不死鳥の虹羽根を所持していれば一応キャラクターロストは再生できるらしい。蘇生に成功した報告も並んでいる。
しかし、なぜか羽根の効果がなかったり、蘇生後のキャラクターに著しい性格の変化や幻聴、突然前触れもなく出血など、少々真実か疑わしい報告ばかりが書かれている。
他にも渾身のキャラメイクを終えて「さあスタートだ!」と意気込んだ矢先、肝心のキャラクター本人から「人の身体を勝手に弄くり回しやがって!」とダメ出しを食らって、そのままスピード離婚ならぬ即刻契約解除……なんていうキャラロスト文句もそこそこある。
リアリティ重視にせよ、よくこの仕様をゴーサイン出したな開発陣。とはいえゲームの題名が契約における限界点なのだから、看板に偽りなしにも程があるわけだが。
次に「初心者向け」「ゲームプレイ」を見ると、
シナリオとそれらに伴うゲームジャンルについて、各々ユニークと思われるので別サイトにまとめられているとURLが貼り付けられている。
その代わりに実績やミッションについて報告がまとめられていた。ざっと見比べたところゲームジャンルについての細かい違いこそあるが、実績、ミッション、ポゼッション・リンク・システムについては共通点があった。
地名や地図については、街の地図だったり国の地図だったり、手書きの簡素な世界地図と思われる物が複数あったりと、まだハッキリしていない。
ただ、海が少なく陸地が多いのはすべて共通している。とりあえず俺もスクショしていたウェンディの地図をwikiに書いておこう。
なるほど地図についてはこういう誤情報っぽいことも含めて発見を楽しみ、共有するゲームデザインなのかもしれない。
ゲーム内の現状については、各国で中世から近未来までの文明格差が著しいらしい。原因はまだ不明だが「沿岸部にあるネオン輝くSF近未来都市」と「内陸部にある放牧的な中世っぽい国家」またはその逆のようなスクショが混在している。これは失われた古代文明でもある設定なのだろうか?
さて、ざっとすべて見たがマドカちゃんらしき書き込みは、やはり発見できていない。
念のためwiki内検索で「マドカ」「大海魚」「ジウルーン」を入力して検索してみる。
「やっぱりマドカちゃんは無い。大海魚については船乗りのあやふやな伝説だけで「ジウルーン」とやらについては⋯⋯」
妙なスクショだけ見つかった。つるつるの白い卵のような、腕を折りたたんで丸まったコウモリのような、大理石っぽい石像。
人体で怪物でも模した石像だろうか。そうなるとあの殺人イベントは、頭のおかしい怪物の崇拝者たちの犯行ということになるが──いずれにせよあの様子では、まともだとは思えない。
少しだけ彼女の「パパ」という声が、脳裏にチラつく。
「入れ込んでるな、俺も」
サケノミやスズメちゃんは何か書き込んでいないだろうか。確か「廃棄物の学徒」と暫定で「アンチヒーロー」名義だったはず。
サケノミは「フレンド登録」のページにそれらしい書き込みがあった。どうやら限定的にフレンドを召喚できるスキルを獲得したらしく「酒とマッドサイエンティストと、人生の壊し方にドン引きしたいヤツ手伝ってくれ」と書き込みがあった。
このセンスは間違いなくヤツだ。一方でスズメちゃんは────。
「まるで変身ヒーローショーの写真集みたいだな、このスクショ」
プレイヤーキャラクター自身もノリの良い青年なのか、お子様キャラクターとのスクショが数多く書き込まれていた。彼女は彼女で相当入れ込んで楽しんでいるようだ。
「これだとその内、サケノミからゲーム内で呼ばれるかもな。時間も良い頃合いだ。ログインしよう」
俺はwikiの閲覧を切り上げて、女神っぽい女性の横に黒い変身ヒーローと学徒らしき少女の増えたタイトル画面からログインした。
「待たせた。行こうぜ、ウェンディ」
返事はなかった。彼女は少しうわのそらで、エレベーターに向かってふらふら歩いている。危なっかしいが、しかたがない。
「ウェンディ、追って来てる奴はいないが、それでも逃げ場のないエレベーターは上手くない。また階段を使おう」
「あっ、うん。そうね、わかった」
密室では逃げ場がない。できるだけ人がいて開けている道を使うべきだ。しばらく歩いて大水槽を抜けて、何事もなくトンネル商店街に戻ってきた。
「今の内に物陰で給弾をすませちまおう。手を動かすぞ」
俺はウェンディを通して手早く中折れ式のバレルを開き、使用済みの薬莢を排莢して拾い、新たな弾丸を3発詰めた。
誰かが、こちらを見ている。
「誰か近づいてくる。後ろだ、ウェンディ」
「おい、あんた! ちょっと待ってくれ!」
そんな俺たちに、ある青年が声をかけてきた。




