第14話
横画面スクロールの視界が残酷な真実を突きつける。背中から胸へ。広背筋 ── 背中の下部から脇の下に滑り込むように鋭い刃が差し込まれ、一振りの短剣が少女を貫いている。どさりと倒れ広がる真っ赤な血の海。彼女は2度と動かなかった。
「なっ⋯⋯!?」
「いゃあぁあああああああああ!!?」
静止していた時間がウェンディの悲鳴を合図に加速する。彼女の眼前に迫る血塗られた刃を俺は間一髪、4本腕の操作で弾き飛ばした。
「は、はは、ジウルーンに、処女の血をぉお!」
「──── あ?」
「こ、来ないで!?」
非道な行いに俺が殺意を抱くより早く、ウェンディの指先が動く。
轟く3連射。デリンジャーから放たれた弾丸が、男の肩、脇腹、そして頭部を乱雑に抉り取る。くぐもった絶叫を上げたのは彼女ではなく、血に飢えた男の方だった。
「アッ⋯⋯ッッヅァガ⋯⋯!」
「わたしっ⋯⋯そんなっ⋯⋯えぇ⋯⋯?」
ぺたんと尻もちをついてウェンディは座り込んでしまう。衛兵か保安官が銃を手に駆け込んで来ている──これは上手くない。
「──── 《《すまん、俺がとっさに撃っちまった》》」
「あっ、う、うん、うん?」
嘘だ。俺の操作は間に合わなかった、はず。だがコントローラーを握っていたわけでも、タップやスワイプ操作をした訳でもない。認識だけでしか確認できないと少し不確かだ。思わぬ所で操作上の問題が露呈したな。後で運営にフィードバックを送っておこう。
もっとも、処女だなんだと俺のウェンディに吐かした時点で殺すつもりだったんだが ──── 所詮ゲームキャラだ、ただのゲームキャラクターなんだが、CEROレーティングが15歳である以上、今の出血描写はアリなのか?
「ゴールド⋯⋯?」
「何でもない、こっちの都合だ」
人物像がドット描写だから、ある程度残酷な表現は緩和していると見なされたのかもしれない。これだけ繊細で革新的な作品だ。開発陣が予測していない不具合、あるいは設定ミスが存在するのかもしれない。
所詮ゲームで安全なエリアだと思い込んでいた俺の油断もある。常在戦場の意識が足りない。検証の必要もあるな。
「ようし、そこの4本腕の銃口から煙を吹いてるお嬢さん。いいかい? ゆっくり、慌てず、銃口をしっかり上に向けて、引き金から指を離して、銃を地面に置いてちょうだい。良い子だから、そうだ、良いぞ」
両手を広げて近づいてくる恰幅の良い保安官らしき女性の言う通りウェンディを操作して、誰にも銃口が向かない方角に向け、ゆっくりとデリンジャーを地面に置く。
その間に死亡した少女は、別の保安官の上着を丁寧に被せられて、一方で殺害犯の男は乱雑に運ばれて行った。
「みんな下がって! ウォム保安隊が現行犯を制圧したわ!」
「あの⋯⋯」
「もういいよ。むしろ顔を隠してすぐに移動した方が良い。頼むからこれ以上、街で問題を増やさないで」
保安官の女性はウェンディのホルスターに、自分が拾って安全装置をかけたデリンジャーを差し込んでくれた。
「ありがとう保安官。ウェンディ、歩けるか?」
「うん。あ、歩けると思う⋯⋯」
「よし、後ろは俺が警戒するから、ゆっくりでいいぞ。街の外に出よう」
ウェンディはマントを震える指でたぐり寄せて顔を隠し、どうにか自分で歩いてくれた。人を撃って戸惑っている彼女の涙を拭う暇もなかった。




