──とある雑貨店の老店主
遠巻きにゴールドたちをうかがっていた街の人々は、ある雑貨店に入っていく彼らを見て、ひそひそと声をひそめて会話していた。
「本が光ったと思ったら、いきなり武器や服が出てきたぞ?」
「その前に地面を燃やしてたじゃない、しかもその本が宙に浮いて喋ってたわ。怖いっ!」
「4本腕って怪物か何かじゃねえの、顔はカワイイのに、まさか新種族か⋯⋯?」
「シーツしか着てなかったのに、まばたきしたら服が変わって、武器も、なくなってた⋯⋯俺たちそろって狐にでも化かされているのか⋯⋯?」
契約付きは、突然何をしでかすかわからない。誰がどう見ても頭のおかしい奇行にしか見えない数々の行動。一般的な感性を持つ人々が、そろって青ざめるのもしかたがない。
アレに関わりあいたくない、アレに少しでも関わってはいけない。アレの興味を引いてしまえば、自分たちもいつの間にか消されてしまうかもしれない。
想像力豊かな彼らは、今まさに犠牲になっている雑貨店の無事を祈ることしかできなかった。
◇◇◇
雑貨店の店主である儂は、その日契約付きから物品の買い取りを頼まれていた。
宙に浮かぶ本が喋ったかと思えば、虚空からドサドサと武器を出しているようにしか見えん。目眩を覚えてちょっとだけ死んだ婆さんや父親が手を振っている気がして、目頭を押さえてしもうた。
「あの、悪いんだけど、ちゃんと聞こえてますか、おじいさん?」
「あ、ああ、聞こえておるぞ、嬢ちゃん。ちゃんと聞こえておる。それで、先に買い取りじゃったかな?」
よし、仕事をしよう。仕事に没頭すれば、未知の恐怖も薄れる。この店舗を構えて20年。海賊どもにだって鉛玉ブチ込んで、ついでに婆さんのハートにもブチ込んだ儂じゃ。儂はできる店長じゃ、為せば成る。頑張れ、儂。
さて、品物は未使用っぽい上質な武具、忌まわしい骸骨ヒトデどもがよく使っとるパイプ銃に────これは。
「見たこともない、羽根じゃな⋯⋯?」
「不死鳥の虹羽根って品物だ。売れるか?」
なんというか酷く匂い立つような抗い難い輝きをしとる。まだ若さの残っとた時代、もう2度と見れなくなった沈む夕日のような、それでいて人が手にすれば、何かが決定的に終わるような────。
いかん、いかんな、この感覚は覚えがあるし、儂にも商売人としての一端の意地がある。止めよう。
「すまんがその羽根を⋯⋯しまっておくれんか、儂の老いた目には少々強すぎるし、他の商品が騒ぎよるかもしれん」
「わかった。ああ、1200しか金を持ってないのか」
今なんと口にしよったのだ、この本。まさか、儂の店の有り金を言い当てよったのか。商品を含めなければ、おおよそ現金はそのくらいだったはず。なぜじゃ、床下の金庫の場所は誰も知らんはず。台帳でも盗み見られたか。
「でもよ、なんで金がトランプなんだ?」
「なんでって、普通そうじゃないの?」
どうする、どうすれば良い。人を呼ぶか? いやいや金庫の隠し場所が誰かにバレるのは本当に良くない! 儂の生命線じゃもん! ここは素早く査定を終わらせ、金額を口外せぬようになんとか交渉する他あるまい!
「み! 見積もりが終わったぞい! 計7つとパイプ銃で150トランプ。これぐらいでどうじゃ!?」
「じゃあ、この生活雑貨を買うから、残りの110トランプ下さい。他にも聞きたいことがあるんだが、この声の女性を知らないか? マドカって名前なんだ」
『⋯⋯これです、ゲームをやる理由。私もこんなにたくさんスタンプもらったの、初めてです!』
本の表紙に付いている青いエンブレムから、いきなり声が響いた。なんじゃこれ怖い幽霊か何かか。儂の方が限りなくあの世に近いのに、この娘さんたちが怖くてたまらん。しかもお買い求めなされた商品が、いつの間にか消えとる。
「い、いや、知らんね。悪いが聞いたこともない」
「そっか。じゃあ、お邪魔しました」
「あっ、待って! 地上に帰りたいのだけど、手段はないかしら?」
「地上? ここが地上じゃろう?」
先ほどから何を言っとるんだ、本当に! もう帰ってくれないかのう、頼むから⋯⋯!
「じゃあ、このあたりの地図か何かないか?」
「ほ、ほれ、これでよいか?」
「うん。ありがとうね、おじいさん」
「う、うむ。そうじゃ、店舗の金は言いふらさんようにのう、このあたりのルールじゃからな!」
手渡すと無邪気に笑ってようやく店を出てくれた。地図は数が少ないから非売品なんじゃが、この際しかたがない。もう一気に10歳近く余計に歳を食ったようなしんどい気分じゃった。
◇◇◇
画面に表示された売買金額的に、店舗の有り金すべてを羽根1枚と交換できそうだったけど、爺さんが承諾しなさそうなのでやめた。
あの羽根は何か耐性でもあるキャラクターに売らないと、販売イベントが上手く進行しないアイテムなのかもしれない。
一方でウェンディは購入したぶっとい魚肉ソーセージと魚の缶詰を飲むように腹に詰め込んでいる。バッドステータスはそれでもつかなくなるが、俺もそろそろ夜食が恋しい。確かオニギリがあったな。
「それだけだとお腹がすくだろう。ほれ」
通常のお値段とほぼ同等の課金アイテム『厳選! ニイガタ産コシヒカリオニギリ!』を購入した。
「良いの?」
「もう買っちまったからな。俺もこっちで食うよ」
「⋯⋯⋯⋯アンタは本なのに食べるの?」
どっと笑って、画面の向こうの彼女と食事タイムと洒落込んでいた。




