第11話
「よし、とりあえず売れる物売って、まともな服と武器と宿を探そう。いいかげん疲れただろう?」
「おなか空いちゃったわ。お魚には困りそうもないものね」
ウェンディのパラメーターを確認すると、軽度の空腹や疲労を示すバッドステータス数値が表示されている。このあたりのケアも必要なサバイバル要素のあるゲームだ。最初だし何か美味いものでも食わせてやろう。
『実績:10レベル到達につき、フレンド登録機能とプレイヤー情報、課金機能が開示されます』
「おっと、新機能か⋯⋯?」
ようやくチュートリアルが終わったらしい。通知された内容によると、スズメちゃんやサケノミ向けのフレンド登録画面が新たに追加されていた。
サケノミは11レベルだったから知っていたはずだが、あいつ酒飲んで忘れてやがったのかな。課金機能は定額で便利な武器やアイテムを購入できる他に、ガチャ機能もあるようだ。
「初回は無料で10連引けるな。最後の1回はそれなりに良いのが出ると」
「ねえ、ガチャって何?」
「そうだな、俺たちにとっては契約特典福引きみたいなもんかな。引いてみるか?」
「福引って、何か貰えるのよね。10個も何か貰えるなら、そりゃするわよ」
契約相手でありゲームキャラクターでもあるウェンディでも、契約書のガチャページを見せればガチャを引けるらしい。斬新な機能だな。
彼女がガチャの項目に触れると契約書の青いエンブレムが光り、そこから品物が出てくる。2回目と6回目と最後は虹色の光だった。
「やるな、6%の大当たりを3回抜きだぜ」
「それってすごいの?」
「すごいぞ。かなり使えそうな物が当たったな」
Rのメリケンサックや短刀、槍などもガチャで当たったが、特に好みではない。あとはSSR『モーガリス帝国制式採用片手剣』とSSR『フェアリートラウエン』という宝石があしらわれた妙な機械杖、ウェンディに着せるのに似合いそうだが露出の多いSSR『都市国家技術士官用反装甲式シンクロスーツセット』敵対相手を警戒させる護身用に良さそうな、装弾数3発のSR『カーマイン工房製デリンジャー改』が当たった。
「あっ、巫女騎士さまのピコピコ制服だ」
「ピコピコ制服⋯⋯? 妙な呼び方だが、故郷の服か?」
「そうよ、都市国家内にある色々なピコピコのお医者様だって、お父様が言ってたわ」
シンクロスーツは詳しいテキストや性能も書いてある。肩から背へ流れる全身を覆えるほど長めのケープは、海や水槽の底を思わせる青緑色。光を受けるたびに微細な回路模様が淡く浮かび上がり、まるで生き物の鱗のように脈動して見える。
胸元は白を基調とした軽装型インナーで、強い衝撃を受けた際には内部フレームが展開し、獣の逆立つ硬い毛皮のような反応装甲へ変化する面白い構造らしい。
腰には円環状の制御ユニットが幾つも固定され、くるくると画面内でセット一式を回す度に金色のリングがわずかな電子音を鳴らした。細いベルトと接続端子が身体に沿って配置されており、装飾でありながら何らかの機械接続用インターフェースでもあることを感じさせた。
半面、両腕を覆う崇美な黒グローブは人工筋繊で丁寧に編まれており、指の関節部に硬い戦闘用らしき突起物、指先には精密作業用の金属節が組み込まれている。太腿から膝へ伸びるガーターフレームと脚部装甲は細身ながら強化外骨格《擬似アシストブーツ》として機能し、軽装の印象に反して高い機動力を予感させる。
そして何より目を引くのは、頭部の狐耳にも似た大型センサーユニットだ。白銀のヘッドギアと一体化した装置には複数の光学レンズが埋め込まれ、周囲の情報を常時解析できるようだ。金色の円環装飾が耳元で揺れるたび、静かな威圧感をまとっている。
総じて、無機質な黒、純白、そして青緑。三色で統一されたその装いは、兵器と祭服の境界を曖昧にした、SF世界の巫女技師そのものだ。
ただ、どう考えても生身の人間用装備ではないので、赤字でサイバーアップLv3と表示されて、情報収集機能の大部分が稼働していない。現状でもウェンディが着ることだけはできるが、残念ながら何らかのイベントを進めないと、せいぜい性能の良いリアクティブアーマーとアシストブーツとしてしか使えない。
そして外見はビキニの水着より多少布地が多い程度で、大胆の一言だ。ギリギリ見えそうで見えない鼠径部や、ほぼすべて剥き出しの腰とクビレ、太腿、むしろ下半身は腰から伸びる前掛けとブーツのみという格好は⋯⋯ゲームキャラクターとして、この勝ち気なウェンディが着ることを、はたして承服するのか、否か。
うむ。ここはマジで慎重に行動を選ぶべきだ。彼女と適切なコミュニケーションを行わねば、永続的な眼福度という遥かなるエデンは維持できない。彼女の故郷に由来する素晴らしきヘンタイども⋯⋯いや、このゲームのキャラデザイン制作者諸兄に最高の敬意を示すためにも、この最難関クエストを最高純度でブチ抜かねばっ!
⋯⋯だが焦るな、まずは小手調べだ。幸いキャラデザイナー様たちの意図はこのゴールド、200%把握しているっ!
「ふむ、大胆なデザインだが、長いケープで覆ってしまえば見えないだろう。ウェンディ、袖を通してみるか?」
そう。一見ケープマントが長いので見えないという、この言い訳。いけるか、いけるのか、通せっ! ⋯⋯とぉせぇっ!
「それは、1度はそうしてみたいけれど、ここで着替えるのは恥ずかしいじゃない」
よっしゃぁあ! 勝ったぞ! 勝ち申した! 快なり! 神よ、俺たちを祝福せよぉお! よし、神様に祈った所で冷静になろう。
「通行人のモブたちが気になるのか、じゃあステータス画面を開いて、っと」
装備画面を開いてシーツを装備しているだけのウェンディに、『反装甲式シンクロスーツセット』と、ついでに『デリンジャー改』と『モーガリス帝国片手剣』を装備させていく。
4本腕の部分が邪魔になるかと思ったが、ちゃんと袖が増えていて腕を通せた。SSRだけあって防御力も高く、セットボーナスで移動力や交渉力のパラメーターもそれなりに上昇していた。
「きゃっ!? あたしこの服着てないのに、アンタそんなことできるんだ!?」
「ふおお⋯⋯エデンはここにあったんだな、師匠」
「はい?」
同郷の民族服ということもあり、異様なほどウェンディにマッチしている。特に碧みを帯びた銀髪と褐色肌が加わり、あどけない表情が、なんとも⋯⋯。
長いケープマントは体を覆っているのだが、これはこれでチラチラ見えちゃうのがヤバい。加えて下にあるのが大胆でエキゾチックなサイバー巫女衣装ということを知っているのが俺だけかと思うと、もはやトキメキがノンストップでしかたがない。
最難関クエスト、無事クリアだ。俺に冷静に事を進められる精神鍛錬を授けてくれてありがとう師よ。でも師匠も着たら似合いそうだよね。今こそゲーマーとしても師である彼女が、よく言っていた事を口に出そう。
「武器や防具は装備しないと意味が無いからな。ふむ、よく似合ってるじゃないか」
「そ、そう? えへへっ」
とはいえ、彼女は恥ずかしそうに長い銀髪を丸めて口元に当てていた。新しい服を誰かに贈られて機嫌の悪くなる女の子はそうはいないものだ。一転、ほっこりだな。
着替えが終わり満足したあと、ある程度水槽の街を歩き、俺たちは適当な雑貨店らしき店舗のドアをくぐった。
「いらっさいませぇ」
間延びしたしわがれ声で新聞を退屈そうに読んでいる老人が勤めている。こちらを見てすらいない。万引きされても知らんぞ。
そう思いながら役に立ちそうな道具や軽食、雑貨を揃えて、カウンターに持っていく。
「買い取りも頼みたいんだが、良いか?」
インベントリからさっきガチャで手に入れた武器や不死鳥の虹羽根、パイプ銃などをどっさり並べる。老人は目を丸くして、そんな品々を見ていた。




