第10話
『緊急ミッション:土に還れぬ古騎士、橡を退けて先に進もう!』のクリア報酬は、またしても不死鳥の虹羽根×10だった。これで合計19羽。旅費にでもしろと言うことなのだろうか。
「あっ、ドングリ」
「なに? アイツは見えないぞ?」
「そうじゃなくて、服に絡んでたみたい」
手に取って見ると、なんの変哲もないドングリの実だった。とりあえずインベントリに入れておこう。
『ドングリ』
『小さく艷やかな木の実。今となっては、これに価値を見出す者は地上にいない。だが、凍えるような暗闇の中でこれを握りしめれば、ほんの少しだけ手のひらが春の陽光を思い出したように温かくなる』
――『いつか、また。土の上で会おう』
フレーバーテキストには、こう書かれている。
「ドングリ、好きか?」
「まあね。お父様とよく小さい頃、ピクニックしてサンドイッチとか、ハンバーガーとか食べたの」
「そうか⋯⋯誰にでもある思い出だよな。さっきの強烈なの除いてなぁ」
「そこは口に出さないでよ、まったく」
手のひらの上で転がる姿を見て、どことなく笑顔になってしまうのはそのせいだろう。画面の中のウェンディも笑っていた。
「ねえ、看板があるわよ」
「看板?」
視点を操作して拡大すると、確かに行く先に斜めに崩れた看板がある。トタン鉄板に英文でアバンダンド・ウォムと書かれ、矢印が横に伸びている。
直訳すれば見捨てられた安全な場所。あるいは──。
「ちょっとハレンチなラクガキね」
「意味が分かるのか、ウェンディ?」
「女の口から言わせないの。でもこれってもしかして、街──なのかしら?」
「さてな、とりあえず他にあてもない。矢印のとおりに進んでみようぜ」
進めば進むほど片付けられている瓦礫の山道を進む。次第に泡立っている胃酸の海が少なくなり、澄んだ海水のような水たまりが多くなってきた。
「これって、外に続いてるの⋯⋯?」
「いや、アレを見てみろ、建物だ」
天井が見えないほど伸びる巨大な円柱水槽に、居住区らしき建物が螺旋状に配置されている。もしくは大きな海洋研究所か何かが、丸ごと飲み込まれてしまったような印象を受ける。
城門や城壁のようなものはなく、半円形の大きなトンネルのような場所を、人が自由に出入りしている。なんとなく揃って見つめてしまい、トンネルの下に歩いて行くと──。
「水族館なのか⋯⋯」
「水族館。こういうの、水族館って言うんだ⋯⋯」
頭上を水が流れるステンドグラスのトンネルは、商店が並ぶ目抜き通りらしい。遠く、小さい多くの群れなす魚影や、クジラやイルカらしき大きい魚影が通り過ぎていく。中にはどう呼んで良いのかわからない、名状しがたい魚影もいくつか水中を揺蕩っている。
最初が水族館のような街とは驚くが、本格的に近未来SFっぽい建物だ。
「おいコラァ! 道の真ん中でボーッとしてんなよ、嬢ちゃん!」
「あ、すみません」
「って、あ、あんた、その本は契約付きか!? じゃ、じゃあな!」
トンネルの横にウェンディがズレると、真っ白いクワガタムシに似た生き物に乗った青年が、ブツブツ言いながら慌てた様子で通り過ぎて行った。
「ねえ、ここ本当に、大きな魚のお腹の中なの?」
「確かにそう書いてあったが、俺も自信なくなってきた。これからどうする?」
「あんなに住居があるんだもの、宿くらい探せばあるでしょう?」
「そう──だな、その前に先立つ物を手に入れちまおう」
『実績:アバンダンド・ウォム到達』
おっと、新しい場所に到達しても実績解除されるらしい。しかも他の実績や、ボスを倒した時の倍以上の経験値が獲得できた。新しい場所に到達する方が、経験値的にずっと美味しいのか。
「今の実績解除で、この前話した吸い込みかラーニング取れそうだぞ、どっちにする?」
「じゃあ、吸い込みで良いんじゃない。試しにドングリ1つを吸い込んでみましょう」
ランタンのスキルツリー、吸い込みを習得してランタンを手の平のドングリに向けると、火炎が飛び出てカエルの舌のように張り付き、ドングリを内部に吸い込んでしまった。
「そんな風に吸い込むんだ」
「もっと普通に吸い込むと思ったが、もしかして1度炎上させて、灰にしてから吸い込むのか?」
とりあえず誰もいない方角に向けて、撃ってみる。ぽんっ⋯⋯と軽やかに飛びでたドングリ型の炎が地面を転がると、四方八方に根を伸ばして燃え始めた。
「なるほど、ちょっとした炎の網みたいに使えるんだな」
「あの時の根っこみたいだけど、根本的に数が足りないわね」
服に引っかかっていたドングリの数は多くない。地上の森にでも行けば似たようなものはいくらでもあるだろうが、この量じゃ1回が限界だった。




