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55.U15日本代表VSU15イタリア戦―――1

「さぁ! いよいよ日本のグループステージ第2節、U―15日本代表対U―15イタリア代表の試合が間もなくキックオフの時を迎えます! 前節、日本は強豪コスタリカ相手に後半から怒涛のゴールラッシュを見せ、4-0という誰も予想しなかった圧倒的なスコアで見事な大勝利を収めました! しかし! 今日の相手は欧州が世界に誇る守備の国、伝統の【カテナチオ】を擁する超大国・イタリアです! 果たして日本の鋭き矛は、ヨーロッパの極厚の盾を貫けるのか!? 90分後の勝利はどちらの手に輝くのかぁぁぁっ!」


スタジアムを包み込む尋常ではない熱気と興奮を、そのまま強引に電波に乗せたような実況アナウンサーの熱を帯びた絶叫が、テレビのスピーカーを通じてビリビリと放たれた。


画面には超満員に膨れ上がった6万人のスタジアムが上空からのカメラで映し出されている。


ホームである日本のサムライブルーに染まったサポーターたちと、アウェーでありながら陣取った一角を埋め尽くすイタリアの熱狂的なサポーターたちが、キックオフ前からすでに互いを威嚇し合うような、地鳴りのようなチャントを激しくぶつけ合っていた。その音圧は画面越しに聞いているだけでも鼓膜が震えるほどだった。


そしてその熱狂の映像を蒼空斗と明里の自宅リビングで、健一、春樹、明里、蒼空斗の四人が、息をするのも忘れたかのように食い入るように見つめていた。


「いけぇぇぇぇっ! 蹴太ぁぁぁっ! 今日は最初っからスタメンだぁぁぁ! 最初から全開でぶちかましてやれぇ!」


健一が首に巻いていた日本代表のタオルマフラーを振り回しながら、テレビの画面に向かって顔を真っ赤にして大声で叫んだ。昨日のコスタリカ戦の後半から見せた、友の理不尽なまでの無双劇が健一のテンションを未だに異常なレベルに引き上げている。


その横で蒼空斗は手元のタブレット端末を素早く操作し、大会公式サイトにたった今発表されたばかりの両チームのスターティングメンバーとフォーメーション図を、名前を噛み砕くような真剣な眼差しで確認していた。


「日本のシステムはコスタリカ戦の後半に採用した【4-5-1】だね。蹴太をワントップの楔として据え、中盤の構成力を極限まで高めた布陣だ」


蒼空斗が静かな声で読み上げる。


U―15日本代表 システム【4-5-1】

GK

大童子清隆


DF

青星俊 右サイドバック

窪田大輔 右センターバック

ヤンセン・大河 左センターバック

鵜飼朝陽 左サイドバック


MF

三國健 右ボランチ

国近涼真 左ボランチ

横畑海夏人 右インサイドハーフ

外丸直樹 左インサイドハーフ

九条隼人 トップ下/オフェンシブミッドフィルダー


FW

神野蹴太


「この布陣なら九条からのパスがガンガン通るな!」


健一が興奮した様子で友の活躍を応援する。しかしそんな健一の声など届いていないように蒼空斗と春樹はタブレットを凝視する。


「対するイタリアは・・・」


蒼空斗の指先がタブレットの画面をスライドする。蒼空斗と春樹の顔に浮かぶのは健一のような楽観的な表情ではなく、深い警戒心だった。


U―15イタリア代表 システム【3-5-2】


GK

ジャンルカ・ドナルーマ


DF

フェデリコ・ガッティ 右センターバック

ジョルジョ・スカモーニ 中央センターバック

アレッサンドロ・バストーニ 左センターバック


MF

アンドレア・ロカテッリ ボランチ

ニコロ・バレッラ 右インサイドハーフ

ローレン・ペッレグリーニ 左インサイドハーフ

ジョバンニ・ディ・ウドジェ 右ウイングバック

フェーデ・ディマルコ 左ウイングバック


FW

マテオ・レテギ

フーリ・キエーザ


「イタリア伝統の強固な3バック・・・いや、守備時は両ウイングバックが最終ラインまで下がって【5バック】を形成するシステムだ。そして・・・やはり初戦の最強ドイツ相手に温存されていた絶対的な主力たちが全員スタメンに名を連ねている」


蒼空斗の重い声に、明里が不安そうな顔で尋ねる。


「どうなの? 蒼空斗・・・教室で神野君は【イタリアは負ける可能性があるくらい強い】って言ってたけど・・・」


「・・・俺、昨日の夜からずっとSNSや動画サイトにアップされていた、同じU―15イタリア代表の過去の試合映像をかき集めて見たよ」


蒼空斗はタブレットをゆっくりとテーブルに置き、真っ直ぐにテレビ画面の向こう側を見た。


「イタリアは初戦のドイツ戦を、極論【負ける覚悟】をしたうえで彼らの主力を完全に休ませた。そして今日、満を持して疲労のないベストメンバーを組んできた。イタリアは本気で日本戦を獲りに来ている。彼らは引き分け狙いなんかじゃない。ホームで浮かれている俺たち日本を完膚なきまでに叩き潰して、確実に勝ち点3を奪い取る気だ。そのための布陣だよ」


「でも蹴太なら! あいつなら、どんな分厚い壁だってぶち壊せるだろ! 昨日のあの理不尽な突破とシュートを見ただろ!」


健一が湧き上がる不安を強引に振り払うように叫ぶ。


「うん、蹴太ならいけると思ってるよ。あの理不尽なまでの個の力があれば・・・でも、サッカーに【確実】や【絶対】はない。特に組織で個を封じ込める戦術において、イタリアの右に出る国は世界中どこを探してもない」


蒼空斗は画面に映し出された入場直前の選手たちの凛とした姿を見つめた。


「俺達はここで見守るしかないよ。ピッチに立つことはできないんだから」


春樹が深く頷く。


「そうだな。俺たちは信じようぜ。蹴太がいつも通り、あのふてぶてしい顔でゴールを決めて、世界を完全に黙らせる様を見よう」


四人はテレビの画面越しに、ピッチ上に整列して国歌を歌っている背番号9の友の姿を見つめ、静かに、そして熱く祈りを捧げた。


■■


スタジアムのピッチ上。


両国の国歌斉唱が終わり、肌を刺すような異様な緊張感が漂う中、コイントスを終えた選手たちがそれぞれの陣地へと散っていく。


「いいか! この試合に勝てば、俺たちのグループステージ突破が確定する!」


キックオフ直前、自陣で組まれた大きな円陣の中心で、キャプテンマークを巻いたヤンセン・大河が選手たちを鼓舞するように、腹の底から響く声で檄を飛ばした。


「相手がイタリアだからって、ヨーロッパの強豪だからって、名前だけで怖がる必要はどこにもねぇ! あの地獄の合宿を乗り越えた俺たちの力を出し惜しみせず、最初からフルスロットルで、全力でいくぞ!」


「「「「「オォォォォォォッ!!」」」」」


日本代表のイレブンが決死の覚悟を込めた咆哮を上げる。


ヤンセンの言葉で円陣が弾けるように解け、選手たちは闘志を剥き出しにしてそれぞれのポジションへと就いた。


最前線のセンターサークル付近に立つ蹴太は軽く首を鳴らして筋肉をほぐしながら、自陣に陣取るイタリアの選手たちを静かに、そして鋭い視線で見渡した。


(マテオ・レテギ、アンドレア・ロカテッリ、そして・・・ジョルジョ・スカモーニ)


ミーティングで久森監督が挙げた絶対に警戒すべき3人のキーマン。彼らが放つ、映像で見た以上の圧倒的な存在感と威圧感がピッチ越しにビンビンと肌を伝わってくる。


だが蹴太の心に【恐怖】という感情は1ミリも存在しなかった。


あるのは世界最高峰の極上の獲物を前にした狩人のような、ゾクゾクとするような高揚感だけ。全身の血液が沸騰する感じがし、細胞の一つ一つが【早くボールをよこせ】と悲鳴を上げている。そして、電光掲示板の時計がキックオフの時間を指し示す。


ピーーーーーッ!


主審の長いホイッスルがスタジアムの夜空に鳴り響き、U―15イタリア代表のワントップ、マテオ・レテギのキックオフで、生き残りを懸けた運命の90分間が幕を開けた。


「よし! プレスだ!」


トップ下の九条が声を上げ、蹴太と共に前線から激しくボールを追いに行く。日本の戦術は相手のディフェンスラインからボールを奪い、ショートカウンターを狙うアグレッシブなハイプレスだった。


しかしイタリアのボール回しは、昨日戦ったコスタリカのそれとは完全に【次元】が違った。


ボールはキックオフ直後からイタリアのボランチ、背番号10を背負うアンドレア・ロカテッリの足元へと吸い込まれるように収まった。


ロカテッリは一見すると、線が細く、フィジカル的な脅威は全く感じさせない。だが彼がボールを持った瞬間、ピッチの空気が劇的に一変した。


左インサイドハーフの外丸直樹が、ロカテッリからボールを奪おうと猛烈な勢いでプレスをかける。


だがロカテッリは全く慌てることなく、ボールを足元に置いたまま外丸を引きつけ、距離が詰まる直前に、まるで背中に目がついているかのように、ヒールでノールックのワンタッチパスを右ウイングバックのウドジェへと逃がした。


「クソッ!」


外丸の渾身のプレスが闘牛士に躱された猛牛のように虚しく空を切る。そしてウドジェがボールを受けると、日本の守備陣がそちらへ慌ててスライドする。するとロカテッリはすでに歩くような自然な動作で別のフリーなスペースへと軽やかに移動しており、再びボールを呼び込む。


「中を締めろ! 自由にパスを出させるな!」


国近が相方の三國や九条に大声で指示を飛ばす。日本の中盤が連動してロカテッリを囲い込もうとする。


しかしロカテッリの【ポジショニング】と【空間把握能力】は日本の中学生たちの予測と反応速度を遥かに上回っていた。


(ここだな)


ロカテッリは日本の選手がプレスに来るコンマ数秒前にボールを手放し、味方へパスを散らす。長短のパスを完璧な精度で使い分け、時には最終ラインまで戻ってボールを引き出し、時には前線へと顔を出して攻撃のリズムを刻む。


まるでピッチ全体を上空から俯瞰で見下ろしているかのように、日本のプレスが絶対に届かない【死角】をミリ単位の正確さで突いてくる。


(くそっ・・・! プレッシャーが全くハマらない!)


九条が息を切らしながら、忌々しげに舌打ちをする。


ボールを奪いに行けば行くほど嘲笑うかのようにパスで躱され、体力だけが無情に削られていく。日本はボールに触れることすらできず、ロカテッリというたった一人の心臓によって、完全にゲームのテンポと空間を支配されてしまっていた。


前半開始から10分が経過しても日本のボール保持率はわずか30%程度。圧倒的にボールを持たれ、ボールの狩り場を見つけられないまま、ひたすら守勢に回る苦しい展開が続いていた。


「焦るな! ブロックを崩すな!」


最後尾からヤンセンが声を張り上げる。だ、イタリアの牙はその日本のわずかな焦りと一瞬の隙を逃さなかった。


前半11分。


自陣深くでボールを受けたロカテッリが、スッと顔を上げた。


日本の前線がプレスをかけようと一歩踏み出した、そのわずかな逆を突くタイミング。ロカテッリは右足を鋭く、そして狂気的なほど正確に振り抜いた。


「っ! 裏だ!」


国近が叫ぶ。


ロカテッリから放たれたのは地を這うようなレーザービームのような縦へのグラウンダーのスルーパス。


そのパスは日本の二列目をいとも簡単にすり抜け、さらにセンターバックの窪田とサイドバックの青星の間の極小のスペースを、糸を引くように見事に通った。


そして、そのパスの先。


オフサイドラインぎりぎりで獣のように待ち構えていたイタリアの背番号9、エースストライカー【マテオ・レテギ】が凄まじい初速で裏のスペースへと抜け出した。


(もらった!)


レテギは弾丸のようなパスを足元でピタリと収め、ペナルティエリア内へと一気に侵入する。その強靭な肉体と圧倒的なスプリント力。まさにゴールを破壊するためだけに作られた重戦車。


(ここで決め・・・)


レテギが右足を大きく振りかぶり、シュート体勢に入ろうとしたその瞬間。


「甘ぇよっ!!」


ドォォォォォンッ!


真横から装甲車が激突してきたかのような凄まじい衝撃がマテオの身体を襲った。日本の怪物センターバックでありキャプテンのヤンセン・大河である。


ヤンセンはロカテッリがパスを出す一瞬前からマテオの動きを完全に読み切り、猛スピードで死角からカバーリングに入っていたのだ。


「!?」(なんだこのプレスの威力とフィジカルは!? 本当にアジア人かよ!?)


レテギはその巨体ごと吹き飛ばされそうになりながらも、鍛え抜かれた体幹でなんとか踏みとどまった。だがシュートコースは完全に塞がれ、ヤンセンの長い足が的確にボールを突き出し、ペナルティエリアの外へと大きくクリアした。


「しゃぁぁぁっ! ナイスブロックや! ヤンセン!」


青星がヤンセンに向かって叫びながら称える。


(・・・このアジア人、ただデカいだけじゃない)


レテギはクリアされたボールの行方を目で追いながら、立ちはだかるヤンセンを睨みつけた。


(一瞬の読み、身体の寄せ方、そしてこの強靭な体幹・・・信じられないが、うちのキャプテンのジョルジョに近いレベルのディフェンス力を持っている。こんなところにこんな化け物がいるとはな・・・)


イタリアのエースは極東の島国のセンターバックに対し、明確な脅威と警戒心を抱いた。しかし、ヤンセンのビッグプレーによって失点の危機を免れた日本だったが、依然として試合の主導権は完全にイタリアが握っていた。


ロカテッリのゲームメイクを中心に、左右のウイングバックを使った幅のある分厚い攻撃に、日本の守備陣は左右に走らされてスタミナを確実に削られていく。


(くそっ、このままじゃジリ貧やないか! なんとか前線にボールを・・・)


右サイドバックの青星が荒い息を吐きながら汗を拭う。


前線の蹴太や九条も守備に奔走させられ、ボールに触る機会すらほとんどなく、本来の攻撃の形を全く作れずにいた。


しかし前半18分。


イタリアの左ウイングバック、ディマルコのオーバーラップからのクロスボールがわずかに精度を欠き、日本の左サイドのタッチラインを割った。日本のスローインとなる。


「鵜飼!」


ボールを拾いに行った左サイドバックの鵜飼朝陽に対し、ボランチの国近が鋭い声でボールを要求した。


イタリアの陣形が戻りきる前の一瞬の隙。朝陽は素早くボールを投げ入れ、国近がそれを完璧に足元に収める。


(ずっと回されっぱなしでイライラしてたんだ! やり返してやる!)


国近はロカテッリに完全に支配された中盤での屈辱を晴らすかのように、顔を上げて前線を見た。


イタリアのディフェンスラインは3枚のセンターバックが高い位置をキープしている。その裏には広大なスペース。


「神野!」


国近は先ほどのロカテッリ顔負けの、予備動作を極限まで省いた鋭いスイングで右足を振り抜いた。


空気を切り裂くような、低い弾道の高速スルーパス。


それはイタリアの右インサイドハーフ、バレッラの横をすり抜け、前線に張っていた蹴太の足元へとピタリと向かっていった。


(来たっ!)


蹴太は後方からの強烈なパスに対し、自身の固有スキル【吸着トラップ】を発動させる。


足元にピタリと吸い付くような、無音のトラップ。一切の勢いを殺すことなく、流れるような動作で反転してイタリアのゴールへと前を向いた。


「行かせるか!」


「潰せ!」


そこに素早い攻守の切り替えを見せたイタリアの中盤、バレッラとペッレグリーニの二人が猛然と挟み込むようにプレスをかけてきた。


欧州トップクラスの球際の強さと連動した組織的なプレス。普通の中学生ならこの二人に囲まれた時点でボールを失うか、後ろに下げるしかない。


だが、蹴太は笑った。


(遅ぇよ)


蹴太はバレッラが右足を突き出してくるコンマ一秒前、足の裏でボールを引いて間合いを外した。そのままペッレグリーニが寄せてくるのを嘲笑うかのように、細かいタッチでボールを右へ運び、一瞬のボディフェイントで二人の重心を完全に崩した。


「なっ!?」


「くそっ!」


交錯するバレッラとペッレグリーニの間を蹴太はまるで水が流れるように、しなやかなドリブルでスルスルと抜け出した。圧倒的な足元の技術と身体の使い方の巧さだった。


「うおぉぉぉぉぉっ!!」


日本のサポーターから一気に反撃への期待を込めた大歓声が沸き起こる。


「いけぇ! 蹴太ぁ!」


テレビの前で健一が絶叫する。


二人を置き去りにした蹴太はそのままドリブルのスピードを上げ、ペナルティエリアへと向かって突き進んだ。


(このままペナルティエリアに侵入してシュートまで!)


しかし、蹴太の前に巨大な影が立ちはだかった。イタリアのキャプテンであり、カテナチオの心臓。背番号3、ジョルジョ・スカモーニ。


身長190センチ台後半。鋼のような肉体を持つ巨漢は蹴太のドリブルコースを完全に塞ぐように、ペナルティエリアのラインの数メートル手前で、まるでそびえ立つ堅牢な城壁のように待ち構えていた。


その目は蹴太の細かい足捌きに惑わされることなく、ボールの芯だけを冷徹に捉えている。


(こいつが・・・ジョルジョ・スカモーニ。映像で見た以上、凄まじい威圧感だ。だが・・・)


蹴太の口角が吊り上がった。


(俺のスピードなら置き去りにできる!)


蹴太はスカモーニと対峙した瞬間、全く減速することなくさらにギアを一段階上げた。


固有スキル【瞬間最高初速】。


一歩目からトップスピードに到達する理不尽な加速。コスタリカの屈強なセンターバックたちを絶望させた、あのチート級の初速。


ダンッ!


芝生を蹴り飛ばす音と共に蹴太はジョルジョの右側を一瞬にして抜き去ろうとした。


(抜けたっ!)


蹴太の身体がジョルジョの横をすり抜ける。スカモーニの巨体は蹴太の異常な初速に反応しきれていないように見えた。


だが。


「・・・フェデリコ」


すれ違いざま、スカモーニの低いイタリア語の声が蹴太の耳に届いた。


蹴太がスカモーニを抜き去り、前方のボールに追いつこうとしたその時。彼がボールを押し出したその数メートル先のスペースに、すでにもう一人の男がスライディングの体勢で滑り込んでいた。


右センターバックのフェデリコ・ガッティである。


(なっ!?)


バァァァンッ!


ガッティの鋭いタックルが、蹴太が追いつくよりもほんの一瞬早くボールを捉え、タッチラインの外へと大きくクリアした。


「しゃぁぁぁぁっ!」


ガッティが雄叫びを上げて立ち上がる。


蹴太はタッチラインの外へ転がるボールを見つめながら目を見開いた。


(・・・俺の【瞬間最高初速】を使った突破は完全にスカモーニを抜いていたはずだ。なのに・・・くそ! これがカテナチオ!)


蹴太が振り返るとジョルジョ・スカモーニが無表情のままこちらを見ていた。


ジョルジョは蹴太の異常な初速を見た瞬間に【個の力では止められない】と、事前のビデオとディフェンダーとしての本能で悟った。


だからこそ彼は無理に一人で止めに行かず、蹴太が【自分の横を抜き去るコース】を意図的に限定するようにわずかに身体の向きを作り、その抜かれた後のカバーリングを右センターバックのガッティに事前に指示していたのだ。


個人の圧倒的な武力を組織の連携という強固な盾で無力化する。これがイタリアの誇るカテナチオの真髄。


(俺の【個】を組織で絡め取るってわけか。コスタリカの連中みたいにプライドだけで突っ込んでくるような安いディフェンダーじゃないってことだな)


蹴太の背筋にゾクッとするような戦慄と、それを上回る強烈な歓喜が駆け巡った。


(・・・面白い)


蹴太はスカモーニに向かって、極上の獲物を見つけた猛獣のような笑みを浮かべた。そしてスカモーニもまた、無表情の奥で日本のストライカーに対する警戒度を最大に引き上げていた。


前半20分。スコアは0―0。


最強の【個の矛】を持つ神野蹴太と、世界最高峰の【組織の盾】を統率するジョルジョ・スカモーニ。


誇りを懸けた、互角の死闘が始まる。

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