51.U15日本代表VSU15コスタリカ戦―――4
「さぁ! いよいよU―15ナショナルチャンピオンシップ、グループA第1節の日本対コスタリカ、運命の後半戦が始まります! 両チームともにハーフタイムを終えて、再び熱気渦巻くピッチへと姿を現しました・・・おぉぉっと! ここで日本代表、後半開始からいきなり動いてきました! 二枚のメンバーチェンジがあるようです!」
6万人の大観衆の熱気に包まれたスタジアムの放送席から、実況アナウンサーのトーンが一段と跳ね上がった。テレビ中継の画面にはピッチへ決意の表情で入場してくる日本代表の選手たちの姿と同時に、画面下部に交代となるメンバーの顔写真とテロップが大きく表示される。
「前半、前線で泥臭く身体を張り続けた武雄颯太選手、鷲谷蒼選手という強力なツートップを下げます! そして彼らに代わってピッチへと送り込まれるのは・・・中盤の絶対的司令塔・九条隼人選手、そしてもう一人! 今回、日本代表のエースストライカーの象徴である【背番号9】を背負う、神野蹴太君です!」
アナウンサーの興奮を帯びた声が、手元の資料を見ながら全国の視聴者へと届けられる。
「この神野君ですが、事前のプロフィールによりますと、Jリーグのジュニアユース組織でも全国的な強豪クラブチームでもない、普通の公立中学校からの【サプライズ選出】となった選手です! 小学生時代の代表経験も皆無という、全くの無名のストライカー! 久森涼介監督、この絶対に負けられない重圧のかかる初戦の後半、スコアレスドローの痺れる展開で、この未知数のストライカーに日本の命運を託しました!」
アナウンサーがテレビの視聴者に向けて、大きな期待を込めながら高らかと紹介している頃。スタジアムの喧騒から隔離された関係者席では柳野が腕を組みながら不敵な笑みを浮かべていた。
(来たか・・・久森、お前の決断は正しい。あの分厚いコスタリカのブロックをこじ開けるには戦術などという生ぬるい言葉ではなく、理不尽なまでの【個の暴力】が必要だ)
柳野は眼下に広がる緑のピッチの中央へ、大舞台のプレッシャーなど微塵も感じさせない悠然とした足取りで向かっていく背番号9の背中を食い入るように見つめた。
「来ましたね。神野君」
隣でパソコンを操作しているサポートスタッフの氷川が、不安げに喉を鳴らしながら言った。
「あの屈強で強固なコスタリカの5バック相手に無名の中学生が一人でワントップ・・・大丈夫でしょうか? 想像を絶するプレッシャーに押し潰されて、何もできずに終わる可能性も・・・」
「知らん」
柳野は氷川の不安をあっさりと一刀両断した。
「だが、久森があの無名の公立中学生にエースストライカーの証である【9番】を背負わせたんだ。あの男が自分の存在を懸けて見出した【最強の矛】だ。我々協会側はあれこれ口出しせず、ただ信じて見守るしか無い」
「・・・そうですね」
柳野と氷川は黙ってピッチを見下ろし、大歓声のスタジアムの中心で全く気負う様子もなく堂々と胸を張って立っている背番号9番の姿を祈るような気持ちで見つめた。
■■
後半は0―0のスコアのまま、コスタリカのキックオフで幕を開けた。
主審の鋭いホイッスルが鳴り響くと同時に、ワントップのアンソニーがボールを軽く自陣へ蹴り出し、それがダブルボランチの一角のセルヒオへと渡った。
(さて・・・どうするか・・・日本は陣形を【4-5-1】に変えてきた。前半のように闇雲にプレスをかけてくるのか、それとも自陣にブロックを引くのか。まずは出方を・・・)
セルヒオは日本の前線の動きをじっくりと窺うため、足裏でボールを転がしながらゆっくりと余裕を持ったドリブルを開始しようとした。
その時だった。
「!」(速いっ!?)
セルヒオが顔を上げた瞬間、彼の視界が唐突に暗く覆われた。目の前に巨大な圧迫感が迫っていたのだ。
後半開始のホイッスルと共にセンターサークル付近にいた蹴太が自身の持つ固有スキル【瞬間最高初速】を発動させ、一歩目からトップスピードに乗って一気にセルヒオとの距離を詰めてきた。
それはU15の代表戦はおろか、プロの試合でも滅多にお目にかかれないあまりにも規格外で理不尽なまでの凄まじい初速だった。
(な、なんだこのプレスの速さは!? さっきまでの日本のFWとは次元が違うぞ!)
まるで腹をすかせた猛獣が襲いかかってきたかのような錯覚。セルヒオは前を向いて悠長にパスを展開することを一瞬で諦め、冷や汗をかきながら慌てて右サイドバックのケシェルへとボールを逃がすようにパスをした。
(ちっ! さすがにキックオフ直後のフレッシュな状態じゃあ、簡単にはボールを取らせてくれないか)
蹴太は短く舌打ちをしながらもすぐにスピードを緩めてプレスバックし、相手のパスコースを限定する動きに移行した。無駄走りはしない。ストライカーとしての研ぎ澄まされた嗅覚が、今はまだその時ではないと告げていた。
蹴太の猛烈なプレスに急かされ、苦し紛れにボールを受け取ったケシェルは日本の陣形が完全に整う前に、右足で前線へ向けてロングフィードのパスを大きく蹴り出した。
その美しい放物線を描くボールは日本の左サイドの広大なスペースへと向かい、逆サイドから絞ってきていたMFのジュリソンへとピタリと渡る。
そしてジュリソンが完璧なトラップでボールを足元に収め、前を向く。そこに対峙するのは、日本の右サイドバック、青星と中央から鋭いカバーに走ってきたボランチの国近だった。
「青星! サイドの縦の突破は任せた! 中に切り込んでくるコースは俺が警戒して完全に潰す!」
国近の的確で鋭い指示がスタジアムの割れんばかりの大歓声の中でも青星の耳にクリアに届く。
「あいよ! 任されたで!」
青星は合宿で鍛え直した体幹を極限まで低く落とし、ジュリソンの足元と肩の動きを食い入るようによく見る。
前半から見せつけられているしなやかなフェイント。それに騙されないよう、ボールの置き所だけを集中して見極める。
(ここやっ!)
ジュリソンが縦にボールを押し出そうとほんのわずかに重心を移動させた一瞬の隙。青星は強靭な下半身のバネを使って鋭く踏み込み、ジュリソンとボールの間に自分の身体を強引にねじ込むようにして割って入った。
(ちっ! この日本人、前半よりもしつこいな! それになんだこの執念深いキープ力は!)
ジュリソンはボールと自分の間に割って入った青星を力任せに弾き飛ばそうと、強烈なショルダーチャージを仕掛ける。
ドンッ!という骨が軋むような重い衝撃が走り、青星の身体がグラリと傾く。だが青星は倒れなかった。
(負けへんで! 俺は俺のサッカー人生かかっとんのや! こんなところで簡単に倒れてたまるかい!)
青星は痛みに顔を歪めながらも歯を食いしばってピッチの芝生にスパイクを食い込ませ、必死にボールをキープし続けた。エリートの肩書きを捨てた男のなりふり構わぬ純粋な執念だった。
「青星!」
国近がジュリソンの背後にできたフリーのスペースへ走り込みながら、声を出してボールを要求する。
「そいやぁっ!」
青星はジュリソンのプレッシャーに倒れ込みそうになりながらも、最後の力で左斜め前に飛び出した国近へ執念のグラウンダーのパスを通した。
「よし!」
国近は完璧なタイミングでそのボールを受け取った。
前方を見るとコスタリカのワントップ、アンソニーが猛烈な勢いでプレスをかけに距離を詰めてくるのが見えた。しかし国近の心境は前半の焦りに満ちたそれとは全く違っていた。
なぜなら彼の視線の先には信じるべき【最強の矛】が、すでに獲物を狙う準備を整えていたからだ。
国近は全く慌てなかった。アンソニーが完全に間合いを詰めるよりも早く、彼は自慢の右足を極限までコンパクトに振り抜いた。低い弾道で矢のようにまっすぐ、そして芝生の上を滑るように正確に飛んでいくパス。
そのボールは、コスタリカの分厚い中盤のブロックのわずかな隙間をすり抜け、センターサークル付近の中央に位置取っていた蹴太の足元へと一直線に向かっていく。
(さぁいけ! 日本のエース! あの鬱陶しい壁をお前の力でぶち破れ!)
(・・・分かった)
言葉で伝えなくても蹴太はボールのスピード、回転、そしてパスの軌道だけで、国近の強い意図と絶対的な信頼を正確に理解した。
蹴太は自身に向かってくる強烈な縦パスに対し、固有スキル【吸着トラップ】を発動させた。
まるでスパイクの裏に強力な磁石が仕込まれているかのように、激しい回転のかかったボールが無音でピタリと足元に収まる。そしてそのままの勢いで【ワンタッチ】のスキルを連続で発動させ、一切のタメを作ることなく滑らかに反転してコスタリカのゴールへと前を向いた。
(させるかよ、日本人!)
そこにコスタリカのセンターバックであるオスカルが猛然と蹴太を潰しにかかってきた。
身長はヤンセン・大河と同程度の190センチ近くあり、筋骨隆々。前半、鷲谷を紙切れのように吹き飛ばし、日本の攻撃をことごとく跳ね返してきた、文字通りの【物理的な絶望の壁】が凄まじい威圧感を放ちながら蹴太の前に立ちふさがる。
(さっきのちびのように骨の髄までぶっ潰して、俺たちとの世界の違いを教えてやるよ!)
オスカルは蹴太の身体めがけて容赦のないショルダーチャージを仕掛けようとした。
(ほら! 木っ端微塵にぶっ飛べや、ちびっ子!)
オスカルが全体重を乗せ、蹴太の身体を粉砕しようと力強く芝を踏み込んだ、まさにその瞬間だった。
目の前に確実に存在していたはずの背番号9の姿が、一瞬にして彼の視界からフッと【消え去った】のだ。
(・・・は?)
オスカルは何が起きたのか全く理解できず、完全に間抜けな顔を晒した。強烈な破壊力を持っていたはずの彼のショルダーチャージはむなしく空気を叩き、空間を殴りつけただけだった。
蹴太はオスカルが全体重をかけて突っ込んでくるタイミングをコンマ一秒の狂いもなく見切り、固有スキル【瞬間最高初速】を発動させていた。
そして合宿の夜、制限が撤廃されて世界基準へと跳ね上がった【スピード】の圧倒的な数値を使い、オスカルの巨体が反応すらできない異常な初速でいとも簡単に彼の横をすり抜けた。
オスカルにとってはまるで蹴太が瞬間移動したかのように見えた。蹴太はそのままのトップスピードを一切殺すことなく、ドリブルでペナルティエリアの中央へと鋭く切り込んでいく。
「ファン! 来い! 止めろ!」
コスタリカのキャプテンであり、5バックの統率者であるフランシスコはオスカルが抜かれたことに驚愕しながらも、もう一人のセンターバックであるファンへ大声で叫んだ。
オスカルをあっさりと抜き去った蹴太の前に、オスカルと比べても遜色ない屈強な2枚の壁が重なるようにして絶望のブロックを形成する。
(見た目はヤンセンレベルでいかついけど・・・実力も、動きのキレも、ヤンセンには遠く及ばないな)
恐ろしいほどに研ぎ澄まされた極限の集中力の中、蹴太の視界では相手の動きがスローモーションのように感じられていた。
蹴太は猛スピードで突っ込んできたフランシスコの股の下を狙って右足の足裏で軽く、そして繊細にボールを転がした。
ボールはフランシスコが脚を閉じるよりも早く、その股の間を綺麗に抜ける。それと同時に蹴太自身もスピードを全く緩めることなく、フランシスコ側からまるでフィギュアスケートの選手のように、流れるような美しいターンで華麗に身体を躱し、裏のスペースで再びボールを回収した。
フランシスコはそのあまりにも速く、滑らかで、人間離れした動きに完全に視線を奪われ、全く反応できずにただ棒立ちになることしかできなかった。
これで3人。
蹴太は前半45分間、日本代表をまたたく間に弾き返し、全く歯が立たなかった強固なコスタリカの5バックをたった一人の力で完全に破壊し、ペナルティエリアの奥深くへ侵入した。
(クソッ! とれっ!)
しかし最後の砦が残っていた。万が一にもディフェンスラインが突破されることを想定し、ポジションを極限まで前に上げていたコスタリカのGKヘイセル。
ヘイセルは蹴太の足元からボールを強奪しようと、巨体を投げ出して猛烈な勢いでスライディングを仕掛けてきた。だが蹴太は全く慌てなかった。
ヘイセルの長い腕がボールに触れるほんの一瞬前。蹴太はとっさに右足の甲にボールを優しく乗せ、そのまま足首の滑らかなスナップだけでふわりとボールをすくい上げた。
「!?」
ヘイセルの驚愕に見開かれた目の真上をボールが美しい弧を描いて飛び越えていく。
蹴太はスライディングしてきたヘイセルの巨体を陸上競技のハードルを越えるようにすんなりとジャンプして躱すと、着地と同時に完全に無人となったゴールへ向かって、すくい上げたボールをそのままの勢いで歩いて押し込むようにシュートを叩き込んだ。
バサァッ!
後半開始13分。
【U15日本代表 1―0 U15コスタリカ代表】
前半45分間、日本のエリートたちがどれだけパスを回しても決して傷一つ付けることのできなかったコスタリカの分厚い壁が、神野蹴太という一人の【強大な矛】の理不尽な個の力によって、あまりにもあっさりと粉々に砕け散った瞬間だった。
■■
「ゴォォォォォォォォォォォォル!!!!!!!!」
テレビのスピーカーが割れんばかりの、実況アナウンサーの今日一番の絶叫が全国のお茶の間に響き渡る。
「神野蹴太! なんという男だ! 後半から途中出場したばかりの無名の背番号9が、コスタリカの誇る屈強なセンターバック3人を圧倒的なスピードと神がかったテクニックであっさりと抜き去った! そして最後は、前へ飛び出してきたGKを鮮やかなループシュートで躱し、無人のゴールへそのまま流し込んだ! アメイジング! 信じられない、スーパーゴールです!」
アナウンサーの絶叫と同様に、スタジアムの6万人の観客も一瞬、何が起きたのか理解できずに完全に静まり返った後。
ドワァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!
という、スタジアム全体が根底から揺れるような、地鳴りのような凄まじい大歓声を爆発させた。
「おい、何だよあれ! すげぇな!」
「あんなディフェンスの抜き方、漫画かよ!」
「マジで、動きが流れるようだったぜ!!」
「神野! 神野! 神野!」
スタジアムは日本のホームである。その大歓声はあっという間に熱狂的な【神野コール】へと変わった。そして、テレビの前でその奇跡のゴールの一部始終を食い入るように見ていた健一もソファの上に立ち上がり、顔を真っ赤にして叫んだ!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 蹴太ぁぁぁぁぁぁぁぁっ! やった! やりやがったあいつ!!」
健一は両手を天井に突き上げ、狂喜乱舞してジャンプを繰り返している。
「マジかよあいつ・・・さらに化け物みたいにすごくなってんじゃん・・・」
春樹は健一の騒ぎっぷりに若干引きながらも、テレビに映るリプレイ映像を見て信じられないものを見たというように呆然と呟いた。
「・・・そうだね」
蒼空斗は興奮する健一や春樹とは対照的に、ソファに深く腰掛けたまま静かに、しかし心からの笑みを浮かべていた。
(本当に、さらに一段階成長したんだね、蹴太)
蒼空斗はテレビの向こう側でチームメイトたちにもみくちゃにされながらも、どこか涼しい顔をしている友人の姿を見た。
そこには純粋な友としての嬉しさと、同じサッカー選手として彼と同じピッチに自分が立っていないことへの強烈な【悔しさ】が混在した表情があった。
(待っててよ、蹴太。次は俺も必ずそこに行く!)
蒼空斗はタブレット端末を握る手に、ギュッと強い力を込めた。
そして蒼空斗たちが歓喜に沸いている頃、スタジアムの関係者席では柳野もまた、蹴太のスーパーゴールに思わず立ち上がり、両拳を強く握りしめていた。
「・・・やりました! やりましたよ柳野さん! でもなんか神野君・・・あの春季大会の時よりも、もっとスピードも技術も上がって、さらにすごくなってません!?」
氷川が興奮冷めやらぬ様子で、信じられないものを見たという顔で柳野に言った。
「そうだな」
柳野はゆっくりと席に座り直し、再び腕を組んだ。
「だがそれでいい。どんなに高く、分厚い世界の壁であっても、たった一つの亀裂から崩れてしまえばそれまでだ・・・日本はやっと【世界の壁を壊せる本物の矛】を手に入れたんだ」
柳野は淡々と冷静な口調で語ったが、その言葉の節々には日本のサッカー界の未来を背負う者としての隠しきれない熱と興奮が深く込められていた。そしてピッチ上でも日本代表の選手たちが蹴太のスーパーゴールに歓喜を爆発させていた。
「しゃぁぁぁ! さっすが蹴太や! 俺の見込んだ男やで!」
先制点の起点となった青星が満面の笑みで蹴太に飛びつき、抱きつく。
「うるせぇ。まだ1点だ。喜ぶのは早いぞ」
蹴太は鬱陶しそうに青星を引き剥がしながらも、まんざらでもない顔をした。
「ナイスシュート」
国近が走り寄ってきて蹴太とハイタッチを交わす。
「ナイスパス」
蹴太も完璧な楔を入れてくれた国近に短く感謝を返した。
日本代表がようやくこじ開けたゴールに歓喜の輪を作っていると、ディフェンスラインからヤンセンが駆け上がってきて、パンパンと大きく手を叩いて全員の注目を集めた。
「はいはい! 喜ぶのはそこまでだ! まだ試合中だぞ!」
ヤンセンの鋭い声に歓喜に沸いていた選手たちの表情が一気に引き締まる。
「こうなったら1点を追うコスタリカは引きこもりをやめて確実に前へ攻めに転じてくるぞ! サッカーで一番気をつけなきゃいけないのは得点直後の失点だ! 浮かれるな! 気を引き締めていけ!」
「「「「「おう!」」」」」
ヤンセンのキャプテンとしての言葉で日本代表のイレブンは再び集中力を取り戻し、それぞれのポジションへと走って戻っていった。
一方コスタリカの陣地では、蹴太に最初の生贄として突破されたセンターバックのオスカルが、何が起こったか全く理解できないというような呆然とした表情で、自陣のペナルティエリアに立ち尽くしていた。
(何が・・・起こった・・・)
オスカルの脳裏には先ほどまで目の前にいたはずの日本の背番号9が、一瞬で消えたあの光景が焼き付いて離れなかった。
「・・・オスカル!」
キャプテンのフランシスコが厳しい声で彼を呼ぶ。
「あ、あぁ・・・」
「しっかりしろ! 一旦、ベンチメンバーの交代の準備が整うまではこのメンバーのままラインを上げて前へ攻める。いいな?」
「わかった・・・」
オスカルはフランシスコの指示に上の空で頷き、リスタートの準備のためにポジションへ向かった。しか、その巨大な背中には、彼自身も気づいていないほどのべっとりとした嫌な冷や汗が流れていた。




