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50.U15日本代表VSU15コスタリカ戦―――3

「おぉぉーーっと! ここで主審の長いホイッスルが鳴り響きました! 前半終了です! 現在スコアは0―0! 両者一歩も譲らぬ、息を呑むような一進一退の攻防が続いております!」


テレビのスピーカーから実況アナウンサーの興奮冷めやらぬ声が、蒼空斗の自宅リビングに鳴り響いた。


画面は激闘を終えてピッチからロッカールームへと引き上げていく両チームの選手たちの汗だくの姿を映し出した後、すぐにスタンドを埋め尽くす6万人の大観衆へと切り替わる。サムライブルーのユニフォームを身にまとった日本のサポーターたちは、熱狂の渦の中で大きなため息を漏らしたり、メガホンを激しく叩いて選手たちを鼓舞したりと、画面越しからでも火傷しそうなほどの異様な熱気を放っていた。


「終了間際、ヤンセン・大河選手がコスタリカの強力なFW、アンソニー選手の決定的とも言えるシュートを、見事に身体を投げ出したブロックで防ぎ切りました! まさに日本の絶対的な壁! これは間違いなく、前半の最大のハイライトになりそうです!」


テレビ画面ではハーフタイムのインターバルを利用して、前半45分間のハイライト映像がスローモーションで繰り返し流されていた。


ヤンセンの決死のヘディングクリア。大童子清隆の右手一本での神がかり的な横っ飛びセーブ。日本のディフェンス陣の泥臭い奮闘が映し出される中、それを見た健一はソファの上で一人、クッションを抱え込みながら大声で騒いでいた。


「あぁくそっ! なんだよあのコスタリカのディフェンダー! 絶対に今のはファウルだろ!」


健一が怒り心頭で指差した画面の先。そこには前半、コスタリカの巨大なセンターバックであるキャプテンのオスカルが、日本のツートップの一角である小柄な鷲谷へ向けて、まるでダンプカーのような猛烈なチャージを行い、鷲谷をボールごと芝生に無惨に弾き飛ばしているシーンがリプレイで映し出されていた。


「あれだけガッツリ身体ぶつけて吹き飛ばしといてノーファウル!? ふざけんなよ! 審判完全に目ぇついてねぇだろ!」


健一が鼻息を荒くしてテレビの主審に向かって文句を言う。しかし隣で冷静に画面を見つめていた蒼空斗が小さく首を振った。


「いや健一。悔しいけど、あれは世界基準から見れば【セーフ】の範囲内だと思うよ」


「・・・マジかよ。あんなの日本じゃ一発でイエローカードだぜ?」


健一が信じられないという顔で蒼空斗を見る。


「だからだよ。日本の中学生年代の育成環境じゃ、あそこまで激しいコンタクトは【危険なプレー】として徹底的に排除され、大切に保護されてきた。でも世界に出ればボールにアタックしながらの肉弾戦は【正当なチャージ】として認められる。あのコスタリカの選手はそのファウルにならないギリギリのラインを完璧に理解して、大人のような自分のフィジカルを最大限に武器にしているんだ」


蒼空斗の冷静な分析に、健一は「ぐぬぬ」と唸り声を上げた。しかしそれでも納得がいかないとばかりにさらに不満の声を上げる。


「でもさ! あの三國とかいうボランチが相手のMFにチャージした時は、あっさりとファウル取られてたじゃねぇか! あれだって鷲谷がやられたのに比べれば全然マイルドだったぞ!?」


「あれはたぶん、【マリーシア】だね」


今度は腕を組んで黙って画面を見ていた春樹が静かに口を開いた。


「マリーシア?」


「あぁ。ずる賢さとか、上手くファウルをもらうための技術のことだよ。日本の三國選手がチャージに来た瞬間、相手の選手は自ら身体の力を抜き、わざと派手に大げさに倒れ込んだんだ。主審の死角を完璧に突くようにね。綺麗に真っ直ぐ、ルール通りに育てられた日本の選手はそういう狡猾な【世界基準の駆け引き】にまだ慣れていないんだよ」


春樹もまたコスタリカの選手が見せたマリーシアという技術に一定の理解を示しつつ、強い警戒感を滲ませていた。


世界で勝つということはただボールを上手く蹴れればいいわけではない。あの手この手で自分たちに有利な状況を作り出す、泥臭く強かな精神力が求められるのだ。


そんな中、蒼空斗は手元のタブレット端末を素早く操作し、大会の公式サイトにアップロードされたばかりの前半のスタッツを確認していた。そしてそこに表示されたある数字を見て、思わず顔をしかめた。


「・・・でも、このデータを見ると日本は結構まずい状況かもしれないな」


「どういうことだ? 蒼空斗?」


健一が身を乗り出す。


「ボールのポゼッション率は日本が72%で圧倒している。パスの成功数も日本のほうが倍以上多い。でも・・・」


蒼空斗はタブレットの画面を健一たちに向けた。


「コスタリカは前半戦でシュートを2本撃っている。どちらも決定機だった。対して日本はシュート数【0本】だ。ペナルティエリア内に侵入した回数も極端に少ない。つまり、ボールを持たされているだけで、明確に攻撃を完封されている証拠だよ」


「シュート、ゼロ・・・」


春樹がその絶望的な数字に絶句する。


「ボールはずっとこっちが持っていて優勢に見えたのに・・・悔しいわね」


明里もテレビの画面に映るハーフタイムの静かなピッチを見つめながら、ひどく悔しそうな表情を浮かべた。


日本の中盤のパス回しは流れるように美しかった。だがその美しいパスワークはコスタリカのペナルティエリアの前で、まるで分厚いコンクリートの壁にぶつかったかのように全て弾き返されてしまっている。


「くそぉっ!」


健一が自分の太ももを悔しげに叩いた。


「これじゃ、いつかカウンター一発でやられちまう! 頼むぞ・・・蹴太! 早く出てきてくれ!」


健一は祈るように、自分の親友の名を口にした。そしてそれは、隣に座る蒼空斗も、春樹も、明里も全く同じ気持ちであった。


この完全に手詰まりとなった停滞した状況。それを個の力で理不尽に打破できる可能性があるのは、自分達が知る【最強の矛】である、あのふてぶてしい男しかいないと心底信じていた。


■■


冷たい空気が漂う、スタジアムの奥深くにあるU―15日本代表のロッカールーム。


「スコアの上ではドローだが・・・実質的な内容では完全に負けているな」


久森監督の氷のように冷たく抑揚のない声が室内に重く響き渡った。


前半の45分間を死に物狂いで走り抜き、スポーツドリンクを飲みながら息を整えていた選手たちの動きがピタリと止まる。だが、久森のその言葉に対してキャプテンのヤンセンや国近をはじめ、誰一人として不満げな顔をしたり、反論を見せたりする者はいなかった。


彼ら自身がピッチの上でその残酷な事実を一番肌で感じていたからだ。


久森は重い沈黙が流れるロッカールームの中央をゆっくりと歩きながら、鋭い視線で選手たちの顔を一人一人覗き込んでいった。


「いいか? これが【世界】だ」


久森の言葉がエリートたちの胸に深々と突き刺さる。


「三國が引っかかったような、ずる賢くファウルをもらうマリーシア。鷲谷が吹き飛ばされたような、日本では確実にファウルになる強烈なチャージ。そして自分たちの戦術を信じ、45分間一切の焦りを見せずに引きこもってカウンターの牙を研ぐ忍耐力・・・そのどれもが世界では当たり前にやっていることだ」


久森はホワイトボードの前に立ち、ピッチに見立てた盤面を指で強く弾いた。


「お前たちが国内の温室で【天才】とチヤホヤされてきた小綺麗な技術など、あの分厚いフィジカルの壁と世界の狡猾さの前ではなんの意味も持たない。シュート0本という結果がすべてを物語っている」


そこまで淡々と残酷な事実を告げた後、久森はふっと声のトーンを落とし、選手たちに静かに問いかけた。


「・・・どうだ? 世界との壁の厚さに心が折れるか?」


一瞬の静寂。しかしその問いを聞いたメンバーの顔に悲壮感は微塵もなかった。


国近は悔しさに奥歯を噛み締め、ヤンセンはさらなる闘志を燃やして笑みを浮かべ、青星は汗だらけの顔でホワイトボードを睨みつけている。


誰も下を向いてはいなかった。あの地獄のような2週間の合宿で、彼らの薄っぺらいプライドはとっくにへし折られ、代わりに【絶対に諦めない】という泥臭い【弱者のメンタル】が骨の髄まで叩き込まれていたのだ。


「・・・よし」


久森は選手たちのその揺るぎない眼差しを確認すると、わずかに口角を上げ、力強く言った。


「なら、ここから一気に攻めに転じるぞ。戦術を変更する」


久森の言葉に選手たちの間にピリッとした新しい緊張感が走る。


「神野! 九条!」


名前を呼ばれた二人がベンチから勢いよく立ち上がった。

「「はい!」」


「本来ならお前たち二人は次の難敵であるイタリア戦のジョーカーとして取っておきたかった。だが・・・ここでコスタリカに勝ち点3を落とすわけにも行かない」


久森はホワイトボードのマグネットを素早く動かし、陣形を大胆に組み替えた。


「全力で相手の息の根を止め、仕留めてこい」


久森は後半開始からのメンバー交代を決断した。


前線で身体を張り続けたツートップ、鷲谷と武雄を下げる。そしてトップ下の位置に圧倒的な戦術眼とパスセンスを持つ九条隼人を配置。そしてその前方のワントップの位置に神野蹴太をただ一人、強烈な楔として打ち込む。


合宿の最初の紅白戦で両チームが採用し、ワントップに蹴太を置いた紅チームが圧倒的な破壊力を見せつけた【4-5-1】のシステムへの完全な移行だった。


「いいか? 相手は必ず前半と同じように引きこもってくる。だが神野。お前なら必ずあの5バックの間に風穴が開く。合宿で俺たちに見せた圧倒的な力を見せてやれ」


久森はホワイトボードから視線を外し、選手たちを力強く見回した。


「ここを落とすと俺たちにもう【次】はないと思え。引き分け狙いの安全なプレーは一切不要だ。全員でリスクを冒し、全力で相手を仕留めろ!」


「「「「「はい!!!」」」」」


ロッカールームが揺れるほどの決死の覚悟を込めた咆哮が響き渡った。


選手たちが後半に向けて円陣を組み直す中、久森は一人でベンチに座ってスパイクの紐をキツく結び直している蹴太の前に立った。


「神野」


「はい」


蹴太が静かに顔を上げる。その目には過剰な気負いも、世界に対する恐怖もない。ただ絶対的な自信だけが宿っていた。


「お前のその理不尽な【個】の存在を世界に示してこい。完膚なきまでにぶち壊せ」


「うす」


蹴太が短く、しかし力強く応える。


すると久森の後ろから、交代を告げられて前半で退くことになった鷲谷が歩み寄ってきた。彼のユニフォームは泥だらけで、激しいチャージを受けた肩や腰を少し庇うようにしている。そしてその顔には自分の力不足に対する猛烈な悔しさが滲み出ていた。


「・・・神野!」


鷲谷が絞り出すような声で蹴太を呼んだ。


「・・・」


蹴太は無言で鷲谷の熱を帯びた目を見る。


「あのオスカルってでかいセンターバック・・・めちゃくちゃ硬くて、重かった。俺じゃ全く歯が立たなかった・・・」


鷲谷は自分の不甲斐なさに震える唇を噛み締め、そして決意を持った目で蹴太を真っ直ぐに見た。


「俺の仇を討ってくれ! あいつらをコテンパンにしてやってくれ!」


エリートとしてのプライドを完全に捨て、チームの勝利のために、そして己の雪辱を無名のライバルに託した。


蹴太はそんな鷲谷の姿を見て、ふっと口角を上げた。そしてすれ違いざまに鷲谷の泥だらけの肩をポンッと軽く叩いた。


「・・・任せておけ。倍にして返してやるよ」


日本代表は短いミーティングを終え、燃え上がるような闘志を胸に秘めて、再びピッチへと続くトンネルへと向かって歩き出した。


■■


一方スタジアムのメインスタンド上層階。


ガラス張りのVIPルームが並ぶ関係者席の最後列で、日本サッカー協会のナショナルダイレクターである柳野、そのサポートスタッフである氷川が深刻な顔つきでピッチを見下ろしていた。


「柳野さん。前半を終えて、どう思われますか?」


氷川が手元のタブレットを見ながら、不安げな声で尋ねた。


「スコアボードに表示されているのは0―0のドローだ。だが・・・実質的な内容では完全に日本が負けているな」


柳野は腕を組み、冷徹な目でピッチの芝生を睨みつけたまま応えた。


「ポゼッション率が高くても、それはコスタリカが安全な外側でボールを持たせているだけだ。最後のペナルティエリア内には完全に鍵をかけられている。このまま相手のペースに付き合って意味のないパスを回し続ければ、後半、選手の疲労がピークに達した時間帯のワンミスを突かれ、強烈なカウンターで確実に1失点はするだろうな」


柳野の容赦ない分析に氷川の顔が青ざめる。


「で、ですが! 事前のデータでは、コスタリカは最新のランキングで日本よりも下のはずです! 格下相手にこれほど苦戦するなんて・・・」


氷川の言葉に柳野は小さく鼻で笑った。


「氷川。お前はまだ、世界のサッカー界の真実を分かっていないな。そのランキングはあくまでも国を代表する大人の【A代表】の総合的なポイントだ。それがそのままU―15という育成年代の実力に当てはまるとは到底言えない」


柳野は氷川からタブレットをひったくるように受け取ると、コスタリカのページを開いた。


「コスタリカのような国々は子供の頃からストリートで揉まれ、文字通り【生きるため】にサッカーをしているような連中ばかりだ。身体の完成も早く、15歳にしてすでに大人のようなフィジカルと、マリーシアと呼ばれる勝つための狡猾さを身につけている。綺麗に整備された人工芝のグラウンドで、戦術ばかりを教え込まれてきた日本の温室育ちのエリートたちが初見で簡単に勝てる相手ではないんだよ」


「そ、それは・・・つまり、日本はこの初戦で負けるということですか・・・」


氷川の声が震える。この自国開催のビッグトーナメントで初戦敗退となれば、JSAが受けるバッシングは計り知れない。


「このままの戦い方を続けるのであれば、な」


柳野は無表情のまま答えた。


「そんな・・・何か打開策はないんですか!?」


「氷川。落ち着け。俺は【このままでは】と言ったんだ。まだ勝負の行方はわからん」


柳野はそう言うと手元のタブレット端末を操作し、一人の選手のデータ画面を呼び出した。


そこに表示されたのは、日本代表の背番号9。エースストライカーの称号であるその番号を背負う、Jリーグの下部組織にも所属していない、公立中学校の部活動上がりの無名の選手である、神野蹴太の顔写真だった。


(さぁて、神野。この絶望的な停滞した空気をお前の【個】の力でぶち壊せるか?)


柳野は眼下に広がるピッチの入り口を見つめた。


(お前は日本を救えるか? 神野蹴太)


■■


スタジアムに、後半開始を知らせるアナウンスが響き渡った。


大歓声に包まれる中、ピッチへの入場口からU―15日本代表のイレブンが次々と姿を現す。そしてスタジアムの巨大な電光掲示板に日本代表の後半開始からのメンバー交代が大きく表示された。


【OUT FW 武雄颯太 背番号13】

【OUT FW 鷲谷蒼 背番号12】

【IN  FW 神野蹴太 背番号9】

【IN  MF 九条隼人 背番号11】


「お、おい! 見ろよ! 蹴太がでてきたぞ!」


テレビの前で健一がソファから飛び上がって歓喜の声を上げた。


(ここで最大のジョーカーを切ってきたか。久森監督もこのままじゃジリ貧だと判断したんだな)


蒼空斗は画面に映し出された蹴太の姿を見て、期待と安堵の入り交じった笑みを浮かべた。


「蹴太・・・」


「神野君・・・」


春樹と明里は友がとうとう世界という大舞台のピッチに立つことに嬉しさと興奮を感じながらも、やはり相手の怪物たちの恐ろしさを前半で目の当たりにしているだけに、不安を隠せない表情で両手を握りしめていた。


しかしそんな蹴太はピッチのタッチライン際に立ち、夜空を見上げて大きく、そして深く深呼吸をした。新鮮な酸素が細胞の隅々まで行き渡るのを感じる。


「何? 緊張してんのか? 神野」


隣に並んだ九条隼人が少し驚いたような顔で声をかけてきた。


「お前みたいな図太い神経のやつには大舞台の緊張なんて縁遠いものだと思ったぜ!」


九条がニヤリと笑う。


「・・・そうかもな」


蹴太は首を軽く回して筋肉を解しながら静かに答えた。


「・・・」


九条が蹴太のその普段とは違う、研ぎ澄まされた真剣な横顔を黙って見る。


「世界中に俺という【個】の名が轟くんだぜ? これからの45分でな」


蹴太は自分の両手を見つめ、ギュッと拳を握りしめた。


「・・・血が沸騰しそうで武者震いが止まらねぇよ。緊張しないほうがどうかしてるだろ?」


蹴太が凶悪なまでのストライカーの笑みを浮かべて九条を振り返った。その瞳の奥には、圧倒的な自信と捕食者のような闘志が渦巻いていた。


「・・・ふっ! そうこなくっちゃ、面白くねぇな!」


九条もまた蹴太の放つ強烈なオーラに当てられ、不敵な笑みを返した。そんな二人は主審の合図と共に、同時にピッチへと足を踏み入れた。


コスタリカ戦の後半45分。ついに神野蹴太が日本代表のピッチへとその両足を降ろした。


■■


コスタリカ代表は前半の戦い方に確かな手応えを感じていたのか、陣形を前半同様の【5-4-1】のまま維持し、メンバーの交代も一切行わなかった。


自陣に強固なブロックを引き、日本が焦ってボールを失った瞬間、一瞬のカウンターで喉元を食い破る。その徹底した作戦を後半も代えるつもりはなかった。


(なんだ? 前半で俺に吹き飛ばされたあのすばしっこいチビ、もう下がったのか。格好の獲物だったのによ)


コスタリカのディフェンダーであるセンターバック、オスカルは日本の選手交代を見て少しだけがっかりしたように鼻を鳴らした。


彼は新たに自分たちの目の前、ワントップの位置に入ってきた日本の背番号9を品定めするように上から下まで舐め回すように見た。


(身長は・・・180センチ後半くらいか。日本人してはデカい方だろうが、俺たちからすればごく普通のサイズだな。所詮は日本人のフィジカル。さっきのチビと同じように軽く身体をぶつけてひねり潰して、ボールを奪ってやるよ)


オスカルは自分よりもわずかに背の低い蹴太に対し、完全に見下した傲慢な視線を向けた。そして蹴太はそのオスカルの舐め腐った視線を、無表情のまま真っ直ぐに見返した。


(! なんだ・・・)


蹴太と視線が交差したその一瞬。オスカルの背筋にゾクリと氷を当てられたような、説明のつかない異様な寒気が走った。


(・・・気のせいか?)


オスカルはブルッと頭を振り、その不気味な直感を無理やり打ち消した。そして最終ラインの味方たちに声をかけ、守備ブロックの準備を整える。


一方の蹴太は自分から目を逸らしたオスカルを見て、不敵に笑った。


(そっちが俺を警戒せずに舐めてかかってくれるなら、これほど好都合なことはない・・・)


主審によりセンターサークルにボールがセットされる。静寂に包まれた国立競技場。


ピーーーーーッ!


後半45分のキックオフを告げる、主審の鋭いホイッスルが夜空に高らかに鳴り響いた。

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