第95話:七英雄
王都まであと半日。
百華繚乱は広大な草原地帯を進んでいた。
昨日見えた王都の城壁も、今日ははっきりと確認できる。
巨大な白亜の城。
それを囲む高い城壁。
王国最大の都市はもう目の前だった。
「もう少しですね」
カレンが微笑む。
「長かったな」
青真は大きく伸びをした。
王都へ着けば四神獣についても調べられる。
S級アーティファクトの情報もあるかもしれない。
そんな期待を抱いていた時だった。
「……待て」
闇風が突然足を止める。
全員の表情が変わった。
闇風は空を見上げたまま動かない。
「どうした?」
青真が尋ねる。
「空だ」
その一言で全員が上を見上げた。
そして。
「おい……」
青真が思わず声を漏らす。
遥か上空。
黒い影がいくつも旋回していた。
最初は鳥に見えた。
だが違う。
近付くにつれ、その姿が鮮明になる。
巨大な翼。
鋭い爪。
長い尾。
飛龍だった。
しかも一体ではない。
十体近い群れがこちらへ向かっている。
「飛龍!?」
アルナが驚く。
「なんでこんな場所に!」
「分からない!」
メグが杖を構える。
飛龍はB級魔物。
一体でも危険な相手だ。
それが群れで現れた。
普通の冒険者なら即座に逃げる。
だが。
飛龍達は既にこちらを発見していた。
甲高い咆哮が響く。
次の瞬間。
群れが一斉に急降下した。
「来るぞ!」
闇風が叫ぶ。
轟音と共に大地が震える。
一体目の飛龍が青真へ襲い掛かった。
巨大な爪が迫る。
青真は横へ飛びながら魔力弾を放つ。
圧縮された魔力が飛龍の顔面へ直撃した。
飛龍が大きく怯む。
「カレン!」
「はい!」
銀色の軌跡が閃いた。
カレンの剣が飛龍の首筋を切り裂く。
悲鳴。
巨体が地面へ倒れ込んだ。
まず一体。
「まだ来る!」
アルナが叫ぶ。
上空から二体目が迫る。
彼女は素早く矢を番えた。
「雷撃付与!」
矢が雷光を纏う。
放たれた一矢が飛龍の翼を貫いた。
飛龍は体勢を崩す。
そこへ。
「爆裂薬!」
メグの投げた薬瓶が炸裂した。
轟音と共に飛龍が吹き飛ぶ。
二体目撃破。
だが。
飛龍の群れはまだ残っていた。
「数が多い!」
カレンが舌打ちする。
闇風も飛龍の死角を狙っているが限界がある。
流石に十体近い群れは厳しい。
その時だった。
空気が変わった。
まるで世界そのものが静まり返ったようだった。
飛龍達の動きが止まる。
咆哮も消える。
本能的な恐怖。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
「……なんだ?」
青真が空を見上げる。
そこに一人の男がいた。
黒い外套。
腰には一本の剣。
ただそれだけ。
だが。
圧倒的だった。
近くの街道を進んでいた騎士達が騒ぎ始める。
「まさか……」
「七英雄だ!」
「本物か!?」
その声が聞こえた。
七英雄。
人類最強。
王国に七人しか存在しないS級。
男はゆっくりと剣を抜く。
ただそれだけ。
それだけなのに空気が震えた。
飛龍達が怯えたように後退する。
「下がれ」
静かな声だった。
だが全員の耳に届く。
次の瞬間。
閃光。
それしか見えなかった。
青真は目を見開く。
何も見えなかった。
何が起きたのか分からなかった。
気付けば。
空にいた飛龍達が全て斬り裂かれていた。
十体近い飛龍。
その全てが。
一撃だった。
沈黙が訪れる。
誰も言葉を発せない。
青真も。
カレンも。
闇風も。
メグも。
アルナも。
ただ呆然と立ち尽くしていた。
「……なんだよ今の」
青真が呟く。
戦闘ですらなかった。
ただ剣を振っただけ。
それだけで終わった。
男は何事もなかったように剣を納める。
そして王都の方向へ歩き出した。
残された人々は誰も動けない。
「今のが……」
アルナが呟く。
「S級……」
誰も否定できなかった。
青真は飛龍の死骸を見る。
自分達も二体倒した。
だが。
今見せられた力は別次元だった。
初めて理解する。
B級でもない。
A級でもない。
S級とは。
世界の頂点に立つ怪物達なのだと。
そして彼らは。
人類最強の背中を見つめながら、王都への最後の道を歩き始めた。
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