第94話:王都への道
王都への街道を進み始めてから数日。
百華繚乱の五人は森を抜け、広大な平原地帯へと足を踏み入れていた。
視界を遮る木々は少なく、遥か先まで石畳の街道が続いている。
行き交う人々の姿も増えていた。
「人が多くなってきたな」
青真が周囲を見渡しながら呟く。
「王都が近いからでしょうね」
カレンが答えた。
ここ数日は旅人や商隊と遭遇する機会が明らかに増えている。
冒険者だけではない。
商人や騎士らしき集団も同じ方向へ向かっていた。
「王都ってどれくらい大きいんだろうな」
青真が言う。
「地方都市とは比べ物にならないらしいわよ」
メグが肩を竦めた。
「王国中の人と物が集まる場所だしね」
「私も長く滞在したことはないけど、かなり大きかったよ」
アルナもそう付け加える。
異世界に来てから初めて訪れる王国最大の都市。
青真は少しだけ胸を躍らせていた。
そんな時だった。
前方から十台近い荷馬車を連ねた商隊が現れる。
護衛らしき冒険者達も周囲を警戒しながら歩いていた。
商隊の主らしき中年男性が五人を見るなり笑顔を浮かべる。
「おっ、若い冒険者達じゃないか」
「こんにちは」
カレンが礼儀正しく頭を下げた。
男は気さくに笑う。
「王都へ向かうのか?」
「ああ」
青真が答える。
「なら明日の昼頃には着くぞ」
その言葉に全員の表情が少し明るくなった。
ようやく旅の終わりが見えてきたのだ。
「王都ってどんな場所なんだ?」
青真が尋ねる。
すると商人は豪快に笑った。
「とにかく広い」
「それに人も多い」
「冒険者ギルド本部もあるしな」
護衛の冒険者が口を開く。
「色んな冒険者が集まるぞ」
「A級とかもいるのか?」
アルナが尋ねた。
すると冒険者は首を横に振る。
「いや、A級はそうそう見ない」
「王都でも有名人扱いだ」
その言葉に青真達は少し驚く。
「そんなに少ないのか」
「当然だろ」
冒険者は苦笑した。
「C級やB級がほとんどだ」
「A級なんて国家レベルの戦力だぞ」
確かに言われてみれば当然だった。
地方都市でさえA級など見かけなかったのだ。
「じゃあS級は?」
メグが興味本位で尋ねる。
その瞬間。
商人も冒険者達も顔を見合わせた。
そして笑う。
「会えるわけねぇ」
「だよな」
「人類最強だぞ?」
護衛の一人が肩を竦める。
「王国に七人しかいない」
「普通の人間は一生会わないまま終わる」
「そこまでか……」
青真が呟く。
S級。
人類最強。
話を聞けば聞くほど現実味が無くなる。
「でも昔一回だけ見たことがある」
年配の冒険者がぽつりと呟いた。
周囲の視線が集まる。
「十年以上前だがな」
「大型魔物の群れが街を襲った」
「騎士団も冒険者も手も足も出なかった」
彼は遠い目をした。
「そこへS級が現れてな」
「一撃だった」
誰も口を挟まない。
「何が起きたのか分からなかった」
「気付いた時には全部終わってた」
静かな声だった。
だがそれが逆に真実味を感じさせる。
「……会いたいような会いたくないような」
青真が苦笑する。
「私は会ってみたいですね」
カレンは少し目を輝かせた。
「剣士として興味があります」
「俺は遠慮しとく」
「絶対面倒事になる」
青真の言葉にメグが吹き出した。
「それは否定できないわね」
しばらく談笑した後、商隊は再び歩き始める。
「王都で会ったらよろしくな!」
「ああ!」
青真達も手を振り返した。
再び街道を歩きながら、青真は空を見上げる。
A級ですら有名人。
S級は伝説。
今の自分達がどこまで通用するのか。
少しだけ気になった。
夕方。
百華繚乱は小高い丘へ辿り着いた。
先頭を歩いていたアルナが足を止める。
「……見えた」
その一言で全員が顔を上げた。
そして。
言葉を失う。
遥か遠方。
夕日に照らされた巨大な城壁が地平線の向こうにそびえ立っていた。
城壁の内側には無数の建物。
中央には天へ届きそうなほど巨大な白亜の城。
圧倒的だった。
今まで訪れたどの街とも比べ物にならない。
まさに王国の中心。
王都。
「……でかいな」
青真が思わず呟く。
「これが王都か」
闇風も静かに見上げる。
「明日には着きますね」
カレンが微笑んだ。
青真は静かに頷く。
王都。
そこには四神獣の情報もあるだろう。
S級アーティファクトの手掛かりもあるかもしれない。
そして。
この世界の真実へ繋がる何かも。
百華繚乱は夕日に染まる王都を見つめながら歩き出した。
新たな舞台は、もう目の前まで迫っていた。
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