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第92話:神獣の伝承

魔物達の死骸が転がる森の中。青真達はようやく緊張を解いた。先ほどまでの激戦が嘘のように静かだった。


「助かったよ」


青真がアルナへ頭を下げる。あのまま戦闘が続いていれば無傷では済まなかっただろう。


「別に気にしなくていいわ」


アルナは肩を竦めた。弓を背負いながら周囲を見回す。


「私もあの群れに襲われるところだったし」


その言葉にメグが首を傾げる。


「一人で旅してるの?」


「そうよ」


アルナはあっさり答えた。


「王都へ向かってる途中」


「私達もだ」


青真が答える。


「じゃあ同じ方向ね」


アルナは少しだけ笑った。


五人は近くの開けた場所へ移動した。戦闘で疲労も溜まっている。今日はここで野営することになった。


焚き火が燃える。乾いた木がぱちぱちと音を立てていた。


「王都には何の用だ?」


闇風が尋ねる。


アルナは少し考えてから答えた。


「探し物」


短い返事だった。


「探し物?」


カレンが聞き返す。


アルナは頷く。


「S級アーティファクト」


その場の空気が少し変わった。


青真達は顔を見合わせる。聞いたことのない単語だった。


「アーティファクトにもランクがあるのか?」


青真が尋ねる。


「もちろんあるわ」


アルナは当然のように答えた。


「E級やD級なら珍しくない。でもS級は別格」


焚き火の光が彼女の横顔を照らす。


「世界に十数個しか存在しないって言われてる」


「十数個!?」


メグが目を丸くした。


マジックバッグですら珍しい道具だった。それより遥か上の存在があるらしい。


「本当に存在するのか?」


闇風が静かに聞く。


アルナは少しだけ苦笑した。


「分からない」


意外な返答だった。


「私も見たことはないし」


「じゃあ伝説みたいなものか」


青真が言う。


「そうかもしれない」


アルナは焚き火を見つめた。


「でも昔から言い伝えられてるの」


「S級アーティファクトは世界の均衡を変える力を持つって」


風が木々を揺らした。


しばらく沈黙が流れる。


やがてカレンが尋ねた。


「それを探している理由は?」


アルナは少しだけ遠くを見る。


そして静かに答えた。


「四神獣」


聞き慣れない言葉だった。


「四神獣?」


青真が首を傾げる。


「知らないの?」


アルナが逆に驚いた顔をする。


当然だった。異世界人である青真達が知るはずもない。


アルナは小さく息を吐いた。


「世界各地に存在する四体の神獣よ」


「人類最強でも勝てるか分からない化け物達」


その声にはどこか畏怖が混じっていた。


「南を統べる朱炎雀」


「東を統べる青雷龍」


「北を統べる玄盾武」


「西を統べる白雷虎」


焚き火の音だけが静かに響く。


青真は思わず眉を上げた。


「……待て」


「ん?」


アルナが首を傾げる。


「その名前、日本の四神獣に似てないか?」


メグが目を瞬かせる。


「あっ、確かに」


「朱雀、青龍、玄武、白虎だよね」


「言われてみればそうだな」


闇風も腕を組む。


カレンも不思議そうな顔をした。


「偶然にしては似ていますね」


アルナは首を傾げた。


「日本?」


「俺達の故郷だ」


青真が答える。


「俺達の世界にも昔から似た名前の神獣が伝わってる」


アルナは少し驚いた表情を見せる。


「そんなことってあるのね」


「さあな」


青真は焚き火を見つめた。


ただの偶然か。


それとも何か意味があるのか。


今の彼には分からなかった。


だが妙な引っ掛かりだけは残っていた。


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