第91話:アルナ・フェルミア
森の奥から現れた魔物達が一斉に飛び出した。ハイウルフ、コボルトウォリアー、そして刃虎。十を超える魔物達が牙を剥きながら青真達へ迫る。
「来るぞ!」
闇風が叫ぶ。四人は背中合わせに武器を構えた。だが状況は最悪だった。先ほどの刃虎との戦闘で多少なりとも消耗している。しかも敵の数が多すぎた。
「右から三体!」
未来予知で見えた光景を青真が叫ぶ。カレンが即座に飛び出し、迫るハイウルフへ剣を振るう。銀色の斬撃が閃き、一体の首が宙を舞った。
だがその直後、別方向から刃虎が飛び掛かる。カレンは咄嗟に剣を構えて受け止めた。鋭い爪と剣がぶつかり火花が散る。
「まだ来ます!」
その横では闇風がコボルトウォリアー二体を相手取っていた。短剣を翻しながら攻撃を捌くが、防戦一方になりつつある。数が多すぎるのだ。
メグは杖を構えた。
「ファイアボルト!」
炎弾が一直線に飛ぶ。ハイウルフの胴体を焼き、吹き飛ばした。しかし別の個体がすぐに飛び込んでくる。
「キリがないわ!」
メグが叫ぶ。
青真も追尾弾を放つ。光弾は刃虎へ命中し、その身体を吹き飛ばした。だが敵の勢いは止まらない。未来予知に映る光景も次第に悪化していく。
まずい。
このままでは押し切られる。
青真が歯を食いしばった、その時だった。
ヒュン――。
風を裂く音が響く。
次の瞬間、刃虎の頭部に一本の矢が突き刺さった。刃虎は数歩よろめき、そのまま地面へ倒れる。
「……え?」
青真が目を見開く。
さらに二本、三本と矢が飛来した。ハイウルフの眉間を貫き、コボルトウォリアーの喉を射抜く。どの矢も寸分違わぬ精密さだった。
「誰だ!?」
闇風が周囲を見回す。
答えはすぐに現れた。
木の上だった。
太い枝の上に、一人の少女が立っている。栗色の長い髪を揺らしながら、美しい銀色の弓を構えていた。
少女は静かに矢を番える。
放つ。
また一体。
放つ。
さらに一体。
その一連の動作に一切の無駄がなかった。
まるで長年鍛え上げられた達人のようだった。
「すごい……」
思わず青真が呟く。
少女は枝から軽やかに飛び降りた。着地と同時に魔力を矢へ込める。光を纏った矢が放たれ、コボルトウォリアーを貫通した。
そのまま後方のハイウルフまで射抜く。
一射二殺。
青真達ですら思わず息を呑んだ。
やがて最後の魔物が倒れる。森の中に静寂が戻った。少女は弓を下ろし、小さく息を吐く。
「ふぅ……」
まるで散歩でも終えたような気楽さだった。
青真達は顔を見合わせる。全員が同じことを考えていた。
強い。
間違いなく強い。
少なくとも今まで出会った冒険者の中では最上位だ。
少女はそんな四人を見て首を傾げた。
「大丈夫?」
どこかのんびりした口調だった。
「いや、助かった」
青真が苦笑しながら答える。
少女は少しだけ笑った。
「なら良かった」
短い返事だった。
そして胸に手を当てる。
「私はアルナ」
翠色の瞳が青真達を見つめる。
「アルナ・フェルミア。旅の魔弓使いよ」
森を吹き抜ける風が五人の間を通り過ぎた。
この出会いが、後に魔王へ挑む仲間との出会いになることを、まだ誰も知らなかった。
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