第84話:ゴブリンの洞窟
ギルドの掲示板の前には多くの冒険者達が集まっていた。
壁一面に貼られた依頼書を見ながら、青真達も人混みの中へ入っていく。
薬草採取、荷物運搬、魔物討伐。
異世界らしい依頼がずらりと並んでいた。
「本当にゲームみたいだな」
青真が感心したように呟く。
リベラルワールドにもクエストは存在したが、こうして紙で貼り出されるとまた違った雰囲気がある。
異世界に来たという実感が少しずつ湧いていた。
「まずは情報収集だ」
闇風が依頼書を見ながら言う。
「戦力確認も兼ねるべきだな」
「慎重ですね」
カレンが苦笑した。
「でも戦闘はしたいわね」
メグが腕を組む。
「実際に魔物を見てみたいし」
青真もそれには同意だった。
そんな四人にエリナが一枚の依頼書を差し出した。
【F級ダンジョン調査依頼】
【ゴブリンの洞窟】
【報酬:銀貨八枚】
「初心者向けダンジョンです」
「スライム、ゴブリン、コボルトが主な出現魔物ですね」
「新人冒険者の登竜門とも呼ばれています」
四人は顔を見合わせた。
ダンジョン。
昨日説明を聞いたばかりの場所だ。
「決まりだな」
青真が笑う。
「異世界初ダンジョンだ」
街を出ると広大な草原が広がっていた。
風が吹き抜け、緑の波が揺れる。
遠くには森が見え、そのさらに先には岩山がそびえていた。
その中腹にぽっかりと口を開けた巨大な洞窟。
まるで大地そのものが口を開いているようだった。
「あれか」
青真が呟く。
「始まりの洞窟ですね」
カレンが頷いた。
入口には既に何組かの冒険者達が集まっていた。
初心者らしい者もいれば、慣れた様子の者もいる。
新人向けとはいえ本物のダンジョンだ。
四人は洞窟の中へ足を踏み入れた。
内部は思ったより広い。
壁には淡く光る鉱石が埋まっており、最低限の視界は確保されていた。
しばらく進むと前方で何かが蠢いた。
半透明の青い身体。
丸い形状。
「スライムだな」
青真が呟く。
スライムはこちらに気付くと跳ねるように接近してくる。
その瞬間、青真は右手を突き出した。
「マナショット」
青い光弾が一直線に飛ぶ。
直撃。
スライムは吹き飛ばされ、地面へ転がった。
「……ん?」
青真が首を傾げる。
「どうしたの?」
メグが聞く。
「いや、前の世界のスライムなら消し飛んでた」
倒れたスライムを見る。
身体は崩壊しているが、原型は残っていた。
「確かに少し硬いですね」
カレンも頷く。
「同じスライムでも強いのかもしれません」
異世界の魔物。
どうやら完全に同じではないらしい。
その時、闇風が僅かに目を細めた。
「来るぞ」
奥の通路から複数の足音が響いた。
現れたのは緑色の小柄な魔物。
棍棒や短剣を手に持っている。
ゴブリンだ。
しかも一体ではない。
五体。
「やっと戦えますね」
カレンが剣を抜く。
ゴブリン達が一斉に突撃してくる。
青真の未来予知が反応した。
「右から二体!」
意念伝達で仲間へ伝える。
カレンが飛び出した。
鋭い斬撃が一閃。
しかし。
「っ!?」
ゴブリンが半歩だけ身体をずらした。
完全には避けられなかったものの、首ではなく肩口へ斬撃が入る。
「速いですね」
カレンが驚く。
普通のゴブリンなら反応すらできなかったはずだ。
それでも実力差は圧倒的だった。
追撃の一撃でゴブリンは倒れる。
別の一体が横から襲いかかる。
だが次の瞬間、その背後に闇風が現れた。
短剣が首筋を切り裂く。
残る三体もメグの火球と青真のマナショットによって数を減らしていく。
最後の一体が逃げようとした瞬間。
「逃がしません」
カレンの剣が振り下ろされた。
戦闘終了。
「ゴブリンも少し強いな」
青真が呟く。
「敏捷性が高い」
闇風も短く答えた。
リベラルワールドのゴブリンより一段上。
そんな印象だった。
しかし安心したのも束の間だった。
「まだいる」
闇風が通路の奥を睨む。
次に現れたのは犬の頭を持つ魔物。
鋭い牙と爪を持っている。
コボルトだ。
三体同時に飛び出してくる。
ゴブリンより速い。
一体が青真へ飛び掛かった。
だが未来予知で既に見えていた。
身体を捻って回避。
すれ違いざまにマナショットを叩き込む。
コボルトが吹き飛んだ。
残る二体はカレンと闇風が迎撃する。
カレンの剣をコボルトが紙一重で避ける。
「こいつら……!」
だが避けた先には闇風がいた。
首筋へ短剣が突き刺さる。
最後の一体もメグの火球を受けて倒れ伏した。
「コボルトはかなり速いわね」
メグが息を吐く。
「でも勝てない相手じゃない」
青真はそう答えた。
確かに魔物は強い。
だが青真達もまた二つの世界を攻略してきた戦士達だ。
簡単に遅れを取ることはない。
その時だった。
洞窟のさらに奥から重い音が響く。
ドン。
ドン。
ドン。
先程までの魔物とは明らかに違う。
圧迫感のある足音。
四人は自然と顔を見合わせた。
「……ボスか?」
青真の言葉と共に、再び重い足音が洞窟内へ響き渡った。
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