第73話:四神傑
神権騎士団団長オーディンが消滅した玉座の間には静寂が広がっていた。
百華繚乱。
ルシウス。
全員が満身創痍だった。
第一部隊との激戦。
そして団長との死闘。
勝利したとはいえ、その代償は決して小さくない。
「終わった……のか?」
メグが息を切らしながら呟く。
しかし誰も答えない。
その視線は一人の男へ向けられていた。
上空。
崩壊した玉座の上。
黒いロングコートを揺らしながらアルゴが静かに立っている。
【解析進行率:88%】
赤いログだけが淡く光っていた。
「素晴らしいよ」
アルゴが拍手する。
「神権騎士団を壊滅させるとは」
「次はお前か」
カレンが剣を向ける。
アルゴは小さく笑った。
「いや」
その返答に全員が眉をひそめた。
「まだ私の番ではない」
「何?」
俺は思わず聞き返した。
アルゴはゆっくりと眼鏡を押し上げる。
「先程、団長が口にしただろう」
静寂。
そして。
アルゴは静かに告げた。
「私は四神傑第四席だ」
空気が変わった。
ルシウスが目を見開く。
「第四席……?」
「その通り」
アルゴは頷く。
「アイアングリッチ直属最高戦力」
「四神傑」
「その末席が私だ」
全員の顔色が変わる。
末席。
つまり。
第四席。
アルゴより上が三人いる。
「冗談だろ……」
メグが青ざめる。
第五師団長ですら規格外だった。
神権騎士団団長も怪物だった。
そのさらに上。
アルゴより強い存在が三人。
そんな話を信じろというのか。
「残念ながら事実だ」
アルゴが肩を竦める。
「そして君達は既にその一人と会うことになる」
その瞬間だった。
空間が裂けた。
バキバキバキバキッ――!!
空間そのものが砕ける。
俺は反射的に未来予知を発動した。
三秒後。
見えたのは。
巨大な拳。
「全員避けろ!!」
叫ぶ。
次の瞬間。
轟音。
空間の裂け目から飛び出した拳が玉座を粉砕した。
衝撃波だけで壁が吹き飛ぶ。
「なっ……!?」
カレンが目を見開く。
煙の向こう。
一人の男が立っていた。
身長二メートルを超える巨躯。
短く刈り込まれた銀髪。
全身を覆う黒い装甲。
そして何より。
圧倒的な存在感。
「遅かったじゃないか」
アルゴが言う。
男は鼻で笑った。
「面倒だったんだよ」
その声だけで空気が震える。
俺の未来予知が警鐘を鳴らした。
危険。
危険。
危険。
今までで最大級の警告。
第五師団長以上。
団長以上。
アルゴ以上。
本能が告げている。
勝てない。
「紹介しよう」
アルゴが静かに微笑む。
「四神傑第三席」
男がこちらを見る。
その瞬間。
全身に寒気が走った。
まるで巨大な猛獣と目が合ったような感覚。
「グラディウスだ」
男は笑った。
獰猛に。
楽しそうに。
「へぇ」
その視線が俺達を舐めるように動く。
「お前らが百華繚乱か」
闇風が一歩前へ出る。
カレンも剣を構える。
ルシウスも聖剣を握る。
だが。
グラディウスは気にも留めない。
まるで格下を見るような態度だった。
「つまんなそうだな」
「何だと?」
カレンが睨む。
しかしグラディウスは笑う。
「いや」
「思ったより弱そうだ」
空気が凍る。
挑発ではない。
本心だ。
本気でそう思っている。
だからこそ腹が立つ。
「面白い」
闇風が短剣を抜いた。
「試してみるか?」
「いいね」
グラディウスが拳を握る。
その瞬間。
床が砕けた。
ただ拳を握っただけ。
それだけで。
「待て」
アルゴが制止する。
グラディウスが不満そうに振り返った。
「なんだ」
「まだ早い」
アルゴは静かに答える。
【解析進行率:89%】
「百華繚乱の解析は未完了だ」
「だから?」
「今戦えば君が壊してしまう」
グラディウスは数秒黙る。
そして。
大きくため息を吐いた。
「つまらんな」
そう言いながら踵を返す。
空間の裂け目へ向かう。
「おい。」
闇風が叫ぶ。
「逃げるのか」
グラディウスが振り返った。
その顔には凶悪な笑みが浮かんでいる。
「勘違いするな」
「俺は逃げない」
そして。
拳を突き出した。
「次は殺す」
空間が閉じる。
グラディウスの姿が消える。
静寂。
だが誰も安堵できなかった。
アルゴが笑っていたからだ。
「ではまた会おう」
空間魔法陣が展開される。
「次はもっと面白い実験になる」
「待て!」
俺が叫ぶ。
しかし遅い。
アルゴの身体は光に包まれた。
消える直前。
彼は静かに言った。
「百華繚乱」
「君達はどこまで私の予測を超えられるかな」
光が弾ける。
アルゴも消えた。
残されたのは沈黙だけ。
そして。
四神傑。
その存在が想像以上の脅威であるという現実だった。
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