第7話:屋上の決戦、そして軍師の采配
「どけぇぇぇぇ!!」
轟音のような怒声が校舎内に響いた。
モニターの中でラグビー部員達が次々と吹き飛ばされる。
黒死蝶第七師団長。
身長二メートル近い巨体。
鍛え抜かれた筋肉。
そして異常なまでの耐久力。
まるでレイドボスだった。
「やっぱり来たか……」
俺は放送室で頭を抱える。
一般団員なら学園レイドでどうにかなった。
だが師団長クラスは別だ。
「WISTERIAさん」
闇風から通信が入る。
「第一防衛線突破されました」
「第二防衛線へ移行します」
「了解」
俺はモニターを切り替える。
剣道部が待機している廊下。
そこへ師団長が現れた。
「雑魚共が!」
竹刀が何本も振り下ろされる。
しかし。
「効かねぇなぁ!」
強引に突破。
剣道部員達が吹き飛ばされる。
それでも彼らは逃げなかった。
次々と前へ出る。
時間を稼ぐために。
仲間を守るために。
「……くそ」
俺は唇を噛んだ。
予想以上に頑張っている。
だからこそ負けさせたくない。
「保健委員!」
俺は放送マイクを握る。
『負傷者回収を優先してください!』
『戦闘継続は不要!』
『後退しながら治療!』
校内放送が響く。
すると保健委員達がすぐに動き始めた。
担架。
救急箱。
応急処置。
まるで本物のヒーラーだ。
その頃。
第七師団長は三階へ到達していた。
「どこだァ!」
「影の暗殺者ァ!」
「一条カレン!」
咆哮が響く。
だが誰もいない。
全て俺の誘導通り。
奴は今。
最短ルートだと思い込まされている。
そして。
その先は――屋上だ。
「よし」
俺は拳を握った。
「ボス誘導成功」
闇風が短く答える。
「屋上到達まで一分」
「予定通りです」
モニターを屋上へ切り替える。
そこには一条カレンが立っていた。
手には竹箒。
普通なら笑う光景だ。
だが。
一条の表情は真剣そのものだった。
屋上の扉が吹き飛ぶ。
第七師団長が現れる。
「ようやく見つけたぞ」
「一条カレン」
「待ちくたびれたわ」
カレンが静かに答える。
師団長が鼻で笑う。
「女一人で俺を止める気か?」
「十分よ」
その瞬間。
カレンが踏み込んだ。
速い。
俺ですら目で追うのがやっとだった。
竹箒が振り下ろされる。
師団長が腕で受ける。
だが。
「なっ……!?」
一歩下がった。
完全に押されている。
「剣道……?」
師団長の顔色が変わる。
カレンは淡々と言った。
「一条流剣術師範代、一条カレン」
再び激突。
屋上に乾いた音が響く。
しかし。
決定打にはならない。
師団長の耐久力が高すぎる。
このままではスタミナ負けする。
俺はモニターを凝視した。
分析。
観察。
解析。
MMO時代。
何百ものレイドボスを研究した経験が脳を回転させる。
そして。
見つけた。
「……あった」
俺はマイクを掴む。
『カレンさん!』
屋上のスピーカーから声が響く。
『左膝!』
『階段トラップで傷めてる!』
師団長の顔が変わった。
図星だった。
『脇腹のプロテクターがズレてる!』
『そこが弱点だ!』
カレンが目を細める。
そして頷いた。
「了解」
師団長が咆哮する。
「黙れぇぇ!!」
突進。
だが。
その瞬間。
影が動いた。
闇風だった。
今までずっと姿を消していた。
「――捕まえた」
短い声。
貫手が師団長の脇腹へ突き刺さる。
「がっ!?」
体勢が崩れる。
そこへカレンが踏み込んだ。
「面ッ!!」
渾身の一撃。
竹箒とは思えない鋭さ。
師団長の頭部へ直撃した。
巨体が揺れる。
一歩。
二歩。
そして。
ドォンッ!!
大きな音を立てて倒れた。
静寂。
誰も動かない。
数秒後。
校内放送が響いた。
『黒死蝶第七師団、制圧成功』
その瞬間だった。
校舎全体から歓声が上がる。
ラグビー部。
剣道部。
保健委員。
生徒会。
全員が歓喜していた。
黒死蝶第七師団は完全に戦意を失い撤退を始める。
学園の勝利だった。
放送室で俺は椅子にもたれ掛かった。
全身の力が抜ける。
「終わった……」
「流石です」
闇風が通信で言う。
「完璧な指揮でした」
「いや」
俺は苦笑した。
「みんなが頑張っただけだ」
その時。
モニターにカレンの顔が映る。
満面の笑み。
そして。
とても嫌な笑み。
「さて」
「藤崎君?」
背筋が凍った。
「あとで色々聞かせてもらえるわよね?」
「……終わってなかった」
俺は絶望した。
学園防衛戦は勝利した。
だが。
俺の平穏な学園生活は、確実に終わりを迎えていた。
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